214回目 見る程もない戦い
俺の手にある、☆5確定ガチャチケットが二枚と☆5確定のガチャが回せる『禍津勾玉』。
☆5のアイテムが三つも手に入るこの状況に困惑しながらも顔がニヤけてしまう。例えとしてはやはり、めちゃくちゃハマっているソシャゲのプレミアムなガチャだろうか。
まぁ何が出てくるとか分かんないけど、何が出て来ても当たりな感じが凄くイイ。たまらなく楽しい。
だがしかし、と俺はガチャチケットや勾玉をスキル倉庫に仕舞った。理由は単純に、こんな所ではガチャを回せないからだ。
だって何が出て来るか解らないもの。こんなどこに人目があるか解らない所じゃ回せない。何が出て来るかによっては、仲間にすら話せない場合もあるだろう。例えば『原爆』とかな。そんなん出て来たら封印一択である。
なので取り敢えず王都に帰ろう。と移動していた時に、『フレンド・チャット』にメッセージが届いた。それも立て続けに。
「あーー。ちょっと待ってくれ、チャットが来た」
アブクゼニスの一党が乗って来ていた馬達を連れていくとアルグレゴが言うので、俺達は適当な車に乗って王都に向かっていた。
そんな中でのメッセージだったので、俺は車を止めて『フレンド・チャット』を起動した。ながら運転、ダメ絶対。
送って来たのは三名、ジョゼルフ王と王都ギルドマスターのエルドルデ、そしてターミナルス辺境伯であるノルドだ。
三人とも用件は同じ。魔王討伐の報せを聞いてのメッセージである。
「ガモン様、誰からですか?」
「うん、王様とギルマスと辺境伯だな。来るとは思ってたけど、同時に来るとは思ってなかった」
王城と冒険者ギルドとターミナルス辺境伯家の屋敷。あの走った伝令達が同時に着いたとは考え難いな。となれば、おそらく馬を走らせる途中である程度は冷静になり、『フレンド・チャット』の存在を思い出したって所か。
……………………いや、騎士を名乗る者が王様相手にチャットは無いな。なら、三人とも城にいたのかな。詳しい事は解らない。
「…………うーーん、まぁいいか」
この時の俺は首を傾げたが、後で知った所によると、俺達が戦っている間に王都では腐った貴族の一掃作戦が起きており、それによってこの三人は一ヶ所、つまりは王城に集まっていたようだ。
同じ王城とは言え、三人とも個別にやるべき事をやっているので、俺への連絡はそれぞれが、だが同じタイミングで行って来た訳だ。
まぁそんなの、今の俺には知る由もないが。
俺はこの際なので、三人をまとめてチャットで繋ぎ、事の顛末を説明した。そしてその中で、ジョゼルフ王からよく解らない問い掛けを受けた。
「…………ん? どういう意味だ?」
「何がですか? ガモン様」
「いや、ジョゼルフ王から、『緊急クエストの追加はあるか?』って質問が来た」
「追加…………ですか?」
何の話だか解らないが、俺は『ない』と返した。
◇
「…………ふぅ、やはりか」
「どうでしたか、陛下?」
「『ない』そうだ。これで少しは安心できるか。油断は禁物だがな…………」
ジョルダン王国、王城にある執務室で、ジョゼルフ王はタメ息をついた。
ドゥルク=マインドの進言と我聞のスキルの一部であるキャンパーの協力を得て周辺国との国境を監視した結果、テルゲン王国の北西部からの軍の侵入が明らかになった。
総勢で千にも満たない少数部隊だが、その本隊以外にも二つの小隊が独自に動いている事と、ジョルダン王国の北東部に位置する領主が裏切っている事も判明。
その領主がアブクゼニスに近い貴族である事からも、これはアブクゼニスが魔王の封印を解いてジョルダン王国内に混乱を起こし、それに乗じてクーデターを起こすつもりなのだと判断できた。
「しかし、魔王復活による混乱が起きなかったのは大きいですな。ガモン殿のおかげで我々は反逆者どもに集中できる」
「さすがは『勇者様』と言ったところか。ドゥルク翁がガモンは魔王に関わる全てを終わらせる者だと言っていたらしいが、本当にその通りかも知れんな」
魔王との戦いの歴史は古い。まさに大昔から人は魔王と戦い続けているのだ。
しかし倒せなかった。どんなに騎士を育てても魔道士を育てても、果ては異世界の『勇者』を無理やり呼んで戦って貰っても、魔王を倒す事は決して出来なかったのだ。
蓋を開けてみれば、魔王を倒す手段はあった。最初から存在していたものを誰もが気づかずに流していたと言うのも、途轍もない悪夢だ。『郷愁の禍津像』の真実は決して公には出来ない。
何も国や貴族の利権に絡んだ話ばかりではない。公にすれば、『そんな簡単な事だったのか』と自分を攻めて苦しむ者が必ず現れるからだ。大切な者を失った者ほど、その苦しみは大きいだろう。
「陛下。反逆者の討伐にガモン殿の力は借りぬのですか?」
「借りられるものなら借りたいが、それは出来ぬ。ガモンは反逆者が他国と組んで攻めて来るこの事態が、『緊急クエスト』になっていないと言った。ならばこれは、我々の戦いなのだ。ガモンを見守る神が必要ないと断じたものに割り込むなど、それこそ破滅を呼び込むだろう?」
「…………確かにその通りですな。幸いにも日頃の備えが役に立ちそうですので、騎士団を出撃させます。第三から第八までを考えておりますが、いかがでしょう?」
「そちに任せる。余は偉業を成した英雄達をもてなす準備をさせるとしよう」
こうしてガモンの知らない間に、ジョルダン王国とテルゲン王国の戦争は幕を開けたのだった。
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