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168回目 引き抜き

「ガモン殿! サリアナイトのお嬢さん方をワシに下さい!!」


「……………………は?」



 この会話の少し前、俺が屋敷に戻るとゲンゴウは既に来ており、応接室でコーヒーを飲みながら待っていた。


 俺はゲンゴウに軽い挨拶をしながら部屋に入って対面のソファーに座る。するとすぐに扉からノックの音が聞こえ、アレマーが俺の分のコーヒーをテーブルに置くと、一礼をして部屋を出ていった。…………凄くいいとこのメイドさんみたいな洗練された動きだった。


 そして、俺とテーブルを挟んで向こう側のソファーに座るゲンゴウは自分のコーヒーカップを端に避けると、テーブルに両手をついて頭を下げてきた。それで出て来たのが、冒頭のセリフである。


 …………なんで俺は急に『娘さんを下さい』的な事を言われたんだろう。しかもパーティーごと? 意味が解らない。



「取り敢えず、説明をお願いします」


「わかりました。…………まず簡潔に言うならば、これは引き抜きの話です」


「…………んん?」



 引き抜きも何も、サリアナイトは俺のフレンドではあるがパーティーメンバーではない。確かに俺のスキル『ガチャ・マイスター』の『クラン作成』を使う時には、サリアナイトにもメンバーになって貰おうかとは思っていたが、決めるのはあの三人だ。


 その交渉は俺ではなくてサリアナイトの三人とするべきだろう。


 まあ、まずは変に口を挟まないで話を聞いてみるけども。



「実は、勇者『ナミエ=アムロ』様の遺した『コスメ大全』ですが、シエラ殿にお願いして作って貰いました『コスメ大全』の写本を、ワシが抱える研究部門に渡したのです」


「ああ、あったなそんな話が。うまくいきそうなんですか?」


「うまくいきそう、どころではありません。ガモン殿のスキルから出て来た実物が手元にある事もあって、『コスメ大全』に書かれている化粧品に関しては全て再現可能! という事になりましたわい!」



 おおっ! マジでか! 凄いじゃないか、流石は専門家だな。



「もちろん、まだまだガチャから出て来た実物には遠く及びませんが、その土台はしっかりと作れそうなのです。なのでこれを期に、化粧品の専門部署を本格的に立ち上げる事にしました。市場に流す為の量産化にも着手するつもりですわい! ターミナルス辺境伯様にも、出資して頂ける事になりました!」


「…………なんだか話がずいぶん大きくなりましたね。でも、成功しそうなら何よりですね」


「はい。…………ですがやはり問題もありまして、『コスメ大全』に載っている材料のほとんどが、幾つかのダンジョンから手に入れるドロップアイテムなのですよ」



 …………ああ、なるほど。魔法があるこの世界は、魔法があるからこそ、地球ほど科学や技術が発展していない。


 そうなると作れない物は多そうだが、実はそうでもない。何故なら、本来ならば加工しなければ手に入らないアイテムが、特定のダンジョンからはドロップするからだ。


 勇者の遺した『コスメ大全』に載っている化粧品の数々は、そのドロップしたアイテムを材料として作られている。もちろんそれでも、様々な加工は必要となる訳だが、勇者の仲間には大魔導師ドゥルク=マインドがいた。


 ドゥルクはその加工の為に、勇者に言われるまま『撹拌』だの『分離』だのと言った新魔法を作り上げたらしい。ドゥルクも勇者にはだいぶ振り回されたようだ。



「長い研究の末、素材となるアイテムの中には他の物で代用できる物もあります。しかし逆に、どうしても他の物では代用できない物もあるのです」


「要は、その材料集めの為にサリアナイトを雇いたいって事ですか?」


「それだけでもありませんが、ワシが今探しているのは、化粧品を使う女性で、ダンジョンに入れるEランク以上の冒険者であり、魔法が使える信用できる者達です」



 …………なるほど、サリアナイトだな。



「それに、彼女達はガモン殿のフレンドです。こうしてガモン殿にもお願いに上がっているのは、彼女達をフレンドのままで、引き抜きたいからです。ガチャ装備もそうですが、彼女達ならばフレンド・チャットを使ってワシとすぐに連絡が取れる。これが何よりも大きいのです。決して金では買えない価値があるのです」


「…………まあ、彼女達がフレンドの立場を悪用したりしない限りは、フレンドを解除するつもりはありませんけどね。もちろん、彼女達が解除を望むならそうしますけど」


「流石にそれはないかと」



 まあ無いだろうな。フレンドはメリットが大きいから。



「ところで、この話はサリアナイトの三人にはしてあるのですか?」


「はい。彼女達はワシの話に大いに興味を持ってくれたのですが、やはり命を救ってくれたガモン殿達に恩を返さないままで抜けるのは気が引けると、そう申されまして」


「…………わかりました。サリアナイトの三人には俺達に遠慮はいらないと伝えておきます。俺としてもゲンゴウ殿との繋がりがあの三人のおかげで強化されるなら悪い話ではないですから」


「あ、ありがとうございます!!」



 こうして、サリアナイトの三人はゲンゴウの商会に就職する事になった。


 彼女達はその後、ゲンゴウの商会の化粧品部門の顔として様々な貴族のパーティーやお茶会に呼ばれるようになり、貴族の女性方の噂話として入手した情報を教えてくれるようになるのだが、それはもう少し先の話だ。

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