165回目 拠点に引っ越し
「気をつけてね、ティム。また、すぐに会いに来てくださいませ」
「うん、わかったよリメイア。君も体には気をつけてね」
別れの時を惜しむように抱擁するティムとリメイア。その姿は端からみれば、仲睦まじい婚約者達の姿だ。実際は、親友同士のお別れのハグな訳だが。
「ガモンも元気でね。僕からもするけど、ガモンからもチャットしてくれよ?」
「ああ、もちろんだ。元気でな、ティム。…………この世界に来て、早々にお前と出会えたのは、本当に幸運だったよ」
「僕もそう思う。君に会えて良かったよ、ガモン」
俺が屋敷を貰った翌日。ティムとバルタがテルゲン王国へと帰るために旅立った。
バルタはティムを送り届ける仕事を最後にカラーズカ侯爵家から暇をもらい、再びタミナルの街に帰って来る事になっているが、ティムとはしばらく会う事は無いだろう。
もちろん『フレンド・チャット』で繋がってはいるが、それでもティムとの別れは惜しかった。俺もテンションが振り切ってしまい、何やら今生の別れみたいな台詞を吐いてしまった気がする。顔には出さないようにしているが、内心メッチャ恥ずかしい。
さて、ティムの見送りも終わった俺は、新しい屋敷へと足を運んだ。まだこう『帰った』って気にはなれない。一応は昨日の内にゲンゴウの所の寮からは引っ越して一晩過ごしてはいるのだが、やはり日本にいた頃には全く縁の無かった豪邸が『自分の家』と言われても違和感が凄いのだ。
だが今日は堂々と門を潜る。新たにこの屋敷へと住んでもらうアレスの一家に、恥ずかしい姿は見せられないのだ。
「さあ、どうぞ中に入って下さい」
「「は、はい…………」」
ティムがテルゲン王国に帰るにあたって、カラーズカ侯爵家の屋敷で居候していたアレスの家族は、それに合わせて屋敷から出るべく、少し前からタミナルの街で家を探し始めていた。
と言うのも、父親のアルグレゴはターミナルス辺境伯家に雇われているものの、タミナルの街で家は持っておらず、ターミナルス辺境伯家の使用人が住んでいる寮に入っていたからだ。
ターミナルス辺境伯はアレス達の住める部屋も用意しようとしたのだが、侯爵家から辺境伯家に居候先を変えるだけと言うのは、アレス一家にとっては肩身が狭い。
だが、余所者に厳しいタミナルの街で家を見つけると言うのは至難のわざだ。そこで俺は、アレス一家を俺の屋敷へと誘った。
え? それじゃあ結局のところ居候じゃないかって?
いいや違うね! 何故ならこの屋敷は俺の家でもあるのは間違いないが、それと同時に俺が作る『クラン』の事務所になる屋敷だからだ。
俺はアレスはもちろん、アレスの妹のアリアや、弟のアラムにも俺の『クラン』に入って貰うつもりだ。
アレスは天使のお墨付きで『剣聖』の資質を持っているしアリアは『賢者』で、まだ幼いがアラムは『竜騎士』の資質を持っている。仲間にしない筈がない。
ちなみに三人の母であるアレマーさんには、この屋敷の管理をお願いした。広い屋敷だが使用人も雇うし、ティムの所の使用人も手伝ってくれると言うので大丈夫だろう。ちなみに雇う使用人も、カラーズカ侯爵家とターミナルス辺境伯家の縁戚にある人材で揃える手筈になっている。他力本願バンザイ。
「ガモン殿、よろしくお願いします。お世話になります」
「アレマーさん、ここは将来的に俺が作るクランの事務所兼住宅です。アレマーさんにもクランに入って貰うので、ここはアレマーさん達の家でもあるんです。こちらこそよろしくお願いします」
ちなみにアレマーさんには仕事をして貰うので給料も払う事になっている。アレマーさんには必要ないと言われたが、俺は必要だと思っているので押し通した。仕事には対価が絶対必要です。
それとアリアとアラムについては、成長するまで冒険者もやれないので、しばらくは勉強の時間である。教師役はいわずもがな大魔導師ドゥルク=マインド。
この屋敷には、何に使うのかよく解らない謎スペースの中庭があったので、そこに『◇キャンピングカー』を出した。俺が長く街を離れたりする時はもちろん回収するが、基本的には出しっぱの予定である。これならキャンパーが操作するドローンを使って防犯面もバッチリだからな。
そんな訳で、俺のフレンドにもなっている二人には、これから『◇キャンピングカー』の中でドゥルクから色々と学んで貰う事になった。ドゥルクも二人の資質を説明したところ、『そりゃまた面白そうな人材じゃな! よし、引き受けたわい!』とノリノリで話を受けてくれたのだ。
「そんな感じで二人には頑張ってもらおうと思うんですけど、いいですよね? アレマーさん。もちろん、無理はさせませんので」
「いえそんな! まさか大魔導師様に教鞭を取ってもらえるなど、たとえ大国の王族が望んでも得られない事です! よろしくお願い致します」
ティムとの別れはあったものの、新たな屋敷での生活は順調にスタートした。…………のだが。その日の夜、俺へのフレンド・チャットに、ある連絡が来た。
差出人は冒険者ギルドのギルドマスターであるモンテナで、その内容は明日の朝にでも冒険者ギルドへ来るように、という呼び出しだった。
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