144回 JK勇者
「『勇者』の遺物が『コスメ大全』なの? コスメって化粧品だろ? …………え? 何で?」
「そうですな。…………ざっと四百年程前、大魔導師ドゥルク=マインドや閃槍のフルバルド、炎精霊リザネアなどと共に魔王を打ち倒した『勇者』。その名も…………『ナミエ=アムロ』」
「嘘つけぇ!!」
突然に出てきた日本の有名アーティストの名前に、俺は思わず横に手を振りながらツッコミを入れてしまった。
「…………はい?」
「あ、ゴメン。こっちの話だ。ゲンゴウを嘘つき呼ばわりした訳じゃないんだ」
「いえ、実は我がご先祖様も同じ反応をしたと記録にあるのですが、…………やはりこの名前ですか?」
「まぁ…………うん。いや本名かも知れないけど、九分九厘は偽名だと思う。たぶん日本人なら誰でもツッコミを入れる」
「はぁ…………。まぁとにかくですな。この『勇者アムラー』は数々の偉業を…………」
「いやちょっと待って。アムラー? アムラーって名乗ってたの?」
何コイツ、何なのコイツ。ツッコミが追い付かないだろうが! 話が進まないだろうが! 次々ブッコンで来るんじゃないよ!
「…………ガモン殿」
「うん、ゴメン。もうツッコまないから、我慢するから」
四百年前に召喚された女性勇者『ナミエ=アムロ』。完全に偽名な彼女は魔王の討伐も然ることながら、様々な文化革命を起こした勇者でもある。
彼女は文化的な事に強い興味を示し、特にメイク道具やファッションに執着を見せた。彼女が王妃となった『アムステ王国(勇者アムラーによって命名)』は、国を挙げて文化革命に取り組み、化粧品やファッションはもちろん、芸術・芸能方面でも突出し、かの国の立ち上げた『アイドルライブ』は、今でも大盛況で執り行われている。
マジかよコイツ。全力じゃねぇか。というのが、その話を聞いた俺の感想である。
勇者アムラーのもたらしたファッションは一大ブームを巻き起こし、普通ならば日焼けを嫌い、病的なまでの美白を求める貴族の女性達が一斉に日焼けにこだわり、こんがりと肌を焼くのがブームとなった。
その当時の絵はあまり残されていないのですが…………。と前置きをしてゲンゴウが見せてくれた絵には、豪奢な貴族のドレスを着て髪を盛りに盛った女性が、小麦色な肌と目の周囲を白く塗っていてまつ毛バシバシという姿で微笑んでいる姿が描かれていた。なんだかなぁ…………。
彼女はコスメに拘り、様々な物を研究・開発させていたが、晩年になってそれらの処分に力を傾け始めた。
アイドル事業やファッションブランドについては手を出さなかったが、いわゆるギャル系のコスメについては開発を中止して、当時に描かれた自分の姿絵などは一斉に処分。自身もまた、日焼けを嫌い色白の化粧を施した姿で人前に出るようになった。
一説にこれは、彼女が勇者として勢力的に活動していた時代に口にしていた『ジェイケー』という儀式的な化粧を争いの象徴とし、平和となった世界からは排除しようという動きだったのではと言われている。
平和な世界を築くのなら、争いの姿など見せたくもないと言う、彼女の願いがそうさせたのだと。
……………………いや、単に黒歴史を消したかっただけだと思う。いい大人になってギャル時代の自分が恥ずかしくて仕方なくなったのではなかろうか。色々やっちまった過去を消したかっただけでは…………?
「まぁそんな訳でして、当時の資料は大体が紛失してしまったのです。特に化粧品に関しては材料が変わったり製造工程が変わったりと悪化の一途をたどりまして、今や昔の品質からはかけ離れた別物になったと言われております」
「四百年かぁ。資料がないとそうなるんだなぁ」
日本でも、あれだけあった『日本刀』の真の製造方法は失われたとか聞きかじった事がある。詳しくは知らないけど、そんな感じなのではないかと思う。
「ですが『ドゥルクの書庫』。そこには勇者アムラーの遺した『コスメ大全』が存在するようなのです」
「うん?そんなのがあると解ってて、なんで技術が廃れたんだ?」
「ドゥルク翁が出してくれなかったのですよ。『勇者本人が見せたくないと言った物だ。長く生きるワシと勇者を繋ぐ物として遺しておるが、どうしても見たければこの書庫を継いだ者に頼むのじゃな。何時になるかは解らんがの』と、にべもなく断られました」
「まぁ、仲間が遺した日記を見せろって言われているようなものだからなぁ…………」
「それはワシも思いますが、ガモン殿がもたらしてくれた化粧品の実物がある今! その『コスメ大全』があればこの世界でも化粧品を再現できる気がするのですよ! なんとかお願いできませんか?」
「うーーん…………」
なるほど。それで書庫を継いだ俺に頼んできた訳だ。でもなぁ…………。ゲンゴウの気持ちも解るけど、それって勇者アムラーが封印した黒歴史を暴くって事だろう? 気が引けるなぁ。
どうにも気乗りしない俺は、ドゥルクの意思を確認する事にした。
なのでドゥルクの幽霊の存在と、明日の午後にギルドマスターのモンテナとドゥルクを会わせる話を打ち明け、それに参加しないかと持ちかけた。
ドゥルクの幽霊が存在する話を聞いたゲンゴウは驚愕に眼を見開いたが、その会合には是非とも参加させて貰うと息巻いた。
…………それにしても『勇者アムラー』か。まさか完全な女子高生が召喚されているとは思わなかったな。
芸能と芸術の国『アムステ王国』か。いつか行ってみたいものだな。
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