111回目 ティムとリメイア
我聞達が、タミナルの街に着く少し前。
タミナルの街にあるカラーズカ侯爵家の別邸には、タミナルの街を治めるターミナルス辺境伯家のご令嬢にして、表向きはティム=カラーズカの婚約者でもある『リメイア=ターミナルス』の姿があった。
二人は今、テーブルを囲んで紅茶とお菓子を食べつつ、ボードゲームを遊んでいる。我聞のスキル『ガチャ=マイスター』から出て来た『ジュエル&ダイス』と言う二人用のボードゲームだ。
今や地球上に星の数ほど存在するボードゲームの中でもマイナーな部類で、我聞もその存在すら知らなかったようなゲームだが、透明感のあるクリスタル製のダイスや、まるで宝石を数字にしたようなゴージャスなダイスを使ったゲーム性がティムの目を引き、ティムに貰われていったボードゲームである。
「このような美しい品が出てくるなんて、他にはない面白いスキルですわ。はやくそのガモンという勇者様に会ってみたいですわね」
「もうすぐ会えるよ。シエラから、今日の朝には街に着くって連絡があったから」
「『フレンド・チャット』でしたか? 羨ましいですわ。何処にいても、どんなに離れていてもやり取りが出来るなんて。私もガモンの『フレンド』にして貰わないといけませんわね。そうすれば、ティアナといつでもお話できるのですから」
「そうだね。僕からもガモンに頼んでみるよ」
リメイアも我聞のフレンドになれば、シエラと三人で『フレンド・チャット』をする事も出来る。
毎晩のシエラとのチャットを楽しみにしているティムにとっても、それは凄く魅力的な話に聞こえていた。
「…………それにしても、やはり男装をしていると中身まで引っ張られるのかしら? 私と二人っきりなのに、すっかり『ティム』ね?」
「し、しょうがないんだよ。もうクセになっちゃってるんだから…………!」
カラーズカ侯爵家、ご令嬢『ティアナ=カラーズカ』。本来であればこの街にいる間は普通の女の子として過ごす彼女なのだが、今日は我聞達を出迎えるために街の門まで行こうと思っているので、男装姿だ。
もちろん我聞達にはティアナの姿で会っても問題は無いのだが、我聞が連れてくるアレス達には一応の警戒をしなくてはいけない。
ティムがティアナであると、ティムの母国であるテルゲン王国には知られたくないからだ。もし知られれば、侯爵家の令嬢であるティアナは、王命で王族の誰かの、何番目かの妾として城に上げられてしまう。
ティム自身もそれは嫌だが、王国を内部から正常化しようと秘密裏に動いているカラーズカ侯爵としては、それ以上に弱点を王家に握られる事になる。
現・宰相と敵対しているカラーズカ侯爵としては、娘の将来の為にも、自国の未来の為にも、絶対に弱味を握られたくは無いのだ。
(それに今は、ガモンがいる)
ティムは我聞のスキルを知る程に、その能力がカラーズカ侯爵家にとって最大の切り札になると確信している。
我聞自身が解っているのかは怪しいが、ティムは我聞のスキルは『大勢を率いる為のスキル』だと理解している。
だから我聞とは友人という関係性もあるけども、それ以上に信頼し合えるパートナーとならないといけない。ティムは我聞を信じ、そして信頼されるように全力を尽くすのだ。
「ん? …………はぁ、…………ガモン、それはいくら何でも無茶だよ」
「また『フレンド・チャット』ですの?」
「うん。そろそろ街に着くみたいだけど、何でだかガモンが『◇キャンピングカー』で街に入ろうとしているみたい」
「『◇キャンピングカー』…………。ああ、馬なしで動く馬車でしたわね。その程度でしたら大丈夫なのではなくて?」
「リメイアは実物を見てないからそんな事が言えるんだよ。説明するのが難しかったから馬車って言ったけど、あれが急に街に現れたら怖いよ? 騒ぎになる事くらい、ガモンも分かっているだろうに。…………ゴメン、リメイア。元々そのつもりだったし、ガモン達を迎えに行って来るよ」
「あら、それなら私も行きますわよ?」
「リメイアも?」
「騒ぎになるのが確実ならば、私が居た方が良いのではなくて? それに、そのガモンに恩を売るチャンスは見逃せませんわ」
ティムはリメイアの言葉に、少し考えてから軽くリメイアを睨んだ。
「ガモンをターミナルス辺境伯家で囲うつもりなら、僕が許さないよ?」
「そんな事を考えるのはお父様の役目で、私の役目ではありませんわ。私が欲しいのは『フレンド・チャット』です。ガモンに恩を売って、私もフレンドにして貰いますわ」
「…………わかった。じゃあ門の所で騒ぎになっていたら、リメイアに任せるよ」
「任されましたわ。でもそれなら、兵達にはガモン達を包囲する位はしていて貰いたいですわね。その方が私の存在感が増しますわ!」
ウキウキと部屋を出ていくリメイアの背中を見送って、一度ため息をつき、ティムも後に続いた。
そしてバルタの操る馬車に乗って街の門に向かってみれば、リメイアの願望通りに兵士達が我聞を囲んでおり、リメイアは嬉々として馬車を飛び降りて行ったのだった。
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