180回目 ギルマス会談
変更して、ちょっと長くしました。付け足しただけなので、変わったのは最後の方だけです。
モンテナの用意してきた資料に目を通して、エルドルデは頬に手を当てて大きく溜め息をついた。
「…………一応確認なんだけど、フィクションは無いわよね? 内容を盛っている所があるなら教えて欲しいんだけど」
「盛ってる訳ないだろ。話を盛るくらいならそんな資料作ってこねぇよ」
「そうよねぇ…………」
フゥ。と溜め息をついて、エルドルデは火魔法を発動して書類を焼失させた。ペラペラと捲っていたようだったが、『完全記憶』のスキルを持つエルドルデにはそれで十分だったらしい。
「問題が山積みね。『勇者』を召喚したテルゲン王国もそうだけど、その勇者を無かった事にした教会も酷いもんだわ。救いがあるとすれば、カラーズカ侯爵と資料にあったシエラを送り込んだ枢機卿かしら。でも何とかしないと、また勇者を呼びかねないわよ?」
「そうなんだがな。ガモンがいる今はその心配は無いと思っている。たぶんだが『勇者召喚』を行っても失敗するだろう」
「それはそうかも知れないけど、憶測を真実には出来ないわよ? 解っているでしょうけど」
「まあな。…………と言うか、そういった事を調べるのはお前の得意分野だろう? 俺は諜報活動にも腹芸にも向かないからな、そっちは任せた!」
シュタッと手を上げて軽く言うモンテナを、エルドルデはやれやれと首を振ってから鋭く睨みつけた。
「持ち込んだ問題をアタシに丸投げだなんて、いい度胸してるわね。後で訓練所にいらっしゃい。久し振りに揉んであげるわ」
「…………むぅ。お手柔らかに頼む」
鋭い視線を向けるエルドルデに、モンテナは苦虫を噛み潰したような顔を見せた。実はエルドルデもモンテナと同様に元・冒険者であり、しかもそのランクは『Aランク』である。パーティーでみれば『AAランク』の超実力派であり、モンテナもエルドルデによって鍛えられた一人だったりする。
「…………そして、このガモンの持つスキルも大した物ね。ガモン自身が強くなるのは時間が掛かりそうだけど、この能力が十全に発揮できるなら、その『フレンド』だっけ? それになった子達はメキメキ強くなるわよ?」
「ああ。俺達はまさにその為のスキルだと認識している。バフを掛けられる『食品ガチャ』にステータスを上げられる『書籍ガチャ』、それに状況に応じてスキルを付け外しできる『装備ガチャ』に普段の生活を豊かにして体調を万全に整えられる『生活ガチャ』。ガモンのスキルは、その周りにいる者達を遥か高みまで押し上げる力だ。どう考えてもこれは、数多く封印されている『魔王』に対抗するために作られたスキルだ」
「付け加えるなら、その仲間達の成長はそのままガモンの力になる訳ね。仲間達が鍛え上げた装備によってステータスが大きく上がっていき、仲間達でどうにもならない程の敵が出て来た時に、『切り札』となるのがガモンな訳ね。…………よく出来たスキルだわ本当に」
「大量に金が掛かるのも、仲間との協力関係をより強力にする為だろう。ガモンのスキルに大金を投じても、しっかりとしたリターンがあるからな。俺もアイツのガチャから出た『◇キャンピングカー』を体験したが、ヤバイぞアレ。あんなのに慣れてしまったらガモンから離れ難くなるのは間違いない」
「普通なら、そんな力が知られれば監禁されたりするでしょうけど、ガモン本人に危険が迫れば『緊急クエスト』が危険を報せる訳ね。…………恐ろしい事にこれがあるって事は、ガモンの周囲は確実に見られているわよね? いわゆる…………『神』に」
「あぁ気づいたか。…………それに気づいたらヘタな事は出来ねぇだろ」
「確かにね。でも、それに気づかない愚か者も、気づいた上で利用しようとする馬鹿者もいるわよ? ガモンは大丈夫なの? 慎重に行動出来るのかしら?」
「ぅ…………むぅぅ…………大丈夫…………かぁ…………」
エルドルデの問いかけに、モンテナはピシリと固まった。そしてガモンの言動を色々と思い返して、ため息をつく。
「え? 何よ、バカなの?」
「いや、バカな訳じゃないんだが…………」
「何よ、ハッキリ言いなさいよ」
「うーーん、あれは異世界特有の物なのか、警戒心が薄いな。困っていると見るや誰でも助けるし、ちょっと信用すれば自分のスキルの事でもペラペラ喋っている。…………何と言うか『平和ボケ』ってのは、ああいう事なのかもな…………」
モンテナの言った『平和ボケ』とは、かつての勇者達が自分の事を客観的に評価する時によく使っていた言葉だ。
「なるほどねぇ。確かに伝説に聞く勇者のいた世界の話は平和よね。モンスターのいない、日々の生活の心配も薄い世界。羨ましい話だけど、心配にはなるわね、そんな所で育ったガモンが、コロッと騙されそうで」
「まぁ今はドゥルク翁がついてるから、それほど心配する事もないとは思うがな」
「それも反則よねぇ。いったい何がどうなったら、幽霊となった大魔導師ドゥルク=マインドがついて来るのかしら」
エルドルデは、まだ見ぬガモンという勇者のメチャクチャっぷりに、何度目か分からない溜め息をついた。
「ところでよエルドルデ。あんたは例の像を持ってるか?」
「資料にあった『郷愁の禍津像』の事ね? …………持ってないわね、見た事は何度かあるけど、あんな不気味な物、そのままダンジョンに置いてきていたわ。こんな事なら一個くらい持ち帰って『鑑定』にでもかけておけば良かったわ」
「まぁ持ってる訳ねぇか。俺だって売っちまってたもんな。…………ああそうだ、『鑑定』は意味ないぞ。何も解らないから、残っている厄介物だからな」
「持っている奴がいるかどうか、調べないといけないわね」
「まあ待て、それについてもターミナルス辺境伯が王様に話す事になっているからな。勝手に動くな」
「そう、分かったわ。…………それにしても、事態が随分と動いたわね。この中心にいるのが『ガモン』なのよね。…………もちろん、後で会わせてくれるんでしょうね?」
「もちろんだ。だが変な期待はするなよ。アイツ自身はいたって普通の若造だからな」
それからも、モンテナとエルドルデの話し合いは続き、いつしか夜になると話し合いは飲み会へとシフトしていった。
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