118回目 共同墓地に行く前に
「すげぇ英雄じゃねーか。ドゥルク=マインド」
「ええ。まさに英雄でさぁ」
「後日談として、ドゥルク老師の活躍が民に広がると各地でデモが起きた。ドゥルク老師の忠告を聞かずに、金と兵を惜しんだ国や冒険者ギルドに対する不満が爆発したんだ」
「そりゃそうだろうな」
「事態を重く見た国や冒険者ギルドは、上層部の国で言えば大臣クラスを軒並み変える事になった。逆にドゥルク老師に手を貸した者達は人気を集めて中枢に組み込まれる事になったんだ」
「ほとんどトカゲの尻尾切りでやしたが、風通しが良くなったのは事実でさぁ。まぁ、その後にドゥルク老師の遺産でまた揉め始めたのには呆れやしたがね」
へぇーー。そんな事があったのか。
そうなると、ドゥルク=マインドと言う爺さんに会ってみたくなるな。幽霊でもクエストの依頼を出して来るくらいなんだから、会えるかも知れないよな。
「遺産問題ってのは異世界でもあるのか。…………そういやストーリー・サブクエストの報酬が『ドゥルクの書庫の鍵』ってなってたな。これもう無いんじゃないのか?」
遺産問題で揉めに揉めたなら、既に書庫も空っぽだろう。いや、トルテの兄貴を救うのが目的だから報酬なんて無くてもいいんだけどな。
「「『ドゥルクの書庫の鍵』!!??」」
「うおっ!? ビックリしたぁっ!? なんだよ急に大声出して!」
「マジですかい、そりゃあ。報酬はガチャのチケットとかじゃなかったんですかい?」
「いや、チケットは緊急の方で貰えるけど、何かストーリー・サブクエストの方はそうとも限らないみたいなんだよ」
アレス達の時も天使が作ったアイテムだったしな。一応、☆が付いてたからスキルの倉庫には入れれたんだけどな。そういや、今回は☆すら付いていないな。
「こりゃ大事になりやすぜ。まあ、手に入ればの話になりやすがね」
「うん。どうせ墓地に行く前にギルドに寄らないといけないから、その時にギルドマスターに話を通しておこう」
「ギルド? ティム、それってもしかして、ギルドの力を借りるって事か?」
「いや、そうすると面倒事が増えるから、報告だけはして、墓地には僕達だけで行く。そうじゃなくて、共同墓地の清掃やモンスター討伐の依頼は常に出ているから、一度止めておいて貰うのさ。二次災害を防いでおかないと、面倒だろ?」
「なるほど、そりゃそうだな」
と言う訳で、皆で食事をしてバフもしっかりかけた俺達は、共同墓地に行く前に冒険者ギルドへと寄った。
そしてギルドマスターであるモンテナと面会した俺達は、現状と俺の素性についてモンテナに報告した。俺の素性と言っても、『どうやってその情報を得たのか』という質問に対して『勇者のスキル』の一言で片付けた感じだ。
そして俺とティムが並んでソファーに座り、対面のソファーにはモンテナという配置で、話は進んでいく。
「はぁーー…………。カラーズカ侯爵からガモンに注意を向けといてくれと手紙を貰っていたから、何かあるとは思っていたが『勇者』とはな」
「そういう訳なので、取り敢えず共同墓地での依頼を取り下げておいて下さい。理由はお任せします」
「そりゃそうするが、お前も行く気かティム。それにそこがダンジョンなら、まだFランクのガモン達には入る資格が無いんだぞ?」
ティムが行くのを止めたいのか、ジロリと睨んで来るモンテナだが、ティムはそれを軽く受け流した。
「ダンジョンと言っても、あそこはまだ正式には認められていない、あくまで共同墓地ですから。ギルドの許可はいらないでしょう? それにクリムゾン・アントの件がありますから、ガモン達のランクはもう上がってるも同然。それが早いか遅いかの違いでしかないでしょう?」
「…………うぅむ、確かにガモン達のランクアップの準備はすでに出来てはいる。だが、正直バルタ一人でこなせる話だろ。本当に猶予が数日あるってなら、他の冒険者でもいいはずだ。バルタだけで不安だってなら、口の堅い信用できるヤツを用意するから…………」
「『ドゥルクの書庫の鍵』。それがガモンのスキルが提示した達成報酬です」
「なんだと!?」
ガタンッ!! とソファーを蹴る勢いでモンテナは立ち上がった。片足が義足である事を忘れていたのか少しよろけたが、義足である事を忘れるほどの衝撃を受けたって事のようだ。
…………そんなにヤバイ物なの? その『ドゥルクの書庫の鍵』って。
「ガモンならそれが手に入りますし、その中身を安全な場所に保管する事もできます。他に手に入れる方法があるのかは分かりませんが、渡したくないでしょう? 信用できないヤツらには」
ティムの言葉にモンテナは悔しげに呻き、大きくため息を吐きながらソファーにドッカリと腰を下ろした。
「……………………手に入ったなら、一応は見分させてくれ。どんな物があるのか、どれほど安全な場所に移すのかをな。それを知らないと安心して眠れねぇ」
「わかりました。…………いいよね? ガモン」
「あ、ああ」
この話し合いの中で俺が発した言葉はこれだけでした。ティムが頼りになりすぎる。ティムが侯爵家のご令嬢で、こういう事に慣れているのだとは解っているが、俺はティムより年上だし、一応社会人なんだけどなぁ。
見ている事しか出来なかった自分が、ちょっと情けない。しっかりせねば。
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