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15回目 テルゲン王国脱出

 朝、俺は街を少し離れた所で、ティムやバルタを相手に模擬戦をしていた。


 いや、模擬戦と言うよりは訓練だな。俺は武器を持たずに革の胸当てとランニングシューズだけを身に付けて、走ったり転がったりしてティムの魔法やバルタの石礫を避けているのだ。


 何故こんな事をしているのか、こんなにのんびりしていて良いのか、お前いちおう隠れているんじゃないのか、などなど文句は色々あるだろうが、しょうがないのである。


 昨夜泊まった街の先にあるのは、国境の砦だ。普通に進んだら、昼前に着いてしまう。そうなると、砦には責任者という立場の者がおり、カラーズカ侯爵の息子であるティムは、挨拶に行かなくてはいけない。責任者がいるならば、無視は出来ないのだ。


 そうなると、従者として付いている俺達も一緒に挨拶に行く事になるのだが、これがマズイ。あの砦の責任者である将軍は、俺が召喚された時にあの場におり、既にあの砦へと帰還しているからだ。


 俺達もかなり速い馬車で来ているのに、その俺達よりも速いの? と疑問に思って聞いてみると、あの砦を指揮する将軍は『ルフォマール将軍』と言い、『疾風』の二つ名を持つ将軍なのだと言う。


 その二つ名の元になったのは将軍が持つ、自身のスピードを五倍にする『駿足』と、自分と馬を強く結びつけてスキルを共有する『一体化』の二つのスキルで、この二つを発動する事により、馬に乗ったルフォマール将軍は王都から砦までの距離を数時間で走破するのだそうだ。


 とても任務に忠実で真面目なルフォマール将軍。王都での任務が終わったと同時に砦へと帰った将軍にも、一つだけ弱点がある。それは『無類の酒好き』という、よく聞く弱点だった。


 かの将軍は、仕事を真面目にこなし、キッチリ定時で上がる。そして砦内の街へと飲みに出かけるのだ。彼は隠れ家的な酒場がお気に入りである。



「…………俺も行きたい。…………ガペッ!?」


「ちょっ!? 大丈夫ですかい旦那!? いくら訓練とは言え、気を抜きすぎですぜ!!」


「うぐっ…………、だ、大丈夫だ。ゴメン」



 日本でよく行っていた居酒屋に思いを馳せすぎて、バルタが投げた木の枝をモロに顔で受けてしまった。今のは完全に俺の油断だ。



「…………ふぅ、この辺にしときやしょうか。それで、熟練度はどんな調子ですかい?」


「あ、ああ。いま見てみる…………」



 この訓練は、俺が攻撃を避けられるように成る為の物でもあるが、新装備の革の胸当てと、中々熟練度が上がらないランニングシューズの熟練度を稼ぐ為の物でもあったのだ。


 そして、それぞれの熟練度を見てみると、革の胸当ては『8』で、ランニングシューズは『20』となりカンストしていた。そして、ランニングシューズのスキルが解放される。


 ランニングシューズに新たに加わったスキルは、『体力+10』。その説明はそのまんまで、『体力値に数値にして+10する』となっていた。…………あれ? ショボくない?


 ☆4装備なのに、ひのきの棒よりもスキルがショボい気がする。熟練度を上げれば変わるんだろうか?


 …………まあいいや。歩きやすいし疲れないしで、俺はこのランニングシューズを気に入っているから。


 俺はランニングシューズの解放されたスキルを二人に話し、訓練を終えた。


 そして近くのモンスターを狩ったりしつつ時間を潰し、日が落ちた頃に国境の砦へと入った。


 俺達の思惑通り、ルフォマール将軍はすでに勤務を終えており、その副官という神経質そうな男とティムが二・三言葉を交わして、俺達は早々に手続きを終えて、砦のある街を出た。


 隣国となるジョルダン王国にも、ここと同じ様な砦が用意されており、その距離はそれほど離れていない。


 俺達が乗っているのは、それなりにスピードの出る馬車なので、俺達は門が閉まる前に、悠々とジョルダン王国側の砦へと入り、ジョルダン王国への入国を果たした。



「ここに来るのも久し振りだな」


「ティムは、ここまで来た事があるのか?」


「うん。父の仕事の関係で何度かね」



 カラーズカ侯爵は、このジョルダン王国の商人と商売上の繋がりがあるらしく、ティムもジョルダン王国には何度か足を運んでいるのだと言う。


 ティムは砦を警備する部隊長に、土産の品を渡し、慣れた様子で街の高級宿へと入った。


 いつもの通り、ティムは一人部屋で、俺とバルタが同じ部屋だ。



「やっとテルゲン王国を出やしたね!」


「ああ、三日しか経ってないのに長かった気がするな」


「旦那にとっちゃあ初めての旅でやすからね。でも、中々楽しかったですぜ」


「そりゃ俺もだな」


「へへっ、そこで、ちょいとお祝いに行きやせんか? この街は砦だけあって治安も良いし、この宿はしっかりしてるんで、多少なら若様を一人にしても問題ありやせんしね」


「おっ! それってもしかして…………!」


「飲みにいきやしょう!」


「おう! 行く! いい店とか知ってるのか、バルタ!」


「任してくだせぇ! あっしも元は冒険者だ、安くてうまい店に案内しやすぜ!!」



 こうして俺は久々に、そしてこの世界では初めて、夜の街へと繰り出した。


 バルタは、自信を持っていただけあって良い店に案内してくれた。この世界にも、モツ鍋屋があった事には驚いたし、何のモツなのか凄く不安だったが、バルタが案内してくれた店は貴族に肉を卸している店が経営しており、貴族に卸す高級肉の新鮮なモツを使った、とても良い店だった。


 そしてホロ酔い状態で宿へと帰った俺が、寝る前にとスキルのチェックをすると。『ストーリークエスト』の『テルゲン王国を出国する』がクリアされ、さっそく二つ目のストーリークエストが出ていた。


 二つ目のストーリークエストのお題は、『ティムをフレンド登録する』である。どうやらティムという少年は、俺のストーリーにこれからも深く関わるらしい。

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