120回目 初級冒険者セット
共同墓地の西、地下墓所のある場所までやって来た俺達は、地下墓所の入口を見て眉を寄せた。
その理由は地下墓所の入口にあった。その場所は明らかに建物が崩れて瓦礫が積み重なった形であるにも関わらず、その瓦礫の山と地面に空いた大穴で、まるで骸骨が大きく口を開けているような形状をしていたからだ。
「なぁシエラ。一応聞いておくけど、前からこうな訳じゃないよな?」
「え、ええ、違います。ここには祠のような建物があった筈ですわ。その祠の中に簡素な礼拝堂と、地下に繋がる階段があったのです」
完全に死霊系のダンジョンと化している地下墓所を見て俺の顔が引きつる中、トルテが前に出て俺達を急かした。
「形なんかどうでもいいよ! この中に兄ちゃん達がいるんだ! 早く入ろうぜ!!」
トルテとしては一刻も早くザッパ達を救いたいのだろう。しかしそれにはティムが待ったをかけた。
「ちょっと待ってくれトルテ。僕達にはこの場所がどうダンジョン化していたのか報告する義務もある。ほんの少しだけだ、待っててくれ」
「うぅ…………。少しだけだぞ!!」
「ああ、すぐ終わるよ。バルタ、手伝いを頼む」
「へい。解ってまさぁ」
ティムはバルタに手伝いを頼むと、腰に下げていた小さなマジックバッグから☆3『デジタルカメラ』を二つ出して、バルタと共にダンジョン化した地下墓所の撮影を始めた。
これは後でギルドマスターやこの街の領主に報告する為の物だろう。ティムの所には☆3『フォトプリンター』もあるから印刷も出来る。現代機器が超便利。
俺達はティムとバルタが撮影をしている間、周囲の警戒をして、撮影が終わると簡単に隊列を整えて地下墓所の中へと入っていった。
「おおーー、これがダンジョンか。…………へぇーー」
ダンジョンと化した地下墓所に入る時に、なにやら薄い風の膜をくぐったような、そんな不思議な感覚を味わった。その薄い風の膜が、外の世界とダンジョン世界の境界線みたいなものなのかも知れない。
地下墓所ダンジョン。そこは石畳の床と木の板が張られた壁に岩がゴツゴツとした天井という、なんともどっち付かずな姿をしていた。
そして床や壁のごく一部には頭蓋骨が埋まっており、その眼と大きく開いた口の中に燃える青白い炎が光源となってダンジョンを照らす、ひどく不気味な面も持っている。
「なるほど、コイツは確かに出来立てのダンジョンですぜ、ダンジョンマスターによるダンジョンメイクも終わってない不安定なダンジョンでさぁ」
「これは面倒だね。こういうダンジョンは、ふとした時に内装がガラリと変わるから、マッピングの意味が無くなってしまう。これじゃあ確かに、外に出られないだろうね」
「ええ。あっしでも面倒に感じるんじゃ、駆け出しの冒険者じゃ逃げられやせんぜ」
ティムとバルタの解説によると、このダンジョンはまだどんなダンジョンになるかを決められていない。今まさに、試行錯誤を繰り返している所なのだと言う。
だから、ダンジョンの中程まで進んでも、ダンジョンマスターの気まぐれで西にあった入口が北に移動したり、南にあった次の階層への階段が西に移動したりするらしい。
しかも、中にいる俺達はそれに気づけない。対策としては腕のいい斥候の『探知』スキルをこまめに使う事くらいだそうな。
なるほど、それは確かに駆け出しの冒険者だと詰むだろう。『探知』スキルは僅かだが魔力を使う。そして人の魔力には限界がある。その魔力の回復を待っている間にもダンジョンは様変わりするのだ。
「つまり、ちょうど良かったって事だな。さっきギルドに寄って、ランクを上げといて本当に良かった」
「そういう事だね」
実はここに来る前に寄ったギルドで、俺とトルテとシエラはDランクに上がっていた。クリムゾン・アントの討伐と、クリムゾン・アント及びそのクイーンの生きた卵の捕獲で、Eランクを飛ばして一気にDランクまで上がったのだ。クリムゾン・アントの一件は、それほどヤバかったって事だ。
そうしてギルドからDランクのギルドカードを受け取った瞬間、『ガチャ・マイスター』のストーリークエスト『冒険者ランクを、Eランクまで上げる』をクリアした事になる。
それによって出て来た次のストーリークエストは『拠点を確保する』と『フレンドを十人以上集める』だったが、フレンドは既に十人いたのでこれもクリア。その報酬は、フレンドの上限が百人から百五十人に増えるという物だった。
それはいい。ちょっと微妙とか思ったが別にいい。問題はその前にクリアした『冒険者ランクを、Eランクまで上げる』のクリア報酬だ。
報酬として貰ったのは『初級冒険者セット』。その内容は☆3『魔法のテント』、☆3『魔法の小袋』、☆3『初級ダンジョンマップ』の三点セットだった。
説明を見てみると。
☆3『魔法のテント』
・ある程度の広さがあれば、どんな場所にでも張れるテント。その床は必ず平らになる魔法のテント。
☆3『魔法の小袋』
・平均的な段ボールひとつ分の物が入るマジックバッグ。時間停止効果付きで、作りたての料理を入れておけば、どこでも温かい料理が食べれるのが嬉しい。
☆3『初級ダンジョンマップ』
・ダンジョンの中で使えば、今いる階層を完璧にマッピングしてくれる便利なマップ。『探知』スキルを持つ者が使えば、その熟練度に応じてモンスターの場所や宝箱やトラップの位置も教えてくれる。
と、このように三つとも良いアイテムだ。中でも☆3『初級ダンジョンマップ』! この地下墓所ダンジョンでは、これがマジで助かるよね!!
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