14回目 増えるガチャ
「…………ダブルエンボス加工? ミシン目入り? の、トイレットペーパー…………?」
「…………これが尻を拭くために存在していると? 旦那のいた世界ってのはどうなってんですかい。この柔らかな紙に浮き出る刺繍。とんでもなく手が掛かってやすぜ? しかも何やら香りまで付けられてるじゃねぇですかい」
「こんなの、芸術品として王族に献上されるレベルだよ? なにこれ?」
「…………改めて言われると凄いんだなトイレットペーパー。向こうじゃこれ、消耗品として安く大量に売られているんだけどな。種類もいっぱいあるし」
「……………………変な世界」
王都を出て二日目の夜。国境の砦から近い街で宿を取った俺達は、俺とバルタの部屋に集まって今回の戦利品を見ていた。
うめえ棒などの駄菓子を適当に食べながら、今はトイレットペーパーを見ている。皆で集まってマジマジとトイレットペーパーを見る事があるなんて考えもしなかった。俺の目の前では超絶イケメンなティムがトイレットペーパーを撫で回して匂いをかいでいる。ヤバイ、吹き出しそうだ。
そして、このトイレットペーパーをゲットしたからなのか、俺のスキル『ガチャ・マイスター』にも変化があった。新しいガチャとして『生活ガチャ』が解禁されたのだ。
それが増えたのを見た俺は、もしやと思ってクエストを見てみると、確かにあった。『ガチャで生活品を一種類以上出す』というクエストが。これに気づく前に、クリアしたクエストをまとめて報告したから、それに含まれていたんだろう。
報酬はもちろん、『生活ガチャの解放』である。
「ガモン。その『生活ガチャ』ってのは、こういうのがいっぱい出て来るガチャなのか?」
「うん…………。そうなんだけども、しかも☆3より上しか出て来ないらしいんだけど…………なぁ?」
「…………一回につき金貨一枚ですかい。何が出て来るか解らない事を考えると、べらぼうでやすね」
「ガチャストーンは使っちゃったからな。まあ、金で引くのがガチャの基本ではあるんだけどな」
そう。ガチャストーンを使い切りチケットも無い今、ガチャを引く為にはリアルマネーが掛かるのだ。それも一回につき金貨一枚。日本円に直すと、一回十万円である。トイレットペーパー18ロールが十万円。ハイパーインフレでも、もっと大人しいと思う。
「でも、引いてみるべきだと思う。ガモン、お金は僕が出すから、取りあえず10連ガチャってのを引いてみて欲しい」
「お、おう」
何が出るかも分からない物にポンと百万。侯爵の息子は、やはり懐が深いようだ。
ガチャメニューを開き、生活ガチャをタップすると画面が切り替わった。そこは、様々な日用品が高く並べられた店舗であり、その中心部に、陶器で作られたような白いガチャマシーンがあった。
周囲の日用品が出て来るのか? もの凄い種類なんだけど。ティッシュや歯ブラシなんかは当然として、化粧品やら食器やら、果てはテントとかまで見えるんだけど。幅広くないか? …………楽器も? 趣味的な物も入ってるのか? これは『ガチャ・マイスター』がそう決めているのだろうか? よく解らないな。
ちなみに出て来るレア度の確率は、☆3が99%、☆4が0.99%、☆5が0.01%となっている。…………え? 日用品の☆4とか☆5があるの?
ちょっと戦慄を覚えたが、今は確率の話だ。
☆4☆5の、百分の一、万分の一という確率は変わらず。その変わり☆3が必ず出るようになった。これの装備ガチャが欲しいところだが、さっきクエストで探した条件は、『熟練度が100の装備を一つ作る』だったので、当分は無理だ。
何せ熟練度を100にするには、まず同じ装備を五個集めなくてはいけない。一番出やすいのであろう、ひのきの棒ですらまだ二本だ。あと三本て、しかもノーマルガチャで三本は正直キツイのだ。
まあそれは後にして、今は生活ガチャだ。
俺はティムから大金貨を一枚貰い、それをガチャ画面の右側に現れた投入口に入れた。
そして出て来たのは。赤・赤・赤・赤・赤・赤・赤・赤・赤・赤だった。もう赤がゲシュタルト崩壊しそうである。
「ま、まあ、99%だしな。そ、そりゃこうなるよ。わかってた。うん、わかってた」
「…………旦那。手が震えてますぜ」
バルタのツッコミは横に置いといて、リザルト画面である。
☆3 オーラルケアセット
☆3 電気シェーバー
☆3 バスソルト
☆3 簡易テント
☆3 トイレットペーパー18ロール
☆3 ボックスティッシュ五箱
☆3 欧米製包丁セット
☆3 リングノート五冊
☆3 ボールペン十二本
☆3 赤ちゃん用オムツ
と、なった。うーーん、百万かぁ…………。
取り敢えず、金を出してくれたティムに見せる為に外に出して説明タイム。するとティムはオーラルケアセットやバスソルトに興味を持ち、バルタは電気シェーバーや簡易テント、そして欧米製包丁セットに興味を示した。
「…………これ、もしかしたら白金貨並みの価値があるかも知れない」
「…………ですね。この簡単に広げて畳めるテントなんかは、特許が取れますぜ。電気シェーバーと言いましたか、コイツも貴族にはバカ売れですぜ。冒険者にだって欲しがるもんは居るでしょう。実際、あっしが欲しいですから」
「うーん。でも電気シェーバーはなぁ。これ、充電がなぁ…………? 何だコレ? コンセントじゃない」
「ああ、そりゃ魔道具によくあるヤツでさぁ。魔石を当てると魔力を溜められる装置でやすね。ちなみに魔石ってのは、モンスターから取れる魔力の塊でさぁ。それなりに大きい物でないと、魔力は溜められやせんけどね」
魔力充電って訳か。なるほど、抜かりは無い訳だ。
その後も俺は、ティムから金を貰って二回10連ガチャを引いた。…………全部☆3だった。そしてシャンプーやリンス、石鹸や化粧品にサランラップなどが新たに出て来て、そのほとんどをティムが買い取ってくれた。
ティムが金を出したんだから、欲しいならあげると言ったんだが、これ程の商品をそれはマズイという事で、なんと白金貨五枚になりました。日本円にして五千万ですよ五千万。ヤバイ、俺ちょっとバカになりそう。
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