151回目 ターミナルス辺境伯
朝練で汗をかいたからか、何だか体の調子が良い。
しっかり風呂にも入って朝食を食べて、それから身なりを整えるのに二時間かけて。俺はティムやシエラと一緒にカラーズカ家の豪華な馬車に乗り込んだ。御者を勤めるのはバルタである。
ちなみにシエラは、ティムともそうだが領主のご令嬢であるリメイアとも『フレンド・チャット』で仲良くしているらしく、リメイアに誘われての参加だ。
そしてターミナルス辺境伯の城へと着いた俺達は、ティムがいるからか当然のように顔パスで、流れるように執事に案内され、豪華な応接室へと通された。
かなり広い部屋に様々な調度品が飾られたその部屋は、間違いなく一級の応接室だろう。そしてそこで、ターミナルス辺境伯とその妻子が俺達を待っていた。
娘のリメイアは会った事があるどころかフレンドな訳だが、ターミナルス辺境伯夫妻に会うのは当然初めてだ。
「旦那様、ティム様達をお連れしました」
ここまで案内してくれた執事がそう伝えて下がったので、俺は入れ替わるように前に出て頭を軽く下げた。
「初めまして。ガモン=センバです。少し前から、タミナルの街に住まわせて貰ってます」
「……………………」
…………俺が挨拶をしたにも関わらず、ターミナルス辺境伯と思われる、金色の口髭を蓄えた金髪の優男は何も言わなかった。それどころか少し憮然とした表情をしている。
そしてそれを見かねたのか、その隣にいたリメイアよりも更にお嬢様感がました豪奢なドレスを着た女性が、小さなタメ息をついてから前に出て来た。
「貴方がガモン殿ですか。娘のリメイアから噂は聞いています。私はリメイアの母、マチルダです」
そう挨拶をしてくれたターミナルス夫人が、視線でターミナルス辺境伯に挨拶を促す。ターミナルス辺境伯はそれを受けても、しばらくは視線を逸らしたりしていたが、痺れを切らしたリメイアに「お父様、いい加減にしないと嫌いになりますわよ?」と言う一言で渋々口を開いた。
「ノルド=ターミナルスだ。…………お前か、ウチの娘に『フレンド』とか言う怪しいスキルを渡してやり取りしているのは…………! 言っておくが、私の目が黒い内はリメイアとの交際など…………痛っったぁっ!?」
辺境伯が妄言を口走りながら俺に詰め寄って来たが、突如として辺境伯の後頭部からスパーーン! という小気味良い音が響くと急に頭を抱えてしゃがみ込んだ。その後ろでは、羽の付いた扇子を持ったマチルダが笑みを浮かべていた。
…………いや見えてたけど、随分と遠慮のないフルスイングを叩き込んでいたぞ、あの奥さん。
「じゃあ、ガモンのお相手はお父様にお任せして、私達は女同士、あちらでお話しましょう? シエラも一緒にね?」
「え? でも、ガモン様を一人にするのは…………」
「大丈夫ですよシエラさん。ガモン殿も、男同士の方が気安いでしょうしね。それに私も、リメイアから話を聞いてシエラさんとは話してみたかったのよ。いいでしょう?」
「え? あれ?」
領主のノルドが頭を抱える中で、女性陣が連れだって少し離れた窓際へと移動した。そこにはいつの間にか丸いテーブルと椅子も四つ用意されており、メイドがお茶の準備までしていた。
え、ちょっと。俺をこの明らかに親バカな辺境伯と二人にするの? マジで?
「……………………」
「……………………」
「…………座りたまえ」
「は、はい」
「「……………………」」
き、気まずい。なんでこのオッサンはこんなに俺を睨んでくるのだろう? フレンド・チャットの事なら、俺はもうほぼ無関係だよ? あんたの娘とチャットした事なんかねーよ!
そして既に女子会と化した別テーブルからは、こちらとは打って変わってキャイキャイと盛り上がった声が聞こえて来る。出来るなら俺もそっちに混ざりたい。
「それで、君は『勇者』という事らしいが、うちの娘をどうするつもりかね?」
「いや、娘さんをどうこうするつもりはありませんよ? 俺はこの街に拠点を持ちたいだけで、リメイアさんとは殆んど関わりがありませんので」
「…………しかし娘は毎日チャットとやらをしているぞ? 私との会話の間すら惜しんでだ…………! この数日など、私との間にほとんど会話がなかった程なのだぞ…………!」
「いや、そんな事を言われましても…………」
それ俺のせいでもないよな? って言うか日本だと全ての娘を持つ父親が通る道ではないだろうか。娘がスマホで友達とのやり取りに夢中になって、父親をないがしろにするとか、良く聞く話だ。
「…………まあ、私も『勇者』の邪魔をする気などは無い。この街に拠点を持つ事にも協力はしよう。だがしかしだ、君とてもっと配慮が必要ではないかね? とくに父親と娘のふれあいを邪魔するなど、そんな事は許される事では…………」
マジかこの辺境伯めんどくせぇ。そんな風に思いながら娘にかまって貰えない父親の愚痴を聞き流していると、女子会を開いている窓際から歓声が聞こえた。
何かと思ってそちらに目を向けると、ティムが☆4『アフタヌーンティーセット』のチケットを出して皆に見せていた。
あれはティムと馬車の旅をしていた時に、俺がアレして、そのお詫びとしてティムに渡した『アフタヌーンティー』が楽しめるチケットだ。確か、四人まで参加出来るという限定的なアイテムだった筈だ。
そして、ティムがする説明が俺達の方にも聞こえてくると、四名という言葉を聞いて辺境伯が指差し確認をし始めた。
その指はティムから始まり、リメイア・マチルダときて最後に自分を指した。これで四人という事なのだろう、俺に勝ち誇った笑みを浮かべてくる。…………イラッとするな、このオッサン。
「四人なのですわね? じゃあティムと私にお母様とシエラでちょうど四人ですわね!」
「!!??」
そして父親の勝ち誇った笑みは、娘の無慈悲な言葉によって粉々に打ち砕かれた。…………いやそりゃそうだろう。あそこにちょうど四人いるんだから、オッサンが入り込む余地なんか無いって。
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