202回目 認められない現実
「カーネリアさん!! いま治癒を!!」
「ダッカ! お前はこっちに…………!?」
血溜まりの中にいるカーネリアとダッカに近づいた所で、部屋の中にあった戸棚の陰から、急に黒ずくめの男が現れた。
どう見ても人が隠れられるような陰では無いのに、音も無く現れた男は強烈な殺気を放っており、それは俺達の足をすくませた。
「…………死ね」
「……………………グハッ!?」
男の手がブレたと思った瞬間、男の手から真っ黒な刀身のナイフが放たれ、それは真っ直ぐに俺の首に突き刺さった!!
「ガモン様!?」
「…………!!」
首に突き刺さる衝撃があり、俺がこれはヤバイと思った瞬間、俺の目の前の空間にヒビが入って弾け飛ぶ。
「なんだと!?」
空間が弾けると同時に俺の首は瞬時に治った。そして俺に刺さった筈のナイフは空中で割れ落ち、更に俺の左手の人差し指からは、指輪が弾け飛んだ。
弾け飛んだのは、☆4装備『身代わりの指輪』だ。アクセサリー装備で、そのスキルは『身代わり』。読んで字の如く、装備者の命を脅かす事態を、一度だけ代わりに引き受けてくれるスキルであり、俺はシエラに言われて、念の為にそれを身に付けていたのだ。
「…………ハァッ!? 今のはヤバかった!?」
「…………クソ!?」
「させません!!」
腰の後ろから剣を抜いて向かってくる黒ずくめの男にシエラが向かい、振るわれる剣の腹を拳で突き上げると、そのまま体を捻って背中から男に体当たりを喰らわせた!!
「ガハァッ!?」
「もう一人いるぞ!!」
「チィッ!?」
黒ずくめの男が崩れ落ちるように倒れる中でアレスの声がしたかと思うと、なんの変哲もなかった壁からもう一人の黒ずくめの男が出現し、ソイツはアレスが放った雷撃でふっ飛ばされた!
「なんだコイツらは!?」
「暗殺者です、おそらく狙いはガモン様だったのでしょう。それより今は!!」
俺の問いかけに答えて、シエラは今の騒ぎにも何の反応も示さなかったカーネリアに駆け寄った。
俺はそのカーネリアの腕からダッカを引き取り、シエラに治癒魔法をかけられるカーネリアを見守った。
…………だが、少しの間治癒魔法をかけ続けたシエラは、その手から緑色に輝く治癒魔法の光を消して、苦しそうに呟いた。「…………ダメでした…………」と。
何があったのかは状況を見て大体解っていた。カーネリアはニッカとダッカの二人を護ろうと敵と戦ったのだ。そしてダッカを庇って攻撃をまともに受けたのだろう。何故ならカーネリアの腹部には、大きな穴が空いていたのだから。
そしてシエラの治癒魔法では、その穴は治せず。カーネリアはその命を落としたのだ。
「……………………認められるか!! キャンパー!! 何処にいる!?」
『ワタクシをお呼びですか、マスター。屋敷内の殲滅は終わりましたが逃げた者もおりますので、ドローンを一機追跡に…………』
「そんな事はどうでもいい!! 直ぐにドゥルクに言って、『霊酒の壺』の酒を持って来い!!」
『かしこまりました。直ぐに持って行きます』
その返事をしてキャンパーは黙り込んだ。今はキャンパーの本体がドゥルクの元に行っているのだろう。あとは別のドローンで持って来る筈だ。
そしてその間に、俺はスキルの倉庫から☆5『時神の懐中時計』を取り出して装備した。
「それは!? …………それを使うのですね」
「これしか無いだろ。ただ、五分前にはアイツらはまだ潜んだままだ。シエラ、アレス。お前らも一緒に来てくれ」
「はい、もちろんです。敵の始末は任せて下さい」
『マスター、『霊酒』をお持ちしました』
キャンパーから受け取った本当にちいさな小瓶には、ひと口分にも怪しい程度の『霊酒』が入っていた。俺がそれを受け取ると、シエラとアレスが俺の肩に手を置いたので、俺達は軽く視線を交わした。
「いくぞ!!」
そして俺が『時神の懐中時計』の時空針を押し込むと、時の流れはピタリと止まり、世界は300秒ほど時間を戻した。
それはまるで、録画した番組を早戻ししているかのような光景だった。
戻る時間は300秒前の世界で止まり、その世界にいた俺とシエラとアレスが、止まった時の世界の俺達に融合して『時神の懐中時計』は勝手に俺のスキル倉庫へと戻り、世界は再び動き始めた。
「なっ!!??」
そこはまだ、アレスが敵を斬り捨てる前の世界であり、唐突に戦っていたアレスの姿が消えた事に驚きの声が上がった。
そして、その時に戻ってからの俺達の行動は早かった。
まずカーネリアに駆け寄った俺はダッカをカーネリアから引き離した。
その間には、何が起きたのかと呆然とする敵との間を詰めたアレスが敵を一撃で斬り捨て、更に壁に向かって雷撃を放ち、壁にいた黒ずくめの男を撃ち倒す!
戸棚の陰にいた黒ずくめの男は、咄嗟の判断に優れていたのかカーネリアに駆け寄った俺にナイフを飛ばして来たが、シエラはあっさりとそれを叩き落とし、驚愕する黒ずくめの男に肉薄してその体を掴み、大きく振り回してその男を床へと叩きつけた!
そんな中、俺が抱き上げたカーネリアはまだ僅かに心臓が動いていた。
俺は直ぐに『霊酒』を飲ませようとカーネリアの口をこじ開けるが、そこには血が溜まっていたので、俺は小瓶の霊酒を自らの口に含んで瓶を捨てると、カーネリアの体を傾けて血を吐き出させ、口移しで『霊酒』をカーネリアの喉に流し込んだ。
ひと口分にも怪しい量しか無い『霊酒』だったが、その効果は絶大で、カーネリアの身体は一瞬だけ黄金に光ったかと思うと瞬時に修復され、カーネリアは身体を一瞬だけ強ばらせてから、大きく息を吐いた。
「ガモン様! カーネリアは!?」
「…………ああ、大丈夫だ。ちゃんと生きてる」
俺のその言葉に、シエラとアレスもまた、大きく息をついたのだった。
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