２２２回目 カラーズカ侯爵の慧眼
タミナルの屋敷に帰って来た翌朝。
二日酔いを防ぐ『ククルコの実』をゲンゴウから貰ったにも拘わらず、飲み過ぎて少し痛む頭を押さえながら、俺は『ガチャ・マイスター』を開いていた。
本当なら朝イチで☆５『技巧神の大工房』を設置しようと思っていたのだが、俺は今ソファーから動きたくない。まあ二日酔いの経験値は多い俺だ、この位ならあと二時間ほど休んでいれば楽になるのも予想がつくので、もうしばらくの辛抱だ。…………ドリンクも飲んでおこう。
「…………旦那。それもしかして、二日酔いに効くヤツですかい？ あっしにもくだせぇ…………」
俺は、俺と同じように隣のソファーでグダッているバルタにもドリンクを渡した。バルタも昨日はテンションが上がって飲み過ぎたらしい。
「うーー…………。お、ストーリークエストが更新されてる。そういや見てなかったな」
新しいストーリークエストは、『『郷愁の禍津像』の破壊』だったが、すでにクリアしている。報酬は☆４『魔王封印の地マップ』だ。マップを持つ者の現在地を中心として、半径１００キロにある魔王封印の地を教えてくれる地図だ。
封印の地を示すのは色の付いた丸で、この色は封印の強さを表しているらしい。青が安全圏で、そこから赤に近づくにつれて封印が弱まっているようだ。
ちなみに俺達が討伐した『キツネ』の封印の地も載っているのだが、白丸に黒でバッテンがしてある。倒した、という事だろう。
…………魔王封印の地は、秘匿されている物もあるみたいだし、これは意外と便利かも知れない。まあ、魔王の封印の地に用があれば、だが。
そして次のストーリークエストが表示される。
「…………フム。次のは『クランメンバーのパーティーを三つ作る』と『『郷愁の禍津像』を三つ破壊する』か。…………もしかして、パーティーでダンジョン攻略をしろって事だろうか？」
報酬はパーティーを作る方が☆４『隠れ蓑コテージ』で、禍津像の方が☆４『禍津像探知機』だ。
…………『禍津像探知機』？ これ絶対に必要なヤツだ。
「…………でも惜しいな。あと一個か。…………ジョゼルフ王に頼んで禍津像を一個破壊してもらうか？ …………破壊してくれるかな？」
禍津像ならカラーズカ侯爵も『モグラ』を持っているだろうが、流石に頼めないよな。カラーズカ侯爵にも何か考えがあってタイミングを見てるんだろうしな。…………ジョゼルフ王もそれは同じか。
「…………何があと一個なんでやすか？」
「ん？ ああ、『郷愁の禍津像』がな。…………次のストーリークエストが『郷愁の禍津像』三体の破壊なんだけど、俺が破壊したのは『キツネ』と『カエル』で二つなんだよ。あと一個、どこかで見つけないといけないんだ」
本当はこういう時こそ『禍津像探知機』が欲しいところだが、それがもう一個の『郷愁の禍津像』を破壊しないと手に入らないんだよな。
「金はあるんだし『郷愁の禍津像』を持ってる貴族から買い取るか？ …………いやでも、変に噂が広まっても困るか。…………やっぱダンジョンにでも行って自分で見つけるしかないかな」
俺がそんな風に悩んでいると、バルタがおもむろに起き上がり、俺が寝そべるソファーの前にあるテーブルに、布に巻かれた何かを置いた。
「何これ？」
「…………本当は再会の時に渡すつもりだったんでやすが、色々と話している内に飲み会が始まったんで、すっかり忘れてやしたぜ」
そう言いながらバルタが布を取ると、そこにあったのは紛れもなく『郷愁の禍津像』だった。
その苦悶の姿は、俺の知っている鳥の姿だ。おそらくは『クジャク』。これは『郷愁の禍津像・クジャク』だろう。
「はっ！？ 何で持ってんだよ！？」
「…………カラーズカ侯爵が持たせてくれた手土産でさぁ。いや、あっしが侯爵の所を離れたのは北の貴族がやらかす前だったんですがね？ カラーズカ侯爵はテルゲン王国の北側が何やらキナ臭い事に感づいてやして、『テルゲンとジョルダンの間で小競り合いがあるかも知れん。ガモンの所に行くなら手土産を持っていくといいだろう。この『クジャク』は、確かジョルダン王国に封印されていた筈だ』との事で持たしてくれたんでさぁ」
「…………流石だな、カラーズカ侯爵。あの人はずいぶん先まで見ている気がするよな」
まあ何にせよ、カラーズカ侯爵のおかげで破壊しても問題ない『郷愁の禍津像』が手に入った。俺は持って来てくれたバルタに礼を言って、『フレンド・チャット』を使ってジョゼルフ王に、ジョルダン王国で封印されている『クジャク』の禍津像を破壊する旨を伝えた。
もちろんジョゼルフ王からの返事は肯定だった。おかげでまた貴重な戦力を戻す事が出来ると喜んでいたよ。
そして累計で三つ目の『郷愁の禍津像』を破壊した俺は、無事にストーリークエストのクリア報酬、☆４『禍津像探知機』を手に入れた。
これで魔王攻略も捗るようになるだろう。『禍津勾玉』も三個目だ。俺達の強化は、順調に進みそうである。
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