207回目 魔王『キツネ』封印の地
小高い丘になっている森の頂上付近に、魔王『キツネ』が封印された社はある。
現代の日本では珍しい、ボロボロの白い土壁に囲まれた中にある社は、それを知るカーネリアの話から察するに『稲荷神社』だ。
扉の無い紅い門の奥に、キツネが向かい合う石像があって、その向こうに朱色の社がある。カーネリアの話で前半に出て来たそれは、きっと『鳥居』と『狛犬』の事だろう。
作ったのは日本人で確定だな。それも結構信心深い人のようだ。もしかしたら、俺とは生まれた時代が大分違うのかも知れない。
俺はそんな事を考えながら、森の中に潜んで丘の上に続く石段と、その先に見える白い土壁を見上げる。
「…………見張りとかいないんだな。いくらなんでも、油断しすぎじゃないか?」
「まあ、無理もないでしょう」
上にはアブクゼニス公爵本人がいるはずなのだが、社の周りにも森の周りにも見張りらしい騎士や兵士はいなかった。社まで続く階段を堂々と歩いても気づかれないのでは? とすら思ってしまう程だ。まあ、やらないけど。
流石にここからでも社の敷地内には騎士がいるのが見えるからな。階段を行けばバレるだろう。
「敵は偽装工作をしていますし、まさかもう気づかれているとは考えていないのでしょうな。何かあれば王都から報せが来るようにはしているでしょうし、王都での電撃作戦が成功しているという現れです」
敵が気づいてないのも頷けると、アルグレゴが解説した。確かに、時間的に言えばターミナルス辺境伯家かわ襲われてから丸一日は経っていない。何せまだ、☆5『時神の懐中時計』のクールタイムが終わっておらず、スキルの倉庫から取り出す事もできないからだ。
確かに、この早さで俺達がアブクゼニスの謀略に気づいて行動しているとは思わないだろう。そこが狙い目な訳だが。
────時は少し遡って。
「…………いいか皆、今日中に全て決着をつけるぞ」
数時間前、俺がそう言った時には、流石に反対意見もあった。『緊急クエスト』が破滅に繋がっているとしても期限は四日。ニッカ救出を含めても二日は余裕がある。いきなり今日、動かなくても良いのではないか? 今日は準備にあてて、明日万全の態勢で臨むべきではないのかと、そんな意見が多数を占めた。
だが、俺には思っていた。この期限はまやかしだと。
今回の緊急クエストは、『魔王種『キツネ』の討伐、もしくは封印』だ。そしてその報酬は☆5確定のガチャチケット。それも『討伐』の場合は追加報酬でもう一枚付いて来るというオマケ付きだ。…………これがヤバイ。
考えてもみてほしい、☆5がどれだけヤバイか。本来ならこれ一枚でも破格の報酬なのだ。☆5相当と言われる☆4クラッシュレアも報酬にあった事はあるが、あれは緊急クエストの『初回クリア報酬』の意味合いが強かったのだと、俺は見ている。
それが、クエストクリアでまず一枚。そして追加報酬でもう一枚というのは、あまりにも報酬がデカ過ぎる。これはつまり、今回の『緊急クエスト』の難易度の高さを示しているのだ。
追加報酬が支払われる魔王『キツネ』の討伐はまず不可能。通常の封印にしても達成できる可能性は低い。そう判断されての報酬なのだろう。
「要するにだ、今この瞬間にも魔王『キツネ』は復活しているかも知れないって事だ。いいか、討伐の方法は『郷愁の禍津像』を破壊する事だ。そして、今その『郷愁の禍津像』はアブクゼニスが持っている。で、『討伐』が出来なくなる条件はなんだ?」
「それは『郷愁の禍津像』が破壊できなくなる事ですわ。…………!! 魔王と『郷愁の禍津像』が出会ったら!!」
「『強力な魔王の眷族』が現れる!! そして『郷愁の禍津像』はまた行方を眩ませる!?」
「そういう事だ」
俺の言いたい事に、シエラとアレスが気づいた。そうだ、『郷愁の禍津像』を破壊出来なくなると言う事は、『強力な魔王の眷族』が出現して『郷愁の禍津像』が失われると言う事になる。この可能性に気づいた俺の仲間やアルグレゴ小隊は顔面を蒼白にした。
緊急クエストの内容では、ニッカが生け贄にされるのは二日後となっていたが、魔王の復活はそれとイコールではないのだ。それは正に主犯であるアブクゼニスの気持ち次第だ。
「だから今日中にケリをつける。出来る事なら魔王は討伐しておきたい。ここで失敗すると、魔王と眷族に特別な眷族まで相手をした上に『封印』しか出来ないんだ。しかも『郷愁の禍津像』までどっかに行ったら、今日の危険をそのまま抱え込む事にもなるんだ。…………まだ反対のヤツはいるか?」
俺の問い掛けに対する明確な答えは無かったが、この場にいる全員が、覚悟を決めた顔になった。
────再び現在。
俺達は魔王封印の地である小山。その木が生い茂る斜面を上る。見張られていない事は解っているが、うっかり見つからない様に最新の注意を払い、決して油断しないように。
そして社を囲う白い土壁に迫った所で、俺達は足を止めた。ここからが、作戦の開始である。
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