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212回目 魔王討伐

『グオォォーーーーン!!』


「クゥッ!?」


「な、何て殺気を…………!?」



 もはや完全に魔王の支配下へと堕ち、獣人の姿となった『郷愁の禍津像』。その姿は禍々しく、漆黒の体には紫色の光の線が模様を描いている。


 大きな体に鋭い牙に太い腕。しかもその腕は四本もあり、鋭い爪は一撃で命を奪う事を予感させた。


 仲間達は、その『郷愁の禍津像』の変貌ぶりに表情を険しくした。カーネリアなどは自分の腰に強く抱きついて震えているニッカの背中を抱いている。


 この場に渦巻くのは強烈な殺気と絶望に似た緊張感だ。この中で弛緩しているのは、間違いなく俺だけだろう。



「…………フゥーー。…………ダメかと思った。間に合わないかと思った。だけど結果的には、最高のタイミングでもあったな」



 そう呟きながら、俺は自分の手の内にあるアイテムの感触をたしかめた。前に使った時からちょうど一日が経過し、やっとスキルの倉庫から出せたのだ。


 ☆5『時神の懐中時計』。


 俺はその蓋を開けると、文字盤についた金と銀が半々になった長針を左回りに動かした。



「…………へぇ、こうなるのか」



 針は意外と重くて、ゆっくりとしか動かなかった。そしてその針の動きと連動して、俺以外の時間が遡っていく。


 禍々しい姿の獣人は、その体を徐々に縮めて『郷愁の禍津像』へと戻っていき、魔王も逆歩きをするように体を動かし、俺の仲間達も緊迫した表情はそのままに、いっそコミカルに逆歩きをしていく。


 そして完全に戻った『郷愁の禍津像』を魔王が咥えようと大きく口を開けて迫るその瞬間で、ちょうど60秒、時間が遡った。


 そして俺は時間が再び進む前に、『時神の懐中時計』の上部のボタンを二回続けて押した。その瞬間、世界の時間はピタリと止まったのだ。


 動いているのは俺と、『時神の懐中時計』の銀の針だ。何となく理解する。時間を遡った直後に止められるのは120秒。銀の針の一周で60秒。そしてその次には金の針が動き、60秒を刻むのだろう。それで、止められる時間は終了である。



「さて、急ぐか」



 俺は魔王の開けた口の先にある『郷愁の禍津像』を回収し、その場を離れた。


 そして開けた場所にスキル倉庫から『生活ガチャ』で出て来た大きな鉄板を敷き、その中心部に粘土を使って『郷愁の禍津像』を簡単に固定する。


 そして鉄板の外に出ると、『郷愁の禍津像』の真上にスキル倉庫に繋がる穴を開き、そこからあるアイテムを落下させる。


 クリムゾン・アントとの戦いの時に、キャンパーは俺の大切な『ランブルクルーザー』を上空から落としてクリムゾン・アントを潰した。


 あれは悲しかったが、それと同時にいつかコレをやってみたいと思っていたのだ。


 スキル倉庫の穴から出て来たのは、超重量級のあの車体である。その名は☆4『ロードローラー(10t)』そう、つまりアレである。あの有名な漫画のセリフだ。…………悪役のだけど。



「『ロードローラー』だ!!」



 ここまで重量のある物で潰せば、間違いなく粉々である。しかも時間を止めてコレを言えるとか、完全にワールド的なアレですよ。



「…………あれ? …………あぁ、そうなるのか…………」



 満を持して落としたロードローラーは、しかしスキル倉庫の穴から完全に出た所で動きを止めた。どうやら、時間を止めた上で出した物は、俺やスキルから離れた途端に止まるらしい。


 まあでも、問題は無いと俺は判断した。ロードローラーの落下は止まってしまったものの、その落下先に『郷愁の禍津像』があるのならば問題ない。こんなデカくて重量がアホほどある物体が落ちてくる訳だから、結果は何も変わらない。



「…………残り時間は40秒か。それなら!!」



 俺はきびすを返すと、魔王の所までいき、大きく口を開けて止まっている魔王に『竜爪の戦斧』を振り下ろした。そして残りの時間を使って動けない魔王を幾つかに切断すると、『時神の懐中時計』を確認した。


 残る時間は5秒。…………4…………3…………2…………。



「時は動き出す」


『…………!!??』



 時間が動き出すと共に、魔王はその身を崩し、いつの間にか側にいる俺に驚愕の眼を向ける。


 そして魔王の眼は自身の本体である『郷愁の禍津像』へと引き付けられ、…………それを見た。



『ギャルルルルッ!!??』



 それは、あるいは断末魔だったのか。魔王『キツネ』の唸り声を聞きながら、俺は『ロードローラー』が轟音をたてながら『郷愁の禍津像』を押し潰すのを目撃した。



「ガ、ガモン様!? いつの間に前に…………!?」


「な、何が起きたんだ!?」


「魔王が…………消えていく?」


「あぁ、心配しなくていい。…………終わった所だ」



 仲間と会話をしている間にも、ビシィッ!! と、細切れの魔王に更にヒビが入り、魔王の体が霧散していく。



『『オォォオオォォ……………………!?』』



 そして魔王の体が消えていくのと同時に、眷族達も姿を消していき、後には眷族達に利用されていた兵士の遺体だけが残った。


 魔王『キツネ』、完全討伐。この世界は初めて、世を脅かす魔王を『封印』ではなく、『討伐』する事に成功したのだ。

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[一言] ロードローラーだッ(2回目)
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