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187回目 ニッカとダッカ

「……………………!!」



 サクサクサクサクと、小気味良い咀嚼音が車内に響く。その音を出しているのは白狐族と言う白髪の狐獣人の少年だ。


 後部座席に姉とシエラに挟まれて座っている幼い少年は、ただ一心不乱に駄菓子を食べている。彼の膝の上や座席の上には、まだ駄菓子がいっぱいあり、少年は時折姉に口や手を拭いてもらい、シエラに水を飲ませてもらいながら、駄菓子を食べ続けている。



「…………本当は普通に飯を食う方が良いんだけどな」


「それはそうですけど、今は食べれる物を食べるのが一番ですよ。パンもカップラーメンも、吐き出してしまうんですから」


「まあ、そうだな」



 白狐族の姉弟、ニッカとダッカ。一応二人には既に食事を与えたのだが、ニッカは普通に食べれたにも関わらずダッカはパンもカップラーメンも吐き出してしまったのだ。吐き方からして、精神的な何かが引っ掛かって体が受けつけなかったようだ、とは治癒師のシエラの見解である。


 なので何か少しでも食べられないかと色々出してみた結果、駄菓子だけは吐き出さずに食べれた訳だ。やはり駄菓子は子供の味方だ。


 まあシエラが言うには、心の傷が癒えれば普通に食事が出来る筈だと言うので、取り敢えずは安全な所で保護する事にしよう。


 俺達は王都に戻ると、冒険者ギルドで依頼の達成報告と素材、及び小猿の売却をしてからターミナルス辺境伯の屋敷へと戻った。


 そしてニッカとダッカを『フレンド』として登録すると、『◇キャンピングカー』へと入ったのだった。



『初めて見る方ですね。『◇キャンピングカー』へようこそ』


『むぅ? 白狐族ではないか。まさかこんな所でまみえるとは、珍しい事もあるもんじゃの』



 二人を『◇キャンピングカー』に招待し、キャンパーとドゥルクに紹介した。するとドゥルクの名前を聞いたニッカが、驚いた顔を見せた。



「ドゥルクって…………! まさか大魔導師ドゥルク=マインド様ですか!?」



 おっと、どうやらニッカはドゥルクの事を知っていたみたいだな。いや、ドゥルクはもう何百年と生きているし超有名人だ。ニッカが知っているのは驚くような事でもないか。


 ドゥルクの存在に目を丸くするニッカと、そのニッカと手を繋いだままで、物珍しそうに『◇キャンピングカー』の内部をキョロキョロと見回しているダッカ。


 そんな二人を、アレスは微笑ましく見ていた。


 アレスの妹弟であるアリアとアラムも、あの二人と同じくらいの年齢だから、タミナルの街に置いて来た二人を思い出しているのだろう。


 …………こんな事なら連れて来れば良かった、とも思うが、俺の屋敷をカラッポにするのも気が引けたし、あの二人とその母であるアレマーには留守番を頼んだのだから仕方ない。



『おい、ガモンよ。この二人をまず風呂に入れたらどうじゃ? この二人も、汚れたままでは落ちつかぬだろう』


「それもそうだな。よし、じゃあダッカは俺達と…………」


「いえガモン様。二人の事は私にお任せ下さい。ニッカさん、ダッカくん。こっちですよ」



 そう微笑んで、シエラはニッカとダッカを連れて女湯の方へと入っていった。…………いや、ダッカは俺達が洗っても良かったのに。…………そうか、女湯か…………。いや、別に羨ましくは無いけども。



「どうしました、ガモン殿? あの二人はシエラ殿に任せて、俺達も汗を流しましょう」


「あ、ああ。そうだな」



 人間、多少は大変な目にあっても風呂に入れば癒されるものだ。そりゃニッカやダッカの負っている心の傷が簡単に癒えるとは思っていないが、少しでも安心出来れば、ダッカもちゃんと飯が食えるようになるかも知れない。


 俺とアレスは軽く汗を流した程度で済ませたが、シエラ達は温泉でゆっくりしているようだ。俺は二人が居ない間に、ドゥルクに二人と会った経緯を話した。ドゥルクなら、奴隷紋というヤツの事も知っているだろうと考えたのだ。



『白狐族を奴隷にするとは。…………拐って来たのは確実じゃな。白狐族は繋がりの深い種族じゃ。仲間を奴隷として差し出すなどありえんわい。しかも『隷属の首輪』まで使われておったとは。あれはもう作られておらん筈じゃぞ。余程の権力者が後ろにおると見るべきじゃ』


「やっぱり拐われて来てたのかよ。シエラもそんな事を言っていたもんな。で、その『隷属の首輪』は破壊出来たけど、『奴隷紋』ってヤツは何とかならないのか?」



 俺の問いかけに、ドゥルクは腕を組んで唸った。ドゥルクの魔法でもどうにもならないのかと、俺も少し不安になる。



『…………難しいのぅ。あれはその昔、魔王を使役して他の魔王を倒そうと『勇者』の一人が組み上げた術式じゃ。何せ『魔王』を捕らえて働かせるための物じゃからな、生半可な術式では無いんじゃよ。解けるのはその『勇者』の血筋に繋がる者のみ、しかし掛けること自体は容易という、困った代物なんじゃよ。…………術式の根幹たる血筋が途絶えれば一斉解除されるがのぅ。つまりは現在のジョルダン王国の王族じゃな』


「いやダメだろ。戦争になるわ」


『ならば、頼んで解除してもらうしか無いの。ホレ、ちょうど繋がりが出来る訳じゃし、頼んでみれば良かろう。案外アッサリいくかも知れん』



 …………なら取り敢えず、王城に行ってるターミナルス辺境伯、ノルド待ちだな。と思ってその帰りを待っていたのだが、ノルドはそれから数日もの間、帰って来る事は無かった。

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