20回目 おねだり
「旦那! ぜひお願いしたい事がありやす!!」
俺達が馬車に戻るやいなや、バルタが馬車から飛び降りて地面に手つき頭を下げてきた。
「わ、解ってるよ。検証もしたいし、バルタがいいなら、俺のフレンドになってくれ」
「是非ともお願いしまさぁ!!」
ティムがガチャ装備である『氷魔弾の弓』を使い、コボルトを圧倒していたのは、当然のことながら御者兼護衛のバルタも目にしていた。
バルタは俺以外が装備出来ないはずのガチャ装備をティムが扱った事に驚いたが、すぐにそれが俺とフレンドになった事で実現したのだと気づいた。
自らの目的の為に、気絶スキルのある『ひのきの棒』を欲しているバルタは、それに思い至ってすぐに俺に頼んで来たのだ。
俺としても、本当にフレンドになればガチャ装備が使える様になるのかを検証したいと思っていたし、その相手は信用できる者の方が良かったので渡りに船だった。
俺はすぐに『ガチャ・マイスター』を発動して、バルタをフレンドとして登録した。
そしてバルタにひのきの棒を渡してみると、当然のようにバルタもひのきの棒を扱える様になっていた。
「うん。やっぱりガモンのフレンドとなる事が、ガチャ装備を扱う条件だったみたいだね?」
「だな。…………ところでティム。氷魔弾の弓をずっと持っているのは何でかな? それ、☆4の強力な武器なんだけど…………?」
俺がそう指摘すると、ティムは俺の手を両手で包み込むように持ち上げると、可愛らしい少女の顔で上目遣いに「ちょうだい?」と言って来た。
うっわ! コイツずるい!! これからも『ティム』として振る舞うとか言ってた癖に、アッサリと『ティアナ』出して来やがった!!
いや惑わされないよ!? 俺だって恋人の一人や二人は…………いなかったけども! 大人ですよ? こんな、こんなお前、凄く可愛くていい匂いがして手が柔らかい超絶美少女にお願いされたくラらぁァあがガガガ…………。
「ね? ガモンさん。私にこの弓ちょうだい? 絶対に大事にするから。ね? いいでしょう?」
「…………ま、まぁ、お、俺は弓使えないし? や、やっぱ弓も、使える人に持っていてもらった方が、いいかなぁ…………なんて…………」
「なら決まりだな。この氷魔弾の弓は、僕が使わせてもらうよ」
し、しまった!? お、俺はなにを!?
「…………旦那ぁ、このひのきの棒、あっしにぃ…………」
「うるさい黙れダメに決まってんだろブッ殺すぞ」
「チッ、やっぱりダメですかい」
当然だ。オッサンが猫なで声を出しても殺意しか湧かない。むしろティアナの余韻を返せこの野郎。
「まあそんな冗談はさておきとして。旦那、あっしはこの『ひのきの棒』が欲しいんでさぁ。それも、スキルが完全なものになったヤツをね」
「ああ、それは解ってるよ。でも、バルタだって知ってるだろ、それが難しい事は」
「もちろんでさぁ。でも、それが不可能とまではいかない事も知ってますぜ。何せ旦那のスキルは特殊すぎる。あっしらに教えていない事が、きっとまだまだ有るんでやんしょ?」
「まあ、それは当然だよな。…………ちょっと待っててくれ、バルタ。少し考える」
俺はそう返事をしながら、『ガチャ・マイスター』を発動させ、ガチャメニューを開いた。そしてノーマルガチャをタップする。
いまだ装備ガチャが出てない以上、ひのきの棒を手に入れられるガチャはこれだけだ。
ただ、これでひのきの棒をあと三本も出すのはキツイ。ひのきの棒は☆3の武器なのだが、そもそも☆3が出て来る確率が9%。それから更に何が出て来るのかが決まるのだが、武器・防具・生活用品・食品と、このノーマルガチャから出て来る物はとにかく種類が多いのだ。
ガチャ自体は金でも回せるが、そもそも☆3が出て来ない事すらあるのだ。その中で武器が選ばれ、更にひのきの棒が選ばれるってのは、どんだけの確率なのか。ひのきの棒が既に二本出ている事が、もはや奇跡に近い話に思えるのだ。
とまあ、前置きはこの辺にして、俺はその『装備が出づら過ぎる問題』を解決する糸口を見つけた。
もちろん一番早いのは、装備ガチャの実装な訳だが、それが無くとも、ある程度の装備はそう苦労する事なく揃うはずなのだ。
なぜなら、新たなストーリークエストに表示されたクエストが二つあり、一つは『冒険者ギルドに加入する』で、もう一つは『装備ガチャを一式揃える』だからだ。
この異世界暮らしをストーリーとして捉えるならば、今はまだ序盤だ。その序盤の簡単であろうストーリークエストにこれが並ぶという事は、その方法があるという事だ。
「まあ、一番怪しいのは、やっぱりこれか」
俺が目をつけたのは、画面の下に並ぶアイコンの一つ。『マイスター・ショップ』である。
ソシャゲでのショップと言えば、ゲーム内の金銭か、リアルマネーでゲームを有利にするアイテムを買う場所だ。
俺は、おそらくこのショップでは、『☆3以上確定! ガチャチケット!』のような確定チケットが買えるのではないかと、予想しているのだ。
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