128回目 恋は盲目
ダンジョンマップに写った『サリアナイト』と思われる青い光点を目指して、アンデッドを駆逐していった俺達だったが、何故か目的の場所に『サリアナイト』の姿は無かった。
「…………居ないぞ? ここに居るはずだったろ」
「先程、岩の塊が落ちたかのような音が響きましたが、もしやダンジョンの変質が起きたのではないですか? だとしたら、目的地が変わってしまったのかも知れません」
「それはマズイな。俺じゃ『初級ダンジョンマップ』を使っても、バルタみたいな精度にならないぞ」
この地下墓所ダンジョンはまだ出来たばかりの不安定なダンジョンだ。シエラの言うように本当にダンジョンの変質が起きたんだとしたら面倒な事になる。
だがその懸念は、攻撃用ドローンの姿で周囲を飛び回っていたキャンパーによって否定された。
『いえ、どうやらダンジョンの変質は起きていません。ワタクシの本体がある位置が変わっていませんし、何よりこの場にはポーションの空き瓶が転がっています。これはここに人がいたという証拠でしょう』
確かにキャンパーの言うように、床には俺達が倒したアンデッドのドロップアイテムや魔石に混じって、ポーションの物と思われる空き瓶が転がっている。でもだとしたら、サリアナイトの三人は自分達で移動した事になる。
それはそれでマズイだろ。ダンジョンマップの更新をすれば三人は見つかるかも知れないが、それにはバルタの力が必要だ。
「…………一旦、全員と合流するか」
「そうですね、それが良いでしょう」
シエラとの相談のあとで皆に連絡を取ろうと『フレンド・チャット』を起動すると同時に、バルタからのチャットが届いた。
「おっと、どうやらティム達がサリアナイトの三人を見つけたみたいだ。三人とも無事だってさ」
「そうですか。それは良かったです」
「うん。で、取り敢えず『◇キャンピングカー』で合流する事になった」
「ではすぐに戻りましょう。早く彼女達の体調も見てあげたいですからね」
ティム達に何があったのか話も聞きたかったので、俺達は急いで道を引き返した。途中で、俺達と同じようにバルタから連絡を受けたと言うトルテたちと合流して、俺達は『◇キャンピングカー』へと戻って来た。
…………戻って来たのだが…………。
「「「王子様…………」」」
…………そこには女性パーティー『サリアナイト』と思われる三人の少女がいた。だが、その全員が胸の前で両手を組み、うっとりとした顔でティムとアレスを見つめていた。
その三人の熱視線には、ティムはともかくアレスは困惑しているようだ。いや、俺達も訳分からねぇよ? 何これ、どういう状況?
「あ、旦那。お帰りなさいやせ」
「ああ、バルタ。…………サリアナイトの三人は助け出せたみたいだな」
「ええ、見ての通りでさぁ」
「見ての通りだとイマイチわからねぇんだけど。何あれ?」
「…………まあ、死を覚悟する程にピンチな場面を、颯爽と現れたイケメンに助けられると、ああなるって事ですぜ」
…………そんなマンガみたいな事が起きたのか。で、マンガみたいな状況になってる訳だ。…………なんだかなぁ。
「サナ! 無事だったか!!」
「リア! 大丈夫か!?」
「アナちゃん! 怪我してない?」
と、その時。サリアナイトの三人目掛けて、俺達と一緒に戻って来ていたノーバスナイトの三人が駆け寄り、それぞれ声をかけた。
「「「……………………(ウットリ)」」」
「「「…………あ、あれ…………?」」」
しかし悲しいかな、サリアナイトの三人の眼にはティムとアレスしか映っておらず、ノーバスナイトの三人の声も届いていなかった。
ノーバスナイトの三人は、サリアナイトの三人のウットリとした表情と、その視線の先にいるティムとアレスを交互に見て、全てを察したのか物凄い表情になった。
まるで、いいなと思っていた仲の良い女性の心を、横から現れたポッと出のイケメンにかっ攫われたような、そんな表情だ。…………いや、まるでじゃなくて、そのままだったな。
これは可哀想である。しかし誰も悪くないので、ノーバスナイトの三人には強く生きて貰いたいものだ。
「あ、ガモン。戻って来たね」
「おう、ただいま。まさかティム達が助け出すとは思って無かったな。どういう状況でこうなったんだ?」
「それを話すのは構わないけど、その前に彼女達をフレンドにしてくれないか? じゃないと『◇キャンピングカー』に入れないからさ。早く休ませてあげたいんだ」
「あぁ、まあ確かにそうだな。解った」
俺はサリアナイトの三人をフレンドに登録し、『◇キャンピングカー』の中へと招いた。
ちなみに、フレンドにする旨の説明はティムとアレスに頼みました。だって俺じゃ聞いてくれなかったんだもの。
ティムやアレスが話すと素直に聞いて、アッサリとフレンド登録出来たんだけどな。…………恋は盲目とは、よく言ったものである。
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