204回目 黒幕バレバレ
カーネリアをフレンドに加え、今回の報告をジョゼルフ王と宰相にフレンド・チャットでした後。ニッカを拐っていった男達を、ドローンを飛ばして追い掛けていたキャンパーから報告が入った。
上手くすれば、キャンパーは敵のアジトまで突き止めたかも知れないと期待していたのだが、現実はそう甘くない。
昨日の敵の精鋭はドローンの追跡からも逃げ切り、敵の内、金で雇われたと思われる者達はその精鋭に殺されたらしい。
「仲間を殺した? 口封じか?」
『はい。それと偽装工作ですね。殺した後に、彼らの装備を取り替えていました』
キャンパーが現場の写真を二枚、空中に投影する。一枚は偽装前でもう一枚が偽装後の写真だ。それを見ると、確かに死んだ男達の武器が変わっている。刃の付け根部分に紋章が掘られているのだ。
「これって、『ルフタング侯爵家』の紋章じゃない」
「ルフタング?」
「ええ。ロイエン宰相の家よ」
カーネリアの言葉を聞いてもう一度その紋章を見る。わざわざこれに変えたって事は、敵はこの屋敷を襲った罪をそのルフタング侯爵家に擦り付けるつもりなのだな。
『この紋章を証拠として罪を他家に擦り付けるつもりならば、敵は大きなミスを冒しています。コチラの映像を見て下さい』
そう言ってキャンパーが出したのは、敵が偽装のために仲間を斬り殺した時の映像だ。キャンパーは、その映像を流し、あるタイミングで映像を止めた。
それは、敵が仲間を斬り殺すその瞬間だった。そして俺達がその映像に顔をしかめる中で、キャンパーは映像の一部を大きく拡大して見せた。
それは斬り殺そうと剣を振り下ろす男の持つ剣。その刃の付け根部分だった。そこには当然、『ルフタング侯爵家』とは別の家の紋章が刻まれていた。俺達を襲った時は流石に別の剣か『ルフタング侯爵家』の剣を使っていたのだろうが、ここに来て油断したのだろう。
まさかドローンで撮影をしながら見ている奴がいるとは、夢にも思わないだろうからな。
そしてその紋章については、カーネリアが知っていた。
「嘘っ!? これって『アブクゼニス公爵家』の紋章だわ!! 王家との血縁関係もある大貴族よ!?」
「アブクゼニス? 何だよその冗談みたいな名前」
如何にも金が好きそうな名前に苦笑したが、その直後には当主のフルネームが『アクダイカーン=アブクゼニス』だと聞いて爆笑してしまった。アブクゼニス公爵家は当主がこの名前を代々継いでいるらしく、それ絶対に日本人の仕業だろと確信した。
たぶんアブクゼニス公爵家の先祖がまんま悪代官で、それを懲らしめた勇者がアクダイカーンの名を継げとか言ったに違いない。じゃなきゃ絶対にそんな名前にならないもの。何だよ『アクダイカーン=アブクゼニス』って。
いやぁーー、解りやすいわぁーー。その家がどんな家なのか一発で解るいい名前だわぁーー。もしかしたら過去の勇者から未来の勇者に向けた注意喚起だったりするんだろうか? さすがに無いか。
「まぁそれはともかくとしてだ、黒幕が証拠付きでバッチリ解ったな。これは王様や宰相にも見て貰いたいな、そのアブクゼニス公爵家の情報も欲しいからな。ドローンを一機だけ城に派遣するか?」
『それでしたらマスター。ワタクシに権限を下さい』
「権限? 何のだよ」
『『フレンド・チャット』に介入する権限です。それを貰えるのでしたら、この画像や映像を『フレンド・チャット』に載せる事が出来ます』
「…………そんな事が出来るのかよ。…………よし、ならグループチャットで人を集めてまとめて公開しようか。キャンパー、解りやすく編集できるか?」
『可能です、お任せを』
こうして、アブクゼニス公爵家が企てた今回の襲撃は、その偽装工作まで含めてしっかりと関係者の中で共有される事となった。
ちなみに、それらの証拠を見て一番怒っていたのは、もちろん濡衣を着せられそうになっていたロイエン宰相である。
◇
「…………で、本気になった宰相のおかげで、随分と情報が集まったな。この屋敷の見取図とか、どうやって手に入れたんだろうな? こういうのは普通、機密なんじゃないのか」
証拠を『フレンド・チャット』で共有した次の日、さっそくロイエン宰相からアブクゼニス公爵家についての資料が届けられた。
その資料には、アブクゼニス公爵家の詳しい情報や屋敷に別邸の場所とその見取図、さらには繋がりのある貴族家やら商家やらの情報までこと細かく書いてあった。
もちろん国としても、今回の件について力を貸してくれると言う。ただし、どこにアブクゼニス公爵家の息の掛かった者がいるかまでは把握出来ないので、ニッカの救出までは俺達で行う事になっている。兵やら騎士やらを総動員して、結局敵にバレたらニッカの命が危ないからな。
だが、ターミナルス家の兵なら使える。彼らやアルグレゴ小隊の面々は、自分達の留守を狙われてターミナルス家の使用人に犠牲が出た事にかなり怒っている。彼らの中に裏切り者はいないだろう。
そして俺はロイエン宰相から貰った資料を元に、拐われたニッカを探すべくキャンパーに命じてドローンを派遣させた。
…………その直後だ。俺のスキルから『緊急クエスト』を告げるアラームが鳴り響いたのは。
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