191回目 ドゥルクの子孫
「…………と、言う事になった。スマン! 本来ならば『郷愁の禍津像』は全て破壊するべきなのだが、国として他国にばかり強力な兵器を持たせる訳にはいかんのだ。我々も同等の力を持たねば、抑止力にならぬ。わかってくれ!!」
ソファーに座り目の前のテーブルに両手をついて、ノルドは頭を下げた。
まず俺とだけ話したいと言うから何事かと思ったが、貴族として人に頭を下げる所を見られたくなかったらしい。
「…………はぁーー、そうなったか。…………核兵器かよ、どこの世界も一緒だな…………」
そして俺はというと、数日ぶりに帰って来たノルドから事の顛末を聞いて、盛大に溜め息をついた。
しかしそうか。兵器として使えるとは思って無かったな。確かに魔王は本体を探している、と言う話だったし気づいても良さそうなのだが、盲点だった。
「…………ただ、一つ確認しておきたいんですが。…………まさかジョルダン王国が積極的に『郷愁の禍津像』を兵器として使う事はないですよね?」
「…………現状では無い、としか答えられない。さすがにあの場にいた者で、魔王を兵器として使えば世界が滅びる危険性がある事を理解していない者はいないだろう」
「…………そうですか」
歯切れの悪いノルドに、俺は内心ではヤレヤレと首を振った。この様子から察するに、国王は信用できるが、そうでない者もいたのだろう。
◇
会議であった事を報告したあと、ノルドは少し休むと言って部屋に籠った。会議だけてなく面倒な来客についてもグチっていたから、そうとう疲れていたのだろう。
そして俺は、ノルドに聞いた話を『フレンド・チャット』を使って、すでにテルゲン王国に着いている筈のティムにも教える。
何せ、魔王を兵器として一番使いそうなのがティムのいるテルゲン王国だ。しかもティムには、テルゲン王国の土地に封印されているという『モグラ』の『郷愁の禍津像』も持たせてある。現状として、かなり危うい状態である。
だが俺の心配は杞憂に終わる。ティムは、と言うかカラーズカ侯爵は、ティムから『郷愁の禍津像』の話を聞いてこの事に思い至り、国への報告を止めたらしい。
ティムからは、カラーズカ侯爵は時期を見て『郷愁の禍津像』を破壊するつもりだと説明があった。
…………仕方ないとは理解できるが、結局のところ『郷愁の禍津像』の破壊は保留された形になった。危険性を説いて集める事も出来ないから、厄介な爆弾は世界中にバラ撒かれたままである。
「はぁ…………。ままならないな…………」
国を動かすってのは難しい。などと、溜め息をついていると、ターミナルス辺境伯家の執事が、俺に来客だと告げて来た。
しかも誰が来たのかを聞いても歯切れが悪く答えられない。どうも相手は上位貴族らしく、俺がくれば解るとだけ繰り返しているらしい。
こんな時に誰だろう、この王都に俺を訪ねて来る知り合いなんていないよな? と首を捻りつつも屋敷の玄関までいってみると、そこには燃えるような赤い髪をなびかせた少女が仁王立ちで待ち構えていた。
……………………いや、本当に誰だよ。
「あなたがガモンね! 私はカーネリア=マインド! ご先祖様の遺産をかけて勝負しなさい!!」
「……………………はあ?」
俺は仁王立ちのまま、俺を指差して啖呵を切る少女を見て首を傾げた。カーネリア=マインド? …………マインド。…………ドゥルクの子孫か。
そう言えばノルドの話の中で、俺の存在に噛みついてきたドゥルクの子孫がいたって話があったな。まあ、この娘ではないんだろうが、その関係者で間違いないだろう。
いきなり来て俺に啖呵を切るその性格にはビックリするが、その目的は解る。『ドゥルクの書庫』だろう。
…………しかし、どうしたもんかね、これ。
「さぁ杖を抜きなさい! ご先祖様の遺産を継ぐのに相応しいのは私だと言う事を証明してあげるわ!! あなたの魔法を見せてみなさい!!」
いや、魔法を見せるも何も使えないんだけどね。そんな事を言っても無駄どころか火に油を注ぎそうだ。
…………やはりここは、先祖としてドゥルクに任せるのが一番良いかな。
「…………なら場所を変えようか、ついて来い」
「フフ、どうやらその気になったようね…………!」
こうすればついて来るかと思って雰囲気を出して誘ってみると、少女はニヤリと笑って素直について来た。
案外チョロいなこの娘。きっと悪い娘ではないんだろう。
そして俺はその娘を連れたまま屋敷の中庭まで移動し、そこに出してあった『◇キャンピングカー』からドゥルクを呼んだ。
『なんじゃガモン。…………む? おぉ、確かカーネリアじゃったかな? 我が子孫ではないか、久しいの。ワシに会いに来たのか?』
「ご、ご先祖様!? ま、まさか本当に…………!?」
目の前に現れたドゥルクの幽霊に、目を見開いて驚愕するカーネリア。ドゥルクの幽霊がいるという話を聞いてなかった訳ではないだろうが、信じてはいなかったようだな。
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