114回目 不穏
ギルドの奥にある個室に通された俺達は、そこでギルドマスターと会う事になった。
「初めまして、だな。俺はこの街の冒険者ギルドでギルドマスターをしているモンテナだ。よろしく頼む」
モンテナと名乗ったオッサンは、かなり鍛えられた身体をしており、聞くまでもなく元・冒険者なのだろうと想像がついた。
見た感じメッチャ強そうでまだまだ現役でいけそうなのに、ギルドマスターって事は冒険者は引退しているのだろう。詮索するつもりはないが、先程この部屋に入って来る時に左足を引きずるように歩いていたが、それが原因で引退したのかも知れない。
「初めまして、俺はガモン=センバといいます。こっちの二人は、シエラとアレス。そして浮いているのがキャンパーです」
「「よろしくお願いします」」
「…………フム。アレス? 聞いていた話だと、トルテと言う少年ではなかったか?」
「トルテは今ちょっと外しています。アレスとは、今回の依頼で知り合ったんです」
「そうか、まあそれはいい。問題はその浮いているヤツだな。モンスターの一種か? そんなヤツは初めて見たが…………」
『失礼ですね。ワタクシは『◇キャンピングカー』の管理AIにしてマスター・ガモンの忠実なる腹心、『キャンパー』です』
「……………………言ってる事が何一つ解らんが、話は通じるようだな。まあ街の人間に危険が及ばないならば、とやかく言わないが、大丈夫なんだな? 何かあればお前の責任になるぞ、ガモン」
「はい、大丈夫です」
「そうか、ならいい」
…………なんか随分アッサリ終わったな。キャンパーが簡単に受け入れられるとか。やっぱりギルドマスターとなると色んなスキルを見ていたりとか経験があるだろうから、ひとあじ違うと言う事だろうか。
「では本題に入ろうか。君達が受けたアカメアリの討伐、及び蟻塚の撤去依頼で何があったのかを教えて貰いたい」
「はい。まずヘテナ村に到着した俺達が見たのは、まるで城のようなデカさの蟻塚でした…………」
◇
「……………………ふぅーー。クリムゾン・アントの蟻塚とはな。しかも卵が大量にあったとなれば、下手をすればこの街まで被害が及んだかもしれんな」
「信じて貰えるんですね」
「信じるも信じないも無いだろう。こんだけの証拠を並べられてはな…………」
そう言ってモンテナは手に持っていたクリムゾン・アントや城のような蟻塚を写した写真をテーブルに放り投げた。そのテーブルの上には、写真の他にもクリムゾン・アントの頭や素材、クリムゾン・アントの卵やらが並べられている。
まあ確かに、これだけの証拠があれば信じる他はないだろう。ちなみに写真は、キャンパーが映像データをプリントアウトした物である。
「しかしクリムゾン・アントの卵か。女王の物もあると聞いたが、それは本当か?」
『状況から考えて間違いないと推察されます。次代の女王が生まれる確信がなければ、女王は自爆という選択肢は取らないでしょう』
「それは確かにそうだな。『種を残す』それはヤツラの本能だ。さすがに本能に逆らって自爆はしないだろう」
そう言いながらモンテナはクリムゾン・アントの卵を持ち上げて軽く回しながら見て、溜め息をつきながらテーブルの上に再び置いた。
「Fランクに上がって初の依頼で、よくやってくれた。ランクアップは期待していてくれ。それとガモン、素材と卵は高く買取るから、あとで提出してくれ」
「はい!」
「ウム。…………あぁそうだ。ここまでの事態になっていたのだから、ギルドから特別報酬が出る。だが情報や持ち込まれた素材で金額を決めるから、渡すのに少し時間が掛かる、支払いは後日とさせてくれ。…………話は以上だ」
「わかりました。では俺達は失礼します」
そうして話を終えて、部屋を退出する時。
「……………………また『ダンジョン・コア』か…………」
ふと、ギルドマスターのそんな呟きが聞こえた気がした。
◇
ギルドマスターとの話が終わった後、俺達は隣の建物に言って素材の買い取りを申請し、クリムゾン・アントにまつわる素材と大量の卵を提出した。
応対してくれたギルド職員は、生きているクリムゾン・アントの大量の卵(しかも女王含む)に顔を青くしていたが、ベテラン感のある職員が「クリムゾン・アントの卵は高温で温め続けない限り孵ることは無い」と教えてくれたので、何とか落ち着いていた。
ちなみにその時、クリムゾン・アントの卵の大きさなどでオスとメスの違いや習性について教えてくれたが、正直イマイチ覚えていない。だって蟻の、しかも溶岩地帯にしかいないクリムゾン・アントの習性なんて全く興味ないもの。
ただ、キャンパーはよく話を聞き、質問などもしていた。心なしか楽しそうでもあった。
そして査定と買い取りが終わると、クリムゾン・アントの素材は大金貨五枚になり、大量の卵はなんと白金貨四枚になった。赤字回避である。
この売上は、取り敢えず俺の赤字分である白金貨三枚を補填した後に、残った分を山分けとなる。ちなみに白金貨三枚に至らなかったら、素材分は俺の総取りだった。最初から、そう話し合いで決めていたのだ。
「さて、じゃあ後はゆっくり休むか。流石に今回は大変だったしな…………」
「そうですね。では寮に帰りましょうか。…………あ、その前にアレスさんを送って行かないと」
「いや、俺は一人でも…………」
そんな感じで話をしながら街を歩いていると、突然『ガチャ・マイスター』の画面が目の前に開き、大きく『緊急』の文字が流れると同時にアラームが鳴り響いた!
「…………マジかよ。このタイミングで…………?」
俺のスキルから、緊急クエストが発令されたのだ。
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