153回目 後ろ楯
映画の本編が終わりエンドロールが流れる中で、ターミナルス辺境伯であるノルドが、『フレンド・チャット』で誰かとチャットしていた。
どうもドゥルクはエンドロールまでしっかり見る派のようで、画面を下から上に流れる映画の関係者や関係企業の名前をずっと見てるから、俺もノルドのチャット相手の方が気になった。さっそく娘にでもチャットを送っているのかも知れない。
「…………うむ、これは利便性が計り知れないな。このフレンド・チャットが使えるだけでも、君のフレンドになるメリットが大きい。ガモン君、いま私はとある人物とチャットをしているのだが、この内容は君から見えたりするのかね?」
「いえ、見えませんね。そのチャット部屋に招待されれば履歴を見る事は出来ますが、そうでなければ見れません」
「機密性も十分と…………。ガモン君、この街に拠点が欲しいとの事だったが、それはどの程度の拠点で何をする為だね?」
「何を、ですか。…………まあこれは、俺のスキル『ガチャ・マイスター』に関わる話ですけど、『クラン』を作る為ですね」
「なるほど『クラン』か。ならばそこそこ大きな場所が必要になるな。…………わかった、それは私が用意する。貴族街には住む者のいない屋敷もあるからな、それらから見繕う事にしよう。むろん、金もいらない」
「いやそれは…………」
正直、そこまで貴族の世話になると後が怖い。それに屋敷を買うくらいの金なら今はあるのだ。…………まあ、自分で稼いだ金じゃなくてドゥルクの遺産なんだけど。使うのに気が引ける金ではあるんだけど。
でもやはり、そこまで貴族に借りを作りたくない。だからそれをノルドに伝えたのだが、ノルドはこれは投資ではあるが俺の為ではないと首を横に振った。
「いや、貸しと思う必要はないぞ。君との繋がりと、君がこの街に拠点を持つという事実が、すでに私にとって大きなメリットになっている。むしろこの程度の協力をしておかなければ、他の貴族に出し抜かれる危険性がある。これはターミナルス辺境伯家の為でもあるのだよ」
『ノルドの言う通りじゃな、受けておけ。この先ガモンの重要性は嫌でも貴族連中に広まるじゃろ、そうなれば面倒な横槍を入れてくる貴族も増えるぞ? それを防ぐ意味でも、ノルドなら適任じゃ。いつ戦争を仕掛けて来てもおかしくない隣国のテルゲン王国と独自の太いパイプを持つノルドは、下手な侯爵よりも発言力があるからのぅ。ノルドと繋がっておればお主を食い物にしようという貴族連中も動きづらかろうて』
…………フム。俺としては不安はあるが、ドゥルクがそう言うなら大丈夫か? ティムだって、ノルドのターミナルス辺境伯家を信用している訳だな。
「…………わかりました。よろしくお願いします」
「こちらこそだ。…………だが、一つだけ言っておく。リメイアはやらんからな! あの子は結婚などせずにずっとウチで暮らすんだからな! 本音を言えばリメイアの周りに男など近づけたくないんだ!!」
「…………考えてもいないんで安心して下さい」
ノルドのこれはもう親バカじゃなくてバカ親だな。コイツあれだ、娘を嫁にやりたくないからティムと婚約させてるんだな。筋金入りである。
◇
ノルドと一緒に城に戻ると、『アフタヌーンティーセット』の結界は無くなっていたが、大量のケーキやサンドイッチが乗ったテーブルを囲んでのお茶会は続いていた。
「お帰りガモン。一緒にケーキ食べないか?」
「いや食うけど、どうしたんだコレ」
「これはね、『アフタヌーンティーセット』でいった場所で、ラストオーダーまでに注文した物はテイクアウト出来るって言うから、してきたんだよ」
「マジで!? テイクアウトありなのアレ!?」
これはちょっとビックリだ。ティム達は店員さんにラストオーダーを聞かれた時に注文しながら、「あれとかこれとかも食べたいけど、食べ切れないかなぁーー」と口走ったそうな。
そしたらそれを店員さんが、『遠慮なく頼んで下さい。食べ切れなかった物はお持ち帰り用に包みますから』と言ってくれたので、テーブルにいっぱいに限界まで頼んだそうだ。
なにやってんのお前ら。いやまあ、そのおかげで俺も食べられるんだけど。
結局、この日はターミナルス辺境伯の城で一泊する事になった。夜になってもティム達の女子会はパジャマパーティーとなって続き、俺はノルドとバルタと共に飲み会を開いた。
ノルドの出す酒も中々良かったが、俺にはガチャから出てきた酒がある。ちなみに上位貴族であるノルドのお気に入りは、意外にもストロングなアレやチューハイだった。ノンアルコールにもかなりの興味を示していたが、それは酒が弱い奥さんと少し晩酌がしたいからだと言っていた。
「ガモン君、すまんがこれらの酒は後で買わせてもらってもいいか? なんなら、その食品ガチャとやらを回す金は私が出すから、回しては貰えないだろうか? もちろん手数料は払う」
「条件を飲んでくれるなら手数料はいらないよ。俺も飲み仲間が増えるのは嬉しいし」
「そうでやすね。ノルド様はお忍びで街の居酒屋に出て来る事もありやすし、これからはフレンド・チャットがありやすから居酒屋での合流も簡単ですぜ」
「おおっ! それはいいな。やはり酒は楽しんで飲むのが一番だからな!」
「その通りだな!」
こうして、俺達は飲み仲間として一気に仲良くなった。やっぱ酒だな。仲良くなるなら酒が一番である。
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