152回目 ノルド=ターミナルス
「おいガモン君! なんだこれは!? どうなっているんだ!? 大丈夫なんだろうな!?」
「…………大丈夫です」
「本当か? なんか答えるまでに間があったが本当に大丈夫か? 妻や娘に何かあれば処刑するぞ、貴様!!」
今、俺とターミナルス辺境伯であるノルドの目の前には、透明なドーム状の何かがある。見た感じから推察するならば『結界』で、この中にはティム達女性陣が入っている。
ちなみに中はいたって平和で、どこぞのお洒落なカフェレストランのような場所で、ティム達がテーブルの上に置かれた様々な種類のケーキが乗ったケーキスタンドから可愛らしいケーキを選んでは盛り上がっている。
そう、これは☆4『アフタヌーンティーセット』のチケットを使った事で起きた現象である。
中にいるのはティムとシエラにリメイアとその母のメラルダであり、俺達は中に入れずに外から見る中の様子は、まるでシャボン玉の中を見ているかのように歪んでいる。
そして、ノルドが結界に張り付いても大声を上げても無反応なので、中から外の様子は見えず声も聞こえないのだと解った。
要は彼女達の『アフタヌーンティー』が終わるまではどうしようもない訳だ。何度も声をかけたり張り付いたりしていたノルドも、やがて外から中に干渉する事は出来ないのだと諦めた。
「……………………仕方ない。ここは問題ないと言う君の言葉を信じる事にする。私とて、君の使う特殊な装備やアイテムの実物は見ているからな。…………そして、少し真面目に話をしようか。座りたまえ、ガモン君」
「は、はい…………」
今までの親バカぶりは何処へ行ったのか、ノルドはその顔を引き締めてソファーに座り、俺と向き合った。
その雰囲気は父親から上位貴族の物へと変わり、否が応にも緊張感が増す。しかしその緊張も、それと気づいたノルドが執事にコーヒーを出させた事でいくぶん和らいだ。
出て来たのは俺のガチャから出て来たのであろう『インスタントコーヒー』だ。香りに覚えがありすぎる。いつも寮で俺が飲んでいるヤツである。多分、事前にリサーチしていたのだろう。
「まず先に言っておくが、ターミナルス辺境伯家としては、『勇者』の邪魔をする気は毛頭ない。この街に拠点がほしいと言うならば協力するし、その他の事でも必要な事があれば何でも言って貰いたい」
「うぇ? …………ありがとうございます。でも、なんで…………?」
「それは君が『勇者』だから…………と、言いたいところだかそれだけではない。共同墓地の一件でのお礼も含まれている。正直、私はあの場所にダンジョンか出来たと聞いても信じられなかった。後で信頼出来る者を派遣して調べさせて、やっと危機に気づいたくらいだ。君達がいなければこの街も危険に晒されていた。街を代表して礼を言う。…………本当にありがとう」
「い、いえ! そんな…………!」
ノルドはそう言うと、自分の膝の上に両手を置いてしっかりと頭を下げた。辺境伯という立場にありながら、頭を下げる事ができるノルドに、俺はどこか感動しつつ戸惑った。
「そして、ここからは私からのお願いだ。私はこの街の領主として、そしてジョルダン王国の辺境伯として、君の後ろ楯になると誓おう。だから、と言うのもアレだが、…………一度ドゥルク翁に会わせてもらえないだろうか?」
「ドゥルクに…………ですか」
ターミナルス辺境伯がドゥルク=マインドに会いたがる、これは想定の内だった。問題は、どこで会わせるかだ。
ドゥルクは幽霊だが、日の光に弱い訳ではない。『◇キャンピングカー』の外にも出てこれるのだ。ただし、再び中に入るには俺の許可が必要になるらしいが。
だが、ドゥルクを外に出せるという事は、ドゥルクに会わせるだけならフレンドにしなくてもいいと言う事だ。
俺は当初、ターミナルス辺境伯にドゥルクに会わせるように頼まれたら、フレンドにせずにドゥルクに出て来てもらうつもりだった。でも、今はちょっと変わっている。
偉い人が頭を下げるってのは狡いよな、その人の好感度が一気に上がってしまうもの。それに俺をリラックスさせる為にあえてインスタントコーヒーを出して来るとか、これを全て計算ずくでやっているのなら、流石は上位貴族だ。こうなるとあの親バカっぷりも演技だったのでは? と思えてしまうが…………。
「……………………(チラッ)」
隙を見ては娘の方を気にしているあたり、この辺境伯の親バカは本物である。
結局俺は、辺境伯をフレンドに加える事にした。その時に辺境伯からは、自分もフレンドになった以上、確実に妻のマチルダもなりたがると言われたが、それはもうしょうがないかなと思った。
だってなぁ、あそこで女子会を開いている中から、一人だけフレンドにするのを拒否するなんて、できる訳がないのである。絶対にティムとかシエラにも頼まれるもの。断りきれないのは、分かりきっているのだ。
ちなみにノルドを連れて会いに行ったドゥルクは、先だって設置した大型テレビで、ポップコーン片手に、黄金の指輪を火口に捨てにいく有名なファンタジー映画を見ていて、会談と言うよりは映画の鑑賞会になってしまった。
その流れでノルドの所にもテレビを設置する事になったのは、当然と言えば当然の結果である。
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