156回目 六十三体の魔王(暫定)
『魔王が何なのか、どういう存在なのかと言うのは、ハッキリとは解っておらん。しかし、最初に現れた魔王『ネズミ』には、世界を滅ぼす寸前まで追い詰められた。と、記録に残っておる。その時は『神託』スキルを持つ者達が一斉に『神』から『神託』を受け、勇者を召喚して魔王とその眷族を撃ち破ったらしい』
「最初の魔王は『ネズミ』か。確かにヤバイ匂いがするよな。俺の世界じゃ、疫病を振り撒くって意味でヤバイけど」
『それはこちらも一緒じゃな。魔王『ネズミ』が現れてから本体を探し出して何とか『封印』するまで、五十年掛かったと言うからの。魔王『ネズミ』がもたらした災害の中でも『飢饉』や『疫病』は幾つかの国を滅ぼしておる。今も『ネズミ』の封印の地は他のどこよりも厳重に護られておる』
ヤバイじゃん。しかもドゥルクの話によると、全ての魔王には共通する目的がある。無論それだけでは無いが、必ず一致する目的が一つだけあるのだ。
それは『増殖』。繁殖なんて生温いものでは決してない。子供を産むとかでなく、眷族を無限に生み出していくそうだ。それが、どんな魔王であってもだ。
例えそれが『クマ』でも『キツネ』でも『カエル』でも、放っておけば増え続ける。しかもその本体は異常に強く、決して滅びない。チリひとつ残さずに滅したとしても、何も無い所から復活する。それが『魔王』だ。
ちなみに、現在確認されているだけで六十三体もの魔王が封印されている。この封印も完璧ではなく、復活したなら即・再封印できるように常に見張られているそうだ。
『封印されている場所は基本的には王城や領主の城、あとは教会じゃな。その封印の地には必ず人がおる。復活しようとする所を再封印するだけなら簡単じゃからな。例外としては『海ヘビ』のように封印する場所が特殊な魔王じゃな。その場合は、街に封印を見張るオブジェがある』
「オブジェ?」
『見た事ないかの? 『海ヘビ』の魔王が封印される時の像を作り、タミナルの街に設置してあるんじゃがな。確か今は噴水として使われとった筈じゃ』
「あの噴水かよ!?」
確かにタミナルの街には大ヘビがのたうつ姿の噴水がある。俺が初見で龍だと勘違いしたヤツだ。あれが『海ヘビ』の魔王なのか。確かに、噴水の水が大ヘビを拘束しているように見える噴水だった事を思い出した。
『『海ヘビ』は他の魔王と比べても強大で海に封印するしかなかった。もっといい方法もあったかも知れんが、巨大な海ヘビの眷族が海に溢れる前に対処する必要もあったのじゃ。あの像は、その海の封印の様子を見る為のものじゃよ。封印に何かあれば、あの像にヒビが入るようになっておる』
「へぇーー。でも不具合とかもあるんじゃないか? あれってかなり昔に作られた物だろ?」
『心配いらんわい! ワシが作ったんじゃから大丈夫じゃ!』
「ドゥルクが作ったのかよ!」
…………って言うか、話が大きくなりすぎてないか? 六十三体の、それも現時点で六十三体の魔王なんて、どうしたらいいんだよ。それも滅びないとか、反則だろ。
「…………魔王って、六十三体で全部じゃないよな、きっと」
『無論じゃな。少なくとも秘密裏に封印されているものはまだおるじゃろ。国によっては軍事転用を考えるのは明白じゃしな』
ありそう。人間の愚かな所がモロに出て、強い魔王ほどそうなってそうだ。
『それに、『魔王』と本質は同じなのじゃが、暴走せずに『神獣』と崇められる獣もおる。代表的なのは『ウシ』や『ウマ』に『ウサギ』じゃな』
「本質は同じって、大丈夫なのかそれ? どういう違いがあるんだよ」
『説明すると、暴走し『魔王』となった獣が生み出す眷族は脆い。倒すとチリとなって消えてしまうほどに脆く、死して何も残さぬただただ厄介なものじゃ。しかし理性を保っておる『神獣』が生み出す眷族は、普通の動物と変わらん。死んでも肉を残すし、食う事も可能じゃ。眷族を生み出す『神獣』も肉にする事を自然の摂理として了承しておるし、『神獣』とは共生関係にあると言える。暴走させないように崇める事で、今は抑え込めておる』
「……………………え? 食ってんの? 神獣を?」
『眷族をじゃ!! 神獣を崇めておる所でその間違いをするとシャレにならんぞ。普通に捕まるからな』
なんかもう頭がパンクしそう何だけど。
ああ、ちなみにだが、いくら理性のある『神獣』とは言え、いつ暴走して『魔王』になるとも限らないから『神獣』のそばには必ず封印の為の祭壇があるそうだ。これも神獣の許可を得てやっているらしい。
「って言うかさ、その神獣がそんなに協力的なら、魔王の倒し方とか聞いたら教えてくれるんじゃないのか?」
『それが出来りゃ苦労せんわい。ワシらとて魔王と戦う前に神獣を訪ねてみたが、意思の疎通とは言っても言葉になる訳でなし、雰囲気だけでは要領を得んかったんじゃ。魔王の倒し方を教えてくれるなら、どんな対価でも払うわい!』
「まぁそりゃそうか。……………………ん? 対価?」
…………あるじゃん。対価を払って教えて貰う方法が。
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