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127回目 『サリアナイト』と王子様

 我聞達が手分けをしながら地下墓所ダンジョンの二階層を攻略している時、同じく地下墓所ダンジョンの二階層の奥の部屋で、ひとつの動きがあった。



「…………準備できたよ。何度も言うけど、十秒くらいしか持たないからね」


「わかってる。でも、もうアイテムも食料も残ってないし、やるしかないよ」


「うん。南の部屋からはアンデッドが次々溢れて来るし、西の部屋に逃げれば、何とかなるかも知れないもの。あっちからはまだアンデッドが来てないから、ここから出る出口があるかも…………!」



 南の入口からアンデッドが入って来る部屋の北側に、魔道具の結界を張って籠城しているのは『サリアナイト』という女性のみの冒険者パーティーだった。


 Eランク冒険者である彼女達は、タミナルの街を拠点として近くのダンジョンに潜る、一般的な冒険者だ。そしてタミナルの街が故郷でもある為、彼女達は街へ帰って来るたびに、恩返しの意味も込めて街の依頼を受けていた。共同墓地の依頼も、そのひとつである。



「じゃあ、心の準備はいい?」


「「うん!」」



 サリアナイトの三人は、足元に広がる魔方陣の真ん中にある『お香入れ』のような物に手をかける。


 ずんぐりとした壺に三つ足の付いたそれは、彼女達がダンジョンで手に入れた自慢のお宝で『隠者の空室』と言う魔道具だ。


 その効果は一定空間の隔離であり、魔石を壺の中に入れる事で魔石のエネルギーが尽きるまでの間、外からは発見出来ない結界を張る魔道具だ。


 よほどに強力な魔法やアイテムを使ったなら、その結界を無効化できるが、少なくとも出来立てのダンジョンにいるアンデッドには打ち破れない代物である。…………ただしそれも、魔石が持つのならばの話だ。



「リナ! アナ! いくよ!」



 彼女達の手持ちの魔石は既に尽き、部屋に入って来るアンデッドも増えた事で彼女達は一か八かの賭けに出た。


 幻術士であるアナが作り出した幻想の三人を囮にして、風の魔法使いであるリナが風で巻き上げた粉塵に隠れて隣の部屋へと走るのだ。


 サナが『隠者の空室』を地面から引き抜くと同時に魔方陣が消え、その場に砂煙と幻想の三人の姿が現れる。


 そしてその姿に気づいたアンデッドが集まる中で、砂煙は風と共に西へと移動していき、ついには西側の出入口から隣の部屋へと滑り込んだ。



「や、やった…………!」



 隣の部屋へと入ると砂煙は晴れ、三人が姿を現す。そしてそれと同時に、扉など無かった出入口が、上から落ちて来た石の板によって閉ざされた。



「…………え?」


「…………うそ」


「…………そんな、せっかく逃げて来たのに…………」



 二階層の北西にある一室には、モンスターの影など無かった。あれだけ全面を埋め尽くしていたアンデッドが、その小部屋にだけ存在しなかったのだ。


 小物のアンデッドは、その小部屋には入って来ない。なぜならその部屋は、最奥である三階層へと繋がる階段を護る『階層ボス』の部屋だったからだ。


 サリアナイトの三人の前で、地面から這い出るように大柄なスケルトンが姿を現した。


 その姿は、三人分をまとめた足腰に、三つの胴体が生えた異様な姿だ。そしてその手には、もう朽ちる寸前の剣と盾が、六本あるそれぞれの手に握られていた。



「ふぅぅ…………! 二人とも、やるよ! こんな所で死ねないでしょ!!」


「…………私、もうあまり魔力無いからね…………!」


「…………ポーションも使い切ったしね。…………でも、死にたくない…………!」



 三人とも、疲労とずっと続いた緊張感で既に満身創痍だ。とてもボスと戦えるようなコンディションではない。


 それでも、やるしかない! と、三人は震える体をなけなしの気力で奮い立たせる。


 そして、とても人の物とは思えないボスの頭蓋骨が三人を捉えるのとほぼ同時に、石の壁に閉ざされていた南の入口が氷と稲妻によって粉砕された。



「居た! 多分あの娘達だ!!」


「やっぱりボス部屋でしたぜ! デケェのが構えてますぜ!!」


「俺が行きます!! ティム殿! 援護を!!」


「了解!!」



 粉砕された入口から飛び込んで来た白銀の鎧の青年が、稲妻を纏う白銀の剣を手に、ボススケルトンに襲い掛かった。


 その剣技は剣士であるサナから見ても美しく洗練された物であり、ボススケルトンの縦横無尽の剣をキレイに捌いていく。


 そして見るからに貴族の風貌をした、青い弓を構えた少年が放つ矢は、氷の矢となってボススケルトンを氷の柱に縫い止めて、そこを白銀の青年が振るう剣が稲妻と共に砕いていった。


 氷の欠片と稲妻が舞い踊る何とも美しい戦いに、サリアナイトの三人は二人の王子様が自分達を助けに来てくれたのだと涙した。



「「「王子様…………」」」


「えっと、お嬢さん方は『サリアナイト』のお三方でよろしいんで? …………あれ? …………あーーっと、…………コリャ聞こえてやせんね」



 …………何やら自分達に話かけてくるオジサンもいたような気もしたが、両手を組んでただ目の前の美しい光景を見つめるサリアナイトの三人の眼には、二人の王子様の姿しか映っていなかったのだった。

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