109回目 アレスとの語らい
クリムゾン・アントの卵も全て回収し、アレス一家の荷造りも終わったので、あとはタミナルの街に帰るだけだ。
まぁそうは言っても、車を飛ばせば数時間の距離であり、『◇キャンピングカー』しか移動の手段が無い今となっては、運転は全てキャンパーにお任せで俺達は中でまったりしているだけだけどな。
ちなみにクリムゾン・アントの卵の監視もキャンパーがしており、何か異常事態があれば倉庫ごとパージするから大丈夫との事だ。倉庫ごとパージの意味がちょっと解らないが、とんでも存在のキャンパーが言うならそうなのだろう。
「…………結局、みんな寝ちまったな。アラムなんか初めて村を出るって大興奮だったのにな」
「アラムのやつはまだ子供ですから。今回、村を出る事になった意味もきっと解ってないと思います。ですが雰囲気だけは察していたみたいでしたけどね」
準備が終わっていた事もあって、俺達はその日の内にヘテナ村を出た。タミナルの街にただ帰るだけなら数時間なのだが、『◇キャンピングカー』もあるしそんなに急ぐ事も無いと、道中で一泊する事にした。
みんな疲れていたのか、俺とアレス以外は寝てしまったので、俺達はリビングでチェス盤を囲みながらワインを飲んでいる所だ。アレスも十八才でこの世界では立派な成人だ。大人の時間だな。
「…………うまいですね。ワインなんて、子供の頃に薄めたのを飲んで以来ですけど、懐かしい味を思い出しましたよ」
「子供の頃にか?」
「もうありませんが、俺の育った国では子供が病気になったら薄めたワインに蜂蜜を垂らして飲ませるんです」
「へぇーー。民間療法だな。アレス達の故郷って、南の方にあった国なんだよな?」
「はい。ガンガルド王国って名前の国でした。戦争で成り上がった国で、色んな国をケンカを吹っ掛けた挙げ句、税に苦しんだ民の反乱で滅ぼされたバカな国ですよ」
「反乱で滅びたのか」
「戦争で国を大きくしては、悪政をふるって分裂を繰り返し、民が他国へ逃げる事が常習化していたような国ですからね。時期は違いますが、トルテの村を作った人々も、おそらくはガンガルド王国から逃げた民でしょうね。トルテは自分の村も開墾された土地だったと言っていましたし、周辺の国に新しく村が出来ると、大体がそうでしたから」
戦争は吹っ掛けた上に関係ないとこで難民を大量に出すとか。ずいぶんと近隣諸国にとって迷惑な国だったみたいだな。
しかしアレスとトルテってそんな話をするほど仲良くなってたんだな。アレスも俺には敬語なのにトルテにはタメ口だしな。単にトルテが年下だからかも知れないけど。
「チェックです」
「…………また負けた。強いなアレス」
アレスとのチェス対局をもう三戦しているのだが一向に勝てない。まあ、俺は元々得意って訳ではないんだけど。ただアレスが出来ると言うからやってただけだし、悔しくも何ともないな。…………本当だよ?
「…………あーーと。ところでアレスは、タミナルの街に着いてからの事は何か考えているのか?」
「そうですね、まずは宿を取ってから父に会いに行こうかと思っています。ただ、父は領主様の所で剣術指南役をやっているので、はたして会えるのかわかりませんけどね」
「そうか。…………もしかしたら、俺達が力になれるかもな。ちょっと知り合いに頼んでみようか?」
タミナルの街の領主なら、ティムに頼めば何とかなりそうだ。なにせタミナルの領主であるターミナルス辺境伯の娘がティムの婚約者だからな。…………表向きは、だけど。
「え!? も、もし領主様にツテがあるのなら、ぜひお願いします!」
「ああ、聞いてみるよ。しかし今さらだけど、凄いなアレスの親父さん。辺境伯家の剣術指南役って、かなり強くないと成れないだろ?」
「…………ええ、父は元はガンガルド王国の騎士団長をやっていまして。俺の家系も、一応はガンガルド王国の王家に連なる家で、反乱の時には家族もろとも捕まったんですけど、父が民から慕われていたので見逃されたんです。ターミナルス辺境伯家は、家老の方が父の事を知っていたらしく、その縁で剣術指南役として招かれました」
「えっ!? アレスって王族なの?」
「傍流も傍流ですけどね。一応は王位継承権も持ってましたけど、たしか23位くらいでしたかね。まあ、かなり遠い親戚ですよ。よほどの事がないと、王城にも上がれないような遠さです。実際に俺も、王城なんて行った事がありませんから」
「へぇーー。じゃあもしかして、アリアやアラムも王位継承権を持ってるのか?」
「ガンガルド王国では継承権を持つのは男だけで、五歳からと決まっていました。当時はまだアラムは生まれてませんでしたから、持ってたのは俺だけですよ」
なるほどなぁ。アレスやアレマーさんの立ち居振る舞いから貴族だったのは予想ついてたけど、王族とは思ってなかったな。
その後も、酒を飲みながらのアレスとの語らいは夜遅くまで続き、俺はアレスとの距離がだいぶ縮まった気がしていた。
酒を飲みながら話せる奴がいるってのは、やっぱりいいな。今度はバルタも交えて三人で飲みたいものだな。
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