18回目 謝罪
「本当に申し訳ありませんでした」
箱馬車の外から必死に謝り、何とか中に入れてもらってからも謝り倒した。
確かにアレは事故だった。事故だったのだが、ティムが秘密にしていた事を軽々に突きつけたのは、あまりにも配慮に欠けていた。
しかも俺は、侯爵の箱入り娘であるティムの唇を奪い、胸にまで触ったのだ。もう最低である。
「……………………触っただけじゃない」
「…………へ?」
「…………揉まれた」
「…………ウソ…………」
ティムの口から出た不穏な言葉に、馬車の外で殺気が膨れ上がり、バルタがドスの効いた声を響かせた。
「…………旦那、お嬢の胸を揉みしだいたとなると、話が変わってきますぜ…………?」
「待ってバルタ!? 外にいるのに殺気を感じるから!!」
えっ!? 揉んだ!? いやいやいや! それは無い、それは無いってーーっ! あの時はだって、バランスを崩したのを何とか保とうとして、手を伸ばした先にティムの胸があっただけで! 俺は何だこれ? って思って二・三回揉んで…………。
「……………………揉んでる…………だと…………!?」
「……………………」
俺が愕然として呟いた瞬間に馬車の扉が開き、そこから殺気を撒き散らしたバルタが、その手に握るナイフを見せつけるように姿を見せた。
やだ怖い! 待ってバルタ! 完全に殺る気じゃないですか!?
「いや違う!! そういうアレじゃなくて! いや、本当にすいませんでした!!」
箱馬車の中はそれなりに広いが、伏せるには狭い。しかし、そんな事を言っている場合でもないので、俺は狭い中で土下座を敢行した。
「…………フゥ、…………もういいです。真摯に謝って貰ったし、私も正体を隠していた訳ですから、今回だけは許します。…………お父様にも、言わないでおきます。いいですね? バルタ」
「お嬢がそうおっしゃるのであれば」
「…………では、僕の事は引き続きティムと呼んでくれよ、ガモン。それで、このアイテムはどういう物なんだい? 何かのチケットみたいだけど」
急にいつもの、と言うか俺の知っているティムに戻ったので面食らったが、俺はティムが許してくれたのと、バルタが悪戯が成功した子供のように、ニヤニヤと笑いながらも殺気を引っ込めてくれたのに安堵しながら、馬車のソファーに座り直した。
「…………ああ、これは俺のお詫びの印で、『アフタヌーンティーセット』って言う☆4のアイテムだ」
「お茶が飲めるって事か? …………なんか、可愛い物も描かれているけど」
「お茶とケーキのセットだな。説明を読むと、このチケットの半券を切り取る事でアフタヌーンティーを楽しめるらしい。四名様までって書いてあるから、ケーキは結構な種類がありそうだな」
「…………パンケーキとかカップケーキなら分かるけど、それとは別物なのか?」
「…………アフタヌーンティーなんて俺も経験無いけど、ケーキが美味しいのは間違いないと思うぞ?」
「ふーん。…………四人までか。それならガモン、これちょっと取って置いてくれるかな? 使いたい時は言うからさ」
「え? ああ、それはいいけど、どうしたんだ?」
「せっかくだから、僕の許嫁もいる時にしようと思って」
「許嫁!? いるの!?」
「ああ。ジョルダン王国の貴族の娘さんなんだけどね。…………許嫁がいると、『ティム』の存在が具体的になるからね。まあ、協力者だよ」
「…………マジかよ、徹底してるな。凄ぇ…………」
確かに、許嫁までいる男が、男装した女性だとは誰も考えないだろう。その許嫁が他国の貴族の娘となれば、尚更だ。
ティムによると、その娘の母親がカラーズカ侯爵が出資する豪商の娘であり、その繋がりから知己を得て協力者となったらしい。今やティムとその許嫁の娘とは、親友と呼べる間柄であるようだ。
ティムは俺にもその娘を紹介してくれるそうだが、俺みたいな一般人が、そんなヒョイヒョイと貴族の令嬢と知り合っていいのだろうか? 下手をすれば不敬罪とか喰らいそうで不安になる。
まあでも、ティムの親友だと言うなら悪い娘ではないだろうけどな。
などと考えながら馬車に揺られていると、御者台のバルタが俺達に声をかけて来た。少し離れた森の入り口付近に、モンスターの反応があると言うのだ。
「どうしやすか旦那。サクッと殺って気分転換してきやすか?」
なにやらバルタが物騒な物言いをしているが、その提案には、俺よりも先にティムが食い付いた。どうやらティムは、☆4の武器としてガチャから出てきた『氷魔弾の弓』に興味があるらしい。
☆4武器である氷魔弾の弓には、スキルの欄が二つあり、その内の一つは既に解放されている。
その名も『氷矢』。その効果は、玄を引かれた氷魔弾の弓に、氷の矢を生成するという物だ。消費魔力は『1』とあり、魔力が続く限り氷の矢を射てるとんでも性能だ。
確かにこれは試したい。そう思った俺は氷魔弾の弓を装備して馬車を止めてもらい、ティムと共にモンスターを狩りに行く事にしたのだった。
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