179回目 ギルドマスター『エルドルデ』
我聞たちがジョネイブに着いた翌日、タミナルの街のギルドマスターであるモンテナはジョネイブの冒険者ギルドへと向かっていた。
左足が義足であるモンテナにとって、徒歩での移動は中々に苦労のある事なのだが、今日のモンテナは、むしろ嬉々として屋敷を飛び出した。
その理由は、今モンテナが移動手段として走らせている物にある。義足をデッキに乗せ反対の足で地面を蹴って進む乗り物。そのアイテムの名は☆3『キックボード』である。
朝方、一緒に朝食を取っている際に、モンテナが『ギルドに行くのはいいが、距離が微妙だな。俺の足で歩くには遠いし、かといって馬車を使う距離じゃないしな』などとボヤいたのを聞いて、ガモンが取り出したのがこのアイテムである。
さっそく試しに乗ってみて、モンテナはこのキックボードをいたく気に入った。舗装されていない場所では使えないが、王都やタミナルの街で使う分には問題ない。むしろ移動がとてつもなく楽に、そして速くなった。
「クックックッ。速くて快適なのはもちろんだが、この視線もまた心地良いな。現役時代に戻ったかのようだ」
キックボードで街を疾走するモンテナは注目の的である。
誰もがアレは何だと、何処で売ってる物だと、噂し合っている。それがモンテナには何とも心地良かったのだ。
「む、もう着いてしまったか。少し遠回りしても良かったな」
冒険者ギルドの前までたどり着いたモンテナは残念そうに呟くと、キックボードをコンパクトに折り畳んで、ベルトからぶら下げているマジックバッグの機能を持つ袋に大切に収納した。
左足を失ってから、ここまで爽快感を持って移動したのが初めてだったモンテナは上機嫌で冒険者ギルドに入り、冒険者でごった返す中で受付に顔見知りを見つけて声をかけた。
「ベン! まだ働いてたか。元気そうだな!」
「ムゥ? なんじゃ喧しい奴が来たと思ったらモンテナのハナタレか」
「ハナタレはねぇだろ。これでも俺はタミナルのギルドマスターなんだぜ? 他支部のギルマスには敬意をはらえよ」
「いい歳こいて大声上げながらやって来るモンなんぞ、ハナタレで十分じゃ。…………それで? 今日はどうした」
冒険者時代からの顔見知りにそう問われて、モンテナは姿勢を正した。それを見て、ベンと呼ばれた老人も襟を正した。
「冒険者ギルド・タミナル支部のギルドマスターとして、ジョルダン王国冒険者ギルド本部のギルドマスターに面会に参った。すでに約束は取り付けてあるので、『エルドルデ』殿に取り次ぎ願いたい」
「承知しました。応接室に案内させますので、そこで少々お待ち下さい。…………フッ、ハナタレがいっぱしになりおって。ワシも歳を取る訳だの」
モンテナには聞こえないように呟いて、ベンと呼ばれた老人は若い受付にモンテナの案内を任せ、ギルドマスターのエルドルデに取り次ぎに向かった。
◇
「モンテナちゃん、お久し振りね。会えるのを楽しみにしていたわ」
「ちゃん付けは止せと言ってるだろエルドルデ。相変わらずギルドマスターとは思えない格好をしおって」
「ギルドマスターに相応しい格好なんてあるの? それを言ったら、モンテナちゃんだってギルドマスターと言うよりは山賊よ?」
「ほっとけ」
モンテナの待つ応接室に現れたのは、何とも派手な格好をした男だった。
その鋼のような肉体を包む服装は薄くて若干透けており、胸元は大きく開いていて至る所にヒラヒラとした羽飾りが付いている。
そして、とても濃い化粧がほどこされた顔の横や頭は羽飾に覆われているのだが、これは飾りではなく自前の羽根である。
ジョルダン王国冒険者ギルド本部のギルドマスター『エルドルデ』は、鳥獣人なのだ。
ちなみに彼はオネエ口調であるが身も心も男である。リオデジャネイロのカーニバルにでも出そうなこの格好は単に趣味であり、男が好きな性癖を持っているだけの立派な男だ。
「それで? 左足の事を理由にして、滅多にタミナルの街から出て来ないモンテナちゃんがわざわざ来るなんて、いったいどんなトラブルを持って来たのかしら」
「ああ。まぁ一応資料にまとめて来たが…………。書面として残すのが難しい内容だからな、読んだら直ぐに処分するから、そのつもりで読んでくれ」
「あらそうなの? この『鳥頭』で内容を覚えられるかどうか、心配ね」
そう言ってウインクをするエルドルデに、モンテナは心底呆れた表情で返した。
「お前、まだそのネタ言ってんのか? よく飽きないな、『完全記憶』保持者が」
「いいじゃないの。アタシこのネタを言いたいが為に『完全記憶』のスキル覚えたのよ」
日本で有名な『三歩あるけば忘れる』『鳥頭』という言葉が、この異世界にもある。
広めたのは、もちろん勇者としてコチラの世界にやって来た日本人だ。鳥獣人はその言葉のせいで幼少期から他種族にからかわれており、エルドルデはその現状が気に入らないからと、とんでもない努力の末に『完全記憶』のスキルを手にいれた程の、色んな意味での強者である。
ちなみにその不用意な発言をした日本人のせいで、しばらくの間『勇者』は鳥獣人の間で毛嫌いされていたという歴史があったりするのは、甚だ余談である。
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