19回目 フレンド特典
馬車を降りて森へと向かうと、森へとつながる茂みの中に犬の頭が見えた。そこにいたのはコボルトだ。どうやら森の方にはまだ仲間がいるらしいが、一匹だけ外に出ているようだ。
ゴブリン程度の大きさで、犬の頭と毛皮を持つ二足歩行の獣人型モンスターがコボルトだ。ゴブリンと違って武器は持たないが、ゴブリンよりも足は速く、その牙は鋭い。上顎の犬歯だけは他よりも何倍も長くて、それを見た俺は昔図鑑で見たサーベルタイガーを思い出した。
「よし、やってみるか」
茂みにしゃがんで、俺は氷魔弾の弓を構えた。コボルトへ狙いをつけて玄を引くと、冷気と共にパキパキと音を立てて、氷の矢が生成された。
「ガモン、弓の経験はあるのか?」
「…………ない」
「…………ない?」
小声で尋ねてきたティムに正直に答えると、ティムは呆れた目で俺を見た。
いや無いよそりゃ。弓を扱うなんて、そういう部活にでも入ってないと有り得ないだろ。
呆れた目で見てくるティムは、きっと俺が外すと思っているのだろう。俺もそう思う。しかし、もしかしたらこの弓の持つアレなパワーで自動的に当たるかもしれない。そんな説明は書いてなかったが、もしかしたらイケるかも。そういう淡い期待が俺にはあったのだ。
(ヒョロッ…………ザスッ…………)
『…………ワゥ?』
…………まあ、俺の射た矢はヒョロッと飛んで地面に刺さり、その音に振り返ったコボルトと目が合った訳だが。
『グルルルルッ! ワォーーンッ!!』
「ヤベッ!? あれって仲間呼んだのか!?」
俺と目が合ったコボルトが雄叫びを上げると、森の中からガサガサと音が近づいて来た。
「ガモン! それ借りるよ!!」
「いやちょっ! ガチャ装備は俺以外は…………!?」
ガチャ装備は俺以外には使えない。そう言おうとして俺は言葉に詰まった。何故なら俺から氷魔弾の弓を奪ったティムが玄を引き絞ると、それが当たり前であるように氷の矢が生成されたからだ。
そしてティムが射た氷の矢は、真っ直ぐにコボルトの胸を貫き、そこから周囲に根を張るかの様に凍りつき、コボルトを立ったまま絶命させた。
「うおおっ…………! 凄ぇっ!!」
「ガモン! まだ来るから武器を!!」
「お、おうっ!」
ティムに檄を飛ばされて俺はひのきの棒を構えた。そして森からは三匹のコボルトが四つ足をついて飛び出して来た!
「一匹は間に合わない!」
「そいつは俺がやる!!」
こちらへと走って来るコボルトにティムが氷の矢を放ち、二匹を倒した。そして仲間が倒れる間も走り続けていたコボルトが、ティムに牙を突き立てようと高く跳躍したところで俺が割って入り、ひのきの棒をコボルトの横面に叩き込んだ。
『ギャインッ!? …………ウ……ゥ…………』
そして驚いた事に、俺に殴り飛ばされて地面に落ちたコボルトは、すぐに立ち上がりはしたのだが、急にグラリと身をふらつかせ、ついにはパタリと倒れてしまった。
「な、なんだ…………?」
「ガモン、ちょっと見てくれ。僕は周囲に気を配っておくから」
「…………おう、わかった」
油断なく氷魔弾の弓を手にして辺りを警戒するティムに言われて、俺は倒れたコボルトに近づいた。そして、コボルトが気絶しているのを確認して、ひのきの棒のスキルだと思いたった所でナイフを抜いてトドメを刺した。
「ティム、倒したぞ。コボルトの素材を教えてくれ」
「うん。周囲も問題ないね。コボルトの素材はその長い牙だよ。死んでいるコボルトからなら、引き抜ける筈だけど、革手袋をするのを忘れないように。そして、抜いたなら浄化用の布でしっかりと拭く事も忘れないように」
「…………浄化用の布って、俺の荷物にも入っている『聖水を染み込ませた布』とか言うアレか?」
「そうだよ。それをしておかないと、その牙でウッカリ手を切ったりした時に酷く腫れたりするんだ」
…………細菌対策か? それ自体は知らなくても、感染症の予防とか、そう言う話があるのか。へぇー。
俺はティムの言葉に従って革手袋を使って牙を引き抜き、例の布でしっかりと拭いた。この布は特殊な方法で作られており、魔力が無くなって真っ黒になるまでは何度でも使えるそうだ。
ちなみに買う時は教会か冒険者ギルドで買えるそうな。お値段は大銅貨一枚、日本円で五千円だ。
布一枚に五千円はお高い気もするが、浄化をしていない牙は冒険者ギルドでも買い取ってくれないか、大分安く引き取られるらしく、コボルトを狩るならば必須アイテムなのだそうだ。
「まあ、生活魔法の『清潔』って魔法を覚えれば、浄化の布はいらなくなるね。だからコボルトを中心に狩る冒険者の中には、けっこう覚えている人もいるよ」
「魔法って、スキルじゃないのか? 誰でも覚えれるもんなの?」
「生活魔法くらいなら、ガモンだって覚えれる筈だ。教会か冒険者ギルドに一定の貢献をして金貨一枚を払えば、生活魔法の魔道書を閲覧できる。『清潔』くらいなら、それで覚えられるだろう。ガモンの頑張り次第では、その他の魔法もついでに覚えられるかも知れないな。…………難しいけどな」
金貨一枚、日本円にして十万円である。この世界の物価とかはイマイチ把握してないが、昨晩バルタと二人で飲んでも大銅貨(五千円)までは届かなかったから、安くは無いのだろう。
「金貨一枚かぁ。でも、魔法を覚えられると考えると安いのかもな、一度覚えてしまえば一生もんなんだろうし。…………ところで今更だけどさ、何でティムはガチャ装備を扱えるんだ?」
「…………わからない。あの時は夢中だったけど、何で使えたんだろう? …………ガモン、ちょっとひのきの棒を貸してくれるか?」
「はいよ」
俺がティムにひのきの棒を渡すと、ティムは取り落とす事なく、ひのきの棒で素振りをして見せた。
「…………これも使える様になったみたいだ」
ついこの間まで、ティムは間違いなくガチャ装備が使えなかった。その時と今で変わった事があるとするならば、それはひとつしかない。
俺以外がガチャ装備を使う条件は、『フレンドになる』事だったようだ。
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