21回目 マイスター・ショップ
『いらっしゃいませ! 初めてのお客様ですね、マイスター・ショップへようこそ!』
スキル画面のショップアイコンをタップすると、色とりどりのポーションや魔道具っぽい雑貨が並ぶ画面に切り替わり、オレンジ色のショートカットの、活発そうな猫耳のある女性が元気に挨拶してくれた。
『今日は何になさいますか? ここでは、貴方の冒険に役立つ様々な商品を取り扱っていますよ!』
猫耳店員がそう言いながら、クルリと回って端に避けると、その空いた空間にショップメニューが現れた。
フム。取り敢えず売り買いが出来るのか。他にもいくつかメニューがあるが、鍵が掛かっていて選べない。ここにも追加要素があるとか、『ガチャ・マイスター』は幅の広いスキルだ。何が出来るようになるのか予測がつかない。
これが日本のソシャゲなら、ネットで攻略サイトを片っ端から見ているところなのだが、それが出来ないってのは辛いな。
「まあでも、今は買い物だな」
と、俺は商品ページへと進んだ。
「おおっ! …………おぉ……ぅ」
最初の「おおっ!」は、目的の物があった喜びだ。そして続く「…………おぉ……ぅ」は、そのあまりにもな値段に対するものである。
『☆3装備確定チケット』…………大金貨一枚。
『☆4装備確定チケット』…………白金貨五枚。
『☆5装備確定チケット』…………白金板十枚。
…………いやいやいやいや。待って待って。『☆3装備確定チケット』が大金貨一枚はまあいいよ。予想していたし、確率9%で、しかも装備が出るかも分からない物が確定になる訳だから、その価格も理解できる。
でも、☆4と☆5はどういう事だ? 白金貨五枚って五千万円だぞ? ☆5に至っては白金板十枚。つまりは十億円だ。十億だぞ十億。ありえないだろ。
と、そんな事をティムとバルタの二人に投げ掛けてみたのだが…………。
「…………物にもよるけど、安いね…………」
「…………ですね。若様の言うように物にはよると思いやすが、☆5ってのが☆4の更に上位と考えるならば、白金板十枚はアリですぜ。若様の『氷魔弾の弓』なんかも、誰でも装備出来るなら、白金板が何枚も飛び交いやすぜ。それだけの性能と価値が、現段階でありやす」
え? 氷魔弾の弓ってそんなに価値あるの? それをティムは「ちょうだい?」の一言で持ってったの?
…………いやまあ、俺には使えないし氷魔弾の弓もティムに似合っているから良いけども。何か釈然としないな。
そんな事を考えつつ、俺は何の気なしに商品ページを進めていった。するとそこには。
『☆4食品確定チケット』
『☆4生活用品確定チケット』
『☆4???確定チケット』
『☆4???確定チケット』
などと、見知った物以外に『???』で何なのか見えないチケットが並んでいた。当然ながら、見えないヤツはまだ買えないようだが、俺は戦慄した。
何に戦慄したかなんて説明するまでもないが。要するに、え? まだ他にも色々出るの? という事だ。
そして顔を引きつらせながら更に先に進むと、そこには…………。
『☆3装備ランクアップ・クリスタル』
という物が売っていた。お値段は強気の大金貨五枚。日本円にして、五百万円である。…………しかし、しかしだ!
「これだーーっ!!」
「きゃあっ!?」
「だ、旦那! 急に大声を出さねぇでくだせぇ! びっくりするでしょうが!!」
「あ、ゴメン」
ティムが可愛らしい悲鳴を上げ、バルタには文句を言われた。しかし! いま俺が見つけたアイテムの話を聞けば、俺が叫んだ事にも納得してくれるだろう。
何せ俺が見つけたアイテムは『強化アイテム』。値段こそ高いし、☆3のヤツしか無いようだが、これがあれば『ひのきの棒』が持つ熟練度の上限を上げられる筈だ。
大金貨五枚分だと、ガチャにすれば50回分だ。☆3の出現率は9%だから上手くいけば五個くらいは☆3が出る計算だ。しかし、それはあくまで計算上の話であり、首尾よく出たとして、ひのきの棒が出るとも限らない。
それを考えるならば、大金貨五枚というのも決して高くはない、適正価格なのも知れない。
「…………つまりそれがありゃあ、ひのきの棒をあと三本集めなくてもすむって事ですかい!?」
「そうなるな!」
「買いやしょう! 三本分で大金貨十五枚、あっしが出しやす!!」
そう言うや財布を取り出し、白金貨一枚と大金貨五枚を差し出すバルタに苦笑して、俺はその金をスキルにチャージした。
そして『☆3装備ランクアップ・クリスタル』を選んで買った訳だが、クリスタルを二つ買った所で表示が暗くなり、買えなくなってしまった。
暗くなった表示の下には新たに数字が並び、『30日後解放』となっている。
「ああーー、上限があった。二個までしか買えなかったな」
「うえっ!? 一個足りねぇんですかい!?」
「ああ、クールタイムがあるな。30日後解放、だそうだ」
「ひと月か。まあ、そんなに甘い話は無いって事だな」
ティムはこの仕様に納得したようだが、バルタは悔しそうだ。そして案の定、「あと一本が出るまでガチャを回しやしょう!」とか言って来た。ソシャゲの罠にガッツリ掛かった感じである。
「あと一本だからな。もう二本は出てるんだし、もう一本くらいならすぐ出るだろう」
「甘いなティム。この世にはな、世にも恐ろしい妖怪がいるんだよ。妖怪『あとひとつ足りない』。コイツは強力な物欲センサーを持っていてな、欲しければ欲しい物ほど出難くするんだ」
「…………なんだよそれ。意味がわからない」
この妖怪には俺も何度も遭遇しているし、苦しめられた人間を何人も知っている。と言うか、おそらく遭遇した事が無い人間はいないんじゃないかってくらい、よく出る妖怪なのだ。そのクセ鬼強い化物だ。
今は信じていないティムも、すぐにこの妖怪の恐ろしさが解る筈だ…………。
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