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2回目 外れスキルの勇者

「…………なんだそれは? 衛兵! 持ってまいれ!」


「「ハハッ!!」」



 俺がスキルの『ガチャ』で出したアイテムを二人の兵士が勝手に回収し、王様の前に持っていった。それをまずはハゲチョビが見分し、王様も手に取った。


 王様の手にある『うめえ棒サラミ味』。中々シュールな光景である。


 やがて何本かの『うめえ棒』を触った王様が、ただの木の棒に見える『ひのきの棒』を軽く手に持った後で、隣のハゲチョビに何かを囁いた。



『勇者殿! これらのアイテムがどの様な物で、どんな力を秘めているのか、嘘偽りなく答えよ!!』



 …………どんな力って言われてもなぁ。たぶん見たままだろ、コレ。



「…………えっと。…………その木の棒と靴は見たままで、残るパッケージは、駄菓子…………子供のおやつです」


「…………おやつ? 食い物という事か。…………食すと何が起きるのだ?」


「たぶん何も起きませんが?」


「なに?」


「いや、俺の国ではどこにでも売っている、最安値のお菓子なんで…………」


「…………誰か、食してみよ」



 ハゲチョビの命令で、若い兵士が『うめえ棒サラミ味』を手に取った。そしてコッチを見るので、俺が袋の開け方をジェスチャーで教えると、袋を開けて『うめえ棒サラミ味』に少しだけ齧りついた。



「…………うまっ……!」



 驚愕に眼を見開く若い兵士。うん、うまいよね『うめえ棒』。


 若い兵士がサクサクと『うめえ棒』を食べ終えると、驚く事にその手に残っていた包装紙が煙のように消えた。


 おおっ! スゲェ、ゴミが残らない仕様なのか!



「どうだ?」


「ハッ! …………初めて食べる物でしたが、強いて言うならば、塩辛いラスクに近いでしょうか。味は濃いのですが食感は軽く、子供や老人でも食べやすいかと思われます!」



 しっかりと『うめえ棒サラミ味』の食レポをした若い兵士に、ハゲチョビは少し頭を抱えて溜め息をついた。



「そんな事は聞いとらん! 何か特別な変化は無いのか? 回復したとか、身体能力が上がったとか!」


「…………あっ! …………っと、…………特に変化は感じません…………」


「…………何だと? …………では、この靴を試してみよ」


「ハッ!」



 うめえ棒になんの効果も無いと知り、ハゲチョビは今度は『ランニングシューズ』に眼をつけ、うめえ棒を食べた若い兵士に渡した。


 若い兵士はその場で足の鎧を外し始めたのだが、俺は正直やめて欲しかった。だって、俺のスキルで出てきたアイテムで唯一まともなアイテムなのだ。


 ☆4がどの程度なのかは解らないが、レアアイテムではあるのだ。サイズは見てないが、履けるものなら俺が履きたかった。俺が今履いている安物の革靴よりは、絶対に楽だし。


 しかし無情にも、俺の『ランニングシューズ』の上には、素足となった若い兵士の足があった。


 素足かよーー。せめて靴下履いとけよーー。と言う俺の心の声も届かず、若い兵士の足が靴に触れ…………る寸前で止まった。



「あ、あれ? な、何だコレ?」


「どうした」


「あ、いえ。…………履けません」


「うん? どういう事だ」


「足を入れようとすると、何かに押し戻されて履けないんです」



 そう言って足を下ろした若い兵士とハゲチョビ、ついでに王様の目が俺に向いた。…………いや知らんよ。なんで俺を見ているんだ。



「…………これはどういう事かな? 勇者殿」


「どういう事かなって言われてもなぁ…………。ちょっとその靴いいですか?」



 俺がそう言うと、兵士の一人がハゲチョビに目を向けて、ハゲチョビが頷いた事で俺の元へと『ランニングシューズ』を持って来た。


 うん、見た感じは普通だな。しかし持ってみるとやたら軽い。そしてサイズの表記は無かったが、見た感じ俺の足よりも少々小さい程度だ。履けなくはない。


 俺は今履いている革靴を脱いで、『ランニングシューズ』に足を入れてみた。すると、流石はレアアイテムといったところか、『ランニングシューズ』は一瞬だけ大きく広がったかと思うと、吸い付くように俺の足にピッタリと嵌まった。



「何だコレ、軽っ! 歩きやすそうだし、コレは良い物だな!」


「…………むぅ。…………アイテムを作り出せるとしても、アイテムを選ぶ事は出来ず、その大半は役に立たぬ菓子か。更には別のアイテムが出たとしても木の棒や靴であり、しかもそれを装備できるのは出した当人だけ…………? どういう事だ、これでは全く役に立たぬではないか…………」



 俺は『ランニングシューズ』の履き心地に浮かれて、ハゲチョビの言葉を聞きそびれてしまった。


 しかし、急に空気がピリピリしだしたのを感じ取り、嫌な汗が背中を流れた。



「宰相閣下! よろしいでしょうか!!」



 空気が変わり、王様と何かを囁き合ったハゲチョビが口を開こうとした寸前、この広間の両脇に並んでいた貴族の中から、立派な髭を蓄えたガッシリとしたおじさんが前に出て、王様に向かって片膝をついた。



「無礼であるぞ! カラーズカ侯爵! …………え? …………はぁ、よろしいのですか? …………カラーズカ侯爵よ、陛下が発言を許された」



 宰相と呼ばれたハゲチョビは激昂したが、隣に座る王様が片手を挙げてそれを制し、宰相は眉を寄せつつも、カラーズカ侯爵に先を促した。



「ハッ! よろしければ、勇者殿を私めに預けて頂きたいのです!」


「…………なんの為か」


「研究の為です。勇者殿がおられた世界の知識を、是非とも知りたいのです」



 カラーズカ侯爵がそう言うと、王様とハゲチョビは何やら相談をし、俺の引き取り先がカラーズカ侯爵となったようだ。


 宰相のハゲチョビは、俺にまつわる全ての事柄を、カラーズカ侯爵の責任で取り仕切る事を条件として、それを認めたのだった。


 …………え? 俺の意見? もちろん聞かれもしませんでしたよ?

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