206回目 王都騒乱
その日、王都は騒然とした。
王家直属の騎士団が、とある大貴族家とその繋がりのある貴族家や商家を襲撃したからだ。
国から民に向けては何の発表もなく、奇襲以外の何ものでもない暴挙。だか、それに対して襲われた大貴族家以外の大貴族はもちろん、冒険者ギルドも一切動かなかった。
王家直属の騎士団に急襲された大貴族家はアブクゼニス公爵家。王家の血筋にも繋がる上に、当主のアクダイカーン=アブクゼニス公爵にいたっては、かなり遠いが王位継承権すら持っている。
そんな大貴族を、忠誠を捧げられている筈の王家が潰しに掛かったのだ。その驚愕は筆舌に尽くし難く、誰もが唖然としていた。
だが、その驚愕はあくまでも何も知らない民に限っての話だ。王都冒険者ギルドのギルドマスター『エルドルデ』はもちろん、アブクゼニス公爵家とは繋がりの無い、または繋がりの極めて薄い貴族家には密かに王命が届いており、その内容は『アブクゼニス公爵家の謀反に対する処罰』となっていたので、動かなかったし、口を開かなかったのだ。
そして当然だが、王家直属の騎士団に急襲された貴族家や商家の絶望たるや、晴れ晴れとしていた王都の空に暗雲が立ち込める程の物だった。
「私が何をしたと言うのだ!? ただアブクゼニス公爵に命じられて兵を貸しただけじゃないか!! それの何が法に触れるんだ!? モンスターの討伐や外壁の修復に兵を使うなど、よくある事だろう!!」
騎士団に捕らえられて、そう喚くのはアブクゼニス公爵家の寄子であるダマウッチー伯爵だ。
これは何かの間違いだ陰謀だと、押さえつけられながらも抗議の声を上げている。だが、騎士団がそれに取り合う事は無い。何故なら既に、彼らのしてきた背信行為を突き止めているからだ。
「私は常に王家の為に働いて来た! その私を、こんな騙し討ちで失脚させるのが王家のやり方なのか!! こんな事では決して人はついて来ぬぞ!!」
「…………いい加減うるさいな。黙っていろ売国奴が!」
「な、な、な!? 何だと貴様ぁ!? この私を売国奴などと! よくもそんな…………」
「あと少しで開通するんだったか? 王都の壁を潜り抜けられるトンネルが。入口はスラム街とゴミ捨て場とサギスキー子爵の所の商家だったな? それが外の森にまで通じているのだときいたが、いったい何を呼び込む気だったんだ?」
「……………………は?」
アブクゼニス公爵の寄子は、金やら兵やらを提供している事が多い。だがそれは、老朽化が進む王都の外壁の修理や、王都周辺に生息するモンスターを狩る為だと、皆が周知していた。
だが、その中においてダマウッチー伯爵とサギスキー子爵には別の命が下されていた。つまり、『王都の防衛力に穴を開けよ』だ。
これは明らかな背信行為だ。そしてそれがもうすぐ完成すると聞けば、王都の防衛を担当している全員が顔を青くしたのも当然である。
「…………バカな…………。な、なぜバレたのだ…………。ど、どうして…………」
あまりの絶望に表情を失くしたダマウッチー伯爵の心の声が漏れる。無理もない。ここまでの事をしでかせば、罪はダマウッチー伯爵本人だけでなく、ダマウッチー伯爵家に連なる全ての血縁者にまで及ぶのだから。
全員が死罪という訳ではないが、貴族としてはもう終わりだろう。
ターミナルス辺境伯家が襲撃されてからまだ丸一日と経っていないにも関わらず、事態は大きく動いていた。それは我聞のスキルによる所も大きいが、王都の騒乱に関してはドゥルク=マインドの手柄である。
『…………フム、弱いの。アブクゼニス公爵ほどの者が大きく動くのだから、狙いは王位の簒奪であろう。だが、果たしてそれを『魔王』などと言うどう動くかも解らん物だけに頼るだろうか? 儂なら、それは無いのぅ。…………どれ、少し見てみるとするかの』
そう言って『◇キャンピングカー』の外に出たドゥルクは、その魔力を王都全体に広げた。
幽霊となってから溜め込む魔力に上限が無くなり、我聞から提供される質の高い食事によってドゥルクの魔力量は全盛期すら越えた量となっていた。生きている時とは違い自然に回復する事はないが、我聞の所にいる限り魔力の元になる食事の心配は無いので、遠慮なく無駄使い出来るのだ。
そして地下にまで広げた魔力によって掘られているトンネルを複数発見。その報を受けた宰相が騎士団を向けて調べてみれば、ダマウッチー伯爵とサギスキー子爵による物だと判明。そのまま流れるように大捕物へと発展した。
アブクゼニス公爵家がいったい誰と組み、どのタイミングで王都を襲撃させるつもりだったのかはまだ解らない。だが何よりも優先されるのは、その穴を塞ぎ、獅子身中の虫を悉く潰してしまう事である。
何せ『緊急クエスト』によって今がジョルダン王国存亡の危機である事が解っているのだ。ジョゼルフ王は、『従わない者は斬り捨てよ!』とまで厳命した。ここまで忙しなく、ほとんど直感的に命じるのはジョゼルフ王としても初めての事だった。
騒乱の王都。アブクゼニス公爵に味方した者達の絶望の嘆きはついに雨を呼び、雨が降る中で多くの者が捕らえられていった。
◇
そしてジョルダン王国で大捕物をしているその頃、我聞のパーティーとアルグレゴ小隊は、魔王封印の地の目前にまで迫っていた。
巨木が立ち並ぶ森の中に。まるでそこだけが異世界であるかのように、赤い鳥居と石段が丘の上にある社まで続いていた。
面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。
モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。




