193回目 良く言えば一途
王城での会議からノルドが戻り、ドゥルクの子孫であるカーネリアが散々暴れてから帰った日から二日後。
早朝から、二台の馬車を引き連れたカーネリアが屋敷を訪ねて来た。
もちろん俺は何も知らないし、ドゥルクも何も聞いていない。一緒に集められたシエラやアレスに至ってはカーネリアとは初対面だ。…………俺がカーネリアについて少しグチったから、二人とも警戒はしているけど。
そして、カーネリアが訪ねて来たからと俺達を呼んだノルドだけは、カーネリアがなぜ訪ねて来たかを聞いているらしく、微妙な表情をしていた。ホントに何をしに来たんだろ、この娘。
「えっと、おはようございます。カーネリア…………さん?」
カーネリアは現在、ジョルダン王国の魔道士隊に所属している、いわゆる軍人である。しっかりと成人しており、年齢も十八才だそうな。
そんなカーネリアは、片手を挙げて挨拶をした俺に対して、仁王立ちになって胸を張りながら、声高々に告げた。
「おはようございます! カーネリア=マインド、魔道士としてガモンの力になるべく参りましたわ!! これから仲間として、よろしくお願いします!!」
「……………………」
…………本当に何をしに来たんだろう、この娘。
◇
「…………まずは、私の方から経緯を説明しよう」
「お願いします」
カーネリアの突然の来訪と訳の解らない宣言にその場が膠着してしまったので、俺達は場所を移して事の経緯を聞く事にした。
ターミナルス辺境伯家の広い応接室には俺達の他に、白狐族の姉弟がメイドと執事の姿で、かいがいしくお茶を運んだりしている。
この二日の間にノルドに動いて貰い、二人を奴隷から解放する旨を記した書類も手に入れたのだが、たとえ治安の良い王都と言えど、美しさで評判の高い白狐族の、それも子供がいるとなると狙われるため、二人を本当に安全な所に返すまでは俺の奴隷としておいた方が安全だと言う事になったのだ。
もちろん、こうなった以上は二人の衣食住の世話や安全は俺の責任で護る事になる。まあ、それほど苦労する話でもないんだけどな。
しかし二人も、ただ俺の世話になるのは申し訳ないと言って、こうして仕事をしている訳だ。…………ちなみにメイド服と執事服はターミナルス辺境伯家の使用人達が用意した物です。それを着てかいがいしく働く様がカワイイと大評判です。
おっと、それはそれとして。今はノルドの話を聞かないとな。俺は少し姿勢を正して、ノルドの話を聞く体勢を整えた。
「二日前。私は休んでいたが、カーネリアが私の屋敷にやって来た。それは記憶に新しい所だと思う」
「そうですね。散々暴れてから帰りましたよ」
何せ俺の『◇キャンピングカー』に魔法まで撃ち込みやがったからな。まあ、後でドゥルクに聞いた所だと、カーネリアの得意とするのは燃えるような赤い髪が示すように火魔法らしいから、手加減はしていたようだけど。
「…………それで、ここでのガモンとドゥルクの様子を見ていた彼女は、聞いていた話に違和感を持ち、帰ってから魔導大臣であり叔父でもあるマルヒルドに問い正した」
カーネリアの追及に困り果てたマルヒルドは、自分達がドゥルク=マインドの血を引いている事もあり、このままでは国として用意した筋書きに綻びが出ると危惧をした。そこで国に許可を求め、俺が実際には『ドゥルクの後継者』ではなく『勇者』であるという部分だけを明かしたそうだ。
流石に『魔王』と『郷愁の禍津像』の真実と危険性については明かさなかったが、俺が実は勇者だった事を知り、国が隠さなくてはいけない危機が世界に迫っていると感づいたカーネリアは、予想外の行動に出た。
魔道士隊のエースであるカーネリアが、その職を辞したのである。
「え? 辞めたの?」
「ええ! 勇者と言えば世界の危機に立ち向かうものです! その勇者に我がご先祖様までも関わっているのですから、私が勇者の仲間として立ち上がるのは当然ですわ! ご先祖様だって、勇者の仲間の一人として魔王を倒しているのですから!!」
…………どうしてこの娘は、俺がそれを受け入れると思っているんだろう。と言うか、辞める前に面接に来なさいよ。次の仕事が決まってからだろ、辞めるなら。
「…………うん。国も今のガモンと同じように頭を抱えた訳だが、結局はカーネリアの辞職を認める事にした。今のお前達は勇者であるガモンと治癒師であるシエラ、そして剣士のアレスという三人パーティーだからな。パーティーとしては少ない。そこでガモンを支援する立場のジョルダン王国として、大魔導師ドゥルク=マインドの血を引き、魔道士隊のエースでもあるカーネリアを付ける事は大きな支援となるのではないかと判断された訳だ」
「…………むぅ」
国からの支援か。実はそう称して既にジョルダン王国から白金板で二十枚貰っている。日本円にすると二十億円である。
魔王と『郷愁の禍津像』関連で情報料に白金板十枚。つまり十億円も掛かっているからな、その補填と支援として倍の金額を出して来たのだ。
…………そういう支援も受けているから、カーネリアの仲間入りは断りづらいなぁ。
「…………ちょっと考えさせて」
その後。仲間やドゥルクとの相談した俺は、取り敢えずしばらくはフレンドにせずに、パーティーとして行動をする事でカーネリアを受け入れた。
『カーネリアものぅ、悪い子ではないんじゃよ? 実力もあるしのぅ。ただまぁ、良く言えば『一途』なんじゃよ』
「良く言えば…………」
なにやら含むものを感じる言い方ではあったが。まあ、悪い子でないのは確かだとも思う。知らずに利用される事はあっても、進んで陰謀に関わるタイプでは無さそうだし、しばらくは様子を見よう。
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