190回目 起こりうる厄災
ジョルダン王国における重鎮達の会議は続く。まず決まったのは、魔王封印の地が国内にある『郷愁の禍津像・カエル』の破壊である。これは封印の地にて軍も派遣し、万が一の事態にも備えた上で行われる事になった。
派遣される軍の中には学者や研究者も加えられて、封印の地での観測もする。封印するしか方法の無い『魔王』を本当に倒せるならば、それは世界の安定化に直結する。魔王関連に使用する予算は膨大で、どこの国でも頭の痛い問題なのだ。
そして次に『勇者ガモン』についてだが、我聞を勇者として公表する事には反対の声が上がった。その理由としては我聞を召喚したのが『テルゲン王国』であり、それを密かに逃がしたのが『カラーズカ侯爵』であることが理由となる。
もし我聞の持つ勇者のスキル『ガチャ・マイスター』の真の力を知れば、テルゲン王国もそうだが聖エタルシス教会も黙ってはいないだろう。
そして殺されそうだった我聞を逃がし、ジョルダン王国とも親交のあるカラーズカ侯爵家は取り潰しとなり、その一族郎党は皆殺しにされるだろう。むしろそれをエサに我聞を取り込もうとしてくる可能性もある。
なので我聞は、『ドゥルク=マインドの弟子』及び『ドゥルク=マインドの後継者』として公表される事になった。『ドゥルクの書庫』の所有者である事も、信憑性に拍車をかけてくれるだろう。…………マルヒルドは苦々しい顔をしているが。
「さて、最後に皆に伝えておかねばならぬ事がある。四方の辺境伯家には、特に重要ともなる話だ。言いたい事もまだまだあるだろうが、まずは話を聞いて貰いたい。…………ロイ、始めよ」
「ハッ! では、私から説明いたします」
国王に促された宰相が説明を始める。…………それは、確かに国をも揺るがしかねない話だった。
「魔王という存在は、かつては終わらない厄災の象徴でした。かつては封印の力も弱く、首尾よく封印してもすぐに封印は解かれていた。自然に解けた物もあれば、封印の地がある国を滅ぼすために、意図的に解かれた物もありました。多くの勇者様が心を砕き、仲間達と共に封印の術式を組み上げてくれるまで、人々の被害は甚大だった」
それでも人類は生き延びた。魔王が年々増えていき、厄災も増える中でも何故か滅びなかった。それはいつもギリギリで、その魔王に対抗できるスキルを持つ勇者が現れていたからだ。
勇者が現れる時は、世界に危機が訪れる時。と言われる由縁である。
「その中で魔王に滅ぼされた国や街は数多くありますが、魔王が進行方向を変えてまで襲った国や街は少ないのです。そしてその国や街には、一つの共通点がありました。それが、強力無比な『眷族』の存在です」
魔王が国や街を襲えば必ず一体だけ、明らかに他とは違う特別な『眷属』が現れた。当時の権力者は、この眷属を生み出すには多くの人の命が必要だ。とか、特定の種族が変異したのが眷属に違いない。とか、的外れな仮説をたてて、それが差別や迫害に繋がったりしていた。
今なら解る。その強力な眷属が出現したのは、その場に『郷愁の禍津像』があったからだ。その街の貴族なり商人なり冒険者なりが、その襲って来た魔王の本体である『郷愁の禍津像』を持っていたのだ。
「…………まさか」
「…………なるほど、大問題だな…………」
部屋の中が少しザワついた。
ここにいるのは、この場にいるのが許される実力者達。目端がきき、頭の回転が速くなければ大臣としては勤まらないし、他国と領地を接する辺境を護ることなど出来ないのだ。
だから、みんな気がついた。『郷愁の禍津像』が持つ厄介過ぎる性質に。
「皆さん気がつかれたようですが、あえて言わせてもらいます。魔王は、本能的に本体である『郷愁の禍津像』を求めて移動する。そして魔王と実際に出会えば『郷愁の禍津像』は強力無比な『眷属』となる。厄介極まりない事に、この性質は…………兵器として利用出来る。出来てしまう…………!」
現状、『郷愁の禍津像』は何の意味も無いアイテムで、多くの貴族がコレクションの一つとして持っている。
しかしそれが魔王を呼び寄せ、強力な眷属を呼び出す『召喚器』のようなアイテムだとするならば話が違ってくるのだ。
「知られていない物もあるが、魔王の封印の地はその大部分が知られている。我が国にある『ビーバー』の封印の地など、大河に造られた『ビーバー』の巨大な棲みかもあって観光地にすらなっている」
「もし我が国に敵意を持つ他国がこの事を知り、『ビーバー』の『郷愁の禍津像』を手に入れたとすれば…………」
「我が国に持ち込んだ上で『ビーバー』の封印を破壊する事が考えられる。…………魔王を兵器にするなど、とんでもない行いじゃが、十分に有り得るのぅ。…………とするならば、我らもこの他国に封印のある『郷愁の禍津像』を、おいそれとは破壊できぬな」
使い方次第で、魔王は兵器に転じる。その土地どころか、世界を滅ぼす事にも繋がりかねないこの事実に、その場にいる権力者達は頭を抱えた。
結論としては、他国に封印のある『郷愁の禍津像』の破壊は見送りとなり、急務としては『郷愁の禍津像』の回収が上がった。特に自国に封印の地がある物は最優先で集めて破壊しなくてはならない。
そしてその破壊は、他国に知られてはならない。知られれば、『郷愁の禍津像』を利用されかねないから、となった。少なくとも表向きは。
…………つまり国としては、『郷愁の禍津像』の危険性は秘匿する事に決まったのだ。
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