211回目 絶望と安堵
『ガルルルルッ!!』
「ヌゥッ!? 重い! だが、ナメるなぁ!!」
「父上!! 上に!!」
喰らいついて来た魔王の牙を剣で受け、一瞬押し込まれたアルグレゴだったが、歯を食いしばって押し返した。そして息子であるアレスの声に従って魔王の首を掴み、自分の倍はあろうかという魔王を振り回して上空へとぶん投げた。
『ギャルルッ!!』
上空へと投げられた魔王は空中にも拘わらず体勢を立て直して地上を睨みつけたが、その魔王よりも高い位置に飛び上がっている男がいた。アレスだ。
「『雷神剣・轟雷』!!」
上空で魔王の背後を取ったアレスは『白雷獣の剣』を振り上げており、その剣から迸った蒼い稲妻は一度空に上り、アレスが振り下ろす剣と共に激しい雷となって魔王を貫いた!!
『ギャオオォォォーーーーーーーーッ!!??』
魔王の体を貫いた雷は魔王の体内でも暴れ回り、やがて四方に向かって飛び出した!
たった一撃で特大のダメージを与えるとか、流石はアレスである。
魔王『キツネ』は、その一撃で前足の片方が千切れ飛んで、胴体にも深い裂傷を作った。当然ながら血は出ないが、千切れた足は影となって霧散した。
だが、それは確かに大きなダメージだろうが、既に再生は始まっている。忘れてはいけない。普通の方法では、魔王は決して倒せないのだ。
「その首を貰う!!」
『グルル…………』
「ムッ!? 待てアレス!!」
上空から再び剣を振り上げながら降りてくるアレスに背を向けたまま、魔王の眼が紅く輝く。そしてその口に炎の揺らめきが見えた事で、アルグレゴがアレスに向かって声を上げた。
だが、間に合わない。
普通の動物の動きでは有り得ない捻れ方で地面に伏せていた魔王の首が上空を向き、その口が『ガパァ』と裂けると巨大な炎の玉がアレスに向かって撃ち出された!
「うっ!?」
咄嗟に盾を構えるアレスに迫る炎の玉。
「『ガストブレイズ』!!」
だがその炎の玉は、カーネリアが撃ち出した渦を巻きながら一直線に飛ぶ炎に突かれて、アレスの横を掠めて飛んでいった。
『ギャルルルル……………………!』
炎の玉を逸らされた魔王は影を広げ、眷族の召喚に意識を切り替えた。
「好きにさせるな! 畳みかけろ!!」
俺はスキル倉庫から☆4『竜爪の戦斧』を取り出して走った。
本来の俺では、いくらガチャ書籍でステータスを上げていてもこんなデカブツを持って走れない。だが、今回はスキルをガッツリ戦闘向けにセットしているし、バフも盛りに盛っているので、むしろ軽いくらいだ。
「うおりゃぁっ!! 『竜爪』!!」
そして俺は魔王の影のすぐ外から『竜爪の戦斧』を振り下ろす! すると戦斧の刃から四本の光の爪が現れ、魔王の眷族と影を斬り裂いた。
「『竜爪』! 『竜爪』!!」
「『雷撃剣』!!」
俺は『竜爪の戦斧』を振り回しながら戦斧のスキルである『竜爪』を振り撒き、アレスは雷撃を纏った剣で魔王に斬りつけた!
そして俺の目の端では、俺達が魔王を足止めしている間にシエルが『郷愁の禍津像』を回収し、アルグレゴ小隊の隊員に渡した。
本来の破壊役であるドローンがやられてしまったので、アルグレゴ小隊に破壊を頼んだのだ。
『グルルルルッ!!』
俺達が再び『郷愁の禍津像』を破壊しようとしているのが解ったのか、魔王の体がまた一回り大きくなった。さらに今回は、魔王の眷族にも違う奴等が現れた。頭がキツネで体は人という、いわゆる獣人タイプの奴がどこからか走って来たのだ。
「何だコイツらは!? どっから出て来た!?」
「ガモン様! 彼らの鎧は…………!?」
シエラの声に獣人タイプを観察してみると、それらがジョルダン王国の騎士が装備する鎧を着ているのが分かった。しかも中には、やたらとデップリとした獣人もいる。
どうやらこの獣人達の体部分は、アブクゼニスやその騎士達の死体を使っているらしい。…………そんな事も出来たのか。
しかも、獣人タイプになると体の持つ力は使えるらしく、眷族が一気に厄介な敵になった。
「クソッ!! 耐えろ! 禍津像さえ壊してしまえば俺達の勝ちなんだ!!」
激励を飛ばしながら魔王と相対するが、少しずつ押し込まれていく。完全に押されないのは、シエラが☆5『七星の盾』で魔王の攻撃を吸収し、的確にそのエネルギーを攻撃として放っているからだ。
「…………シエラ。魔王の攻撃を何回か吸収して下がれ、そのエネルギーなら禍津像を破壊できる」
「…………わかりました」
『ガルルルルッ!!!!』
俺達の企みが解ったのか、魔王はその紅く光る眼を大きく見開いて俺達を見た。そして更に体を大きくして覆い被さるように俺達へと叩きつけてきた!!
「「「「!!??」」」」
俺達はその衝撃に耐えるべく身構えたが、魔王の体に触れた瞬間に困惑した。…………その大きな体が、異常に軽かったのだ。
そして俺達に触れて数秒で霧散する魔王の体。一瞬、アルグレゴ小隊が『郷愁の禍津像』を破壊できたのかと思ったが、霧散する魔王の影の中から、通常サイズになった魔王が飛び出すのを見て、俺達は魔王の企みに気がついた。
魔王は、大きく膨れた自分の体を囮として使ったのだ。
「しまった!? …………グッ!? 邪魔をするな!!」
魔王を追おうとする俺達に、獣人タイプになった眷族が襲って来る。俺達はそれを振り払い、魔王の向かった方向に走ると、…………そこでは、魔王が自らの『郷愁の禍津像』をくわえてニヤリと笑っていた。
「「「「…………!!??」」」」
魔王に触れた『郷愁の禍津像』が膨れあがり、魔王よりも大きなプレッシャーを放つ。
その体はどんどん大きくなり、最初から獣人形態をとっていく。
…………『郷愁の禍津像』が眷族化したと言う事は、魔王を倒す術が失われたと言う事だ。仲間達やアルグレゴ小隊の顔にわずかな絶望が混じり、それでも剣を取ろうとする中で、…………俺だけは一人『安堵』していた。
ギリギリだったが、何とか間にあった、と。
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