184回目 襲われた馬車
酔い潰れているドランクモンキーにトドメを刺し、魔石を抜き取る。そして依頼にあったメスの小猿も三匹捕獲して、用意してきた鳥籠くらいの檻へと入れた。
ドランクモンキーは時として人を襲うモンスターだ。ゴブリンと争っていたのを見た通り好戦的で、その性格も執拗だ。生かして森に放置すると、人間に恨みを持ち頻繁に人を襲うようになる。
だから今回も、オスの小猿まで含めてしっかりとトドメを刺した。小猿にナイフを突き立てるなんて最悪の気分だが、この仕事を請け負った以上しょうがないのだ。メスの小猿だけでも生かす事が出来るのは、偽善でしかないが救いにはなる。酒造で働く猿達の待遇は、それなりに良いらしいからな。
問題は残る死体だが、こんな森の中で死体に火をかける訳にもいかない。なので、集めた死体は地面に埋める事で後処理も完了した。
「…………よし、じゃあ後はこいつらの棲みかを見つけるか」
「ですね。ドランクモンキー達の行動を見る限り向こうに棲みかがあると思います。行きましょう、ガモン殿、シエラ殿」
ドランクモンキーの棲みかを探して、猿達が一度走り去った方向に向かってみる。すると、辺り一面に酒の匂いが漂う場所を見つけた。
ここがドランクモンキーの棲みかに違いないだろう。だって森の中でこんな酒の匂いがする場所は他に無いもんな。
そしてしばらく辺りを調べて、俺達は大きく裂けた木のウロから、目的の物を見つけた。
それはスライムを倒すと手に入る『スライムゼリー』を加工した、歪で大きな瓶に入った酒だ。その名も『ボス猿の秘蔵酒』。ドランクモンキーのボスだけが持つ秘蔵の酒で、討伐した証にもなる物である。
「これが『ボス猿の秘蔵酒』かぁ…………」
「普通に飲めるし、秘蔵の酒だけあって美味いという噂ですが。…………あまり飲む気はしませんね」
「でも高く売れるらしいですわね。売っちゃいましょう。いいですよね、ガモン様」
「…………うん。まぁ、俺もちょっと飲む勇気は無いな。酒好きの貴族の中では『幻の酒』になってるらしいし、売っちゃおう」
要は、ボス猿が美味いと思った酒を混ぜ合わせた物だからな。ちょい怖くて飲めないよね。
ともかくこれで依頼は終了だ。クックックッ、酒を使って戦闘もせずに勝利か。今回はかなり上手くいったな。
気分の良い内に帰ろうと、俺は斥候スキルを全開にして周囲を探った。何せ動き回ったからな。道路の位置がある程度しか解らないのだ。
「…………ん? これは…………」
「どうしました? ガモン様」
俺達が戻るべき道路は見つけた。見つけたのだが、そこには俺達が通っていた時には無かった反応がある。
…………これはそれなりにデカイモンスターじゃないか? なんでそんなのが…………!?
「ヤバイ!! モンスターに襲われている馬車がいる!!」
「!? ガモン殿! 案内を!!」
「こっちだ!!」
馬車が襲われている方向に向かって走るが、ただでさえ走りづらい森の中で、しかも俺のステータスでは速く走れない。アレスどころかシエラよりも遅いのが自分でわかる。
「クソッ!! 先に行けアレス! ここを真っ直ぐだ!」
「はい!!」
本気で走る為か、アレスは『迷彩マント』を脱ぎ捨ててスピードを上げ、あっという間に見えなくなった。
俺はアレスが脱ぎ捨てた『迷彩マント』をスキルの倉庫に収納して、森の中を走る。
「シエラ、お前も先に行け! 怪我人がいるかも知れない!!」
「ダメです! 私はガモン様を一人にするわけにいきません!」
「そんな事を言ってる場合じゃ…………!」
「はい! なのでこうします!! 『強化魔法』!!」
「…………は? え、いや、ちょっ!?」
シエラは走る俺にぶつかって来たかと思うと、あっと言う間に俺をその背中におぶった。…………ハイ。俺は今、年下の女の子におんぶされている状態です。『強化魔法』を使って身体能力を強化しているみたいだけど、俺なんかおぶったら走れないだろ!?
「行きます! しっかりと口を閉じておいて下さい! 舌を噛まないように!!」
「いや、お、降ろし…………!?」
俺をおんぶしたまま、シエラは凄いスピードで走り出し、俺は情けなくもシエラの背中にしがみついていた。くそぅ、ステータスがどんどん上がっていくレベル制の奴等が羨ましい。
そして俺達が森を出ると、そこでは横転した馬車とそれを襲う巨大なムカデの姿があった。
「『フォレスト大ムカデ』です!!」
俺を降ろしながらシエラが叫び、その大ムカデの周囲では剣から稲妻を迸らせながらアレスが飛び回っていた。アレスはメインウェポンである☆4『白雷獣の剣』を既に完璧に使いこなしている。実は少し前に同じ物が出たので、今は『白雷獣の剣(+1)』になって、攻撃力も増しているのだ。
『ギチギチギチッ!!』
「ハアァッ!!」
体をうねらせながら体当たりをしてくる大ムカデを躱しながら、アレスが剣を振るった。稲妻を帯びた剣は大ムカデの外骨格の隙間を斬り裂き、その体内には白い稲妻が迸る。
「ガモン殿! 馬車を!!」
大ムカデと戦いながら叫ぶアレスの声に、斥候スキルで馬車を探ると中にはまだ二人ほど生き残りがいるのが解った。
俺達はアレスとの戦いに夢中になっている大ムカデの脇を抜けて、横転した馬車へと走った。
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