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107回目 大赤字

「では、土木作業の時間です。くれぐれも安全第一。一番怖いのは熱中症です。水分はしつこいくらいに小まめに取りましょう」



 明くる日の朝。俺は『◇キャンピングカー』の前でヘルメットを被り、スコップ片手に仲間達に号令をかけていた。その理由はもちろん、蟻塚のあった爆心地からクリムゾン・アントの卵を掘り出す為である。


 本当は昨日すぐに始めるつもりだったのだが、村長への説明と、あとアレス達の処遇を巡っての喧々諤々としたやり取りがあったのですっかり疲れてしまい、今日になったのだ。


 あのクソ村人ども、アレス一家を奴隷に売れば村が豊かになるとか抜かしやがった。村長と数人の村人が強く反対してたから何もなかったが、一瞬シエラの目が据わっていた。まあ、俺もブチギレそうにはなったけど。


 ともかく、アレス一家は村から出て行く事で話は纏まった。当然、俺達と一緒にタミナルの街まで帰るのだ。


 おっと話がそれた。今は土木作業の時間である。



「土木作業って…………。いや、間違った事は言ってねぇんだけど、どうしたんだガモン?」


「いいかトルテ。土木作業をナメるなよ? 俺は大学の頃に教授に騙されて野外実習と言う名の土木作業に駆り出された事がある。夏の暑い日に、炎天下でひたすら穴を掘った事があるんだ。熱中症ってマジに死ねるやつだからな! あれは本当にダメなやつだ!」


「わ、解ったから、ちょっと落ち着け」



 何が『我輩の勘ではここに遺跡がある筈なのだ! 宅地開発される前に、それを掘り出すのは考古学の使命だ!』だ。炎天下にたった三人でひたすら穴を掘らせやがって。しかも本当に遺跡が出ちゃったから始末に負えなかったんだよ。



「ま、まあ安全に作業する事が大切なのはガモン様の言う通りですわ。私も土系統の魔法は得意ではないので、あまりお役に立てませんし」


「せめて掘るべき場所がわかれば良いのですけどね」



 シエラとアレスが蟻塚のあった爆心地を見ながらそう言うと、トルテが恐る恐る手を挙げた。



「…………もしかしたらだけど、それ解るかも」


「「え?」」



 トルテは斥候職。正確に言うのなら、斥候職見習いである。


 その本分となるのは敵情や地形の観察、この世界においてはモンスターの生態調査やダンジョンの偵察任務、罠の解除なんかも含まれる多様性に富んだ技術職である。


 完成形としてはバルタがそれにあたるだろう。まぁ、バルタの場合、どちらかと言えば忍者とか暗殺者だと思うけど。


 ともかく。それを目指して勉強を重ねているトルテに、スキルが生えたらしい。生えるんだ、スキルって。


 まあそのスキルは、間違いなく成長酔い(グロウダウン)するほどの急激なレベルアップで生えたのだろう。


 ちなみに今回、トルテが獲得したスキルの名は『探知』。ダンジョンに潜る斥候職には欠かせないスキルで、ダンジョンの大まかな地形やモンスターの有無、果ては罠の察知まで出来る優秀なスキルである。



「まだ生えたばかりだから性能的には全然なんだけど、数メートルくらいなら探れると思う。クリムゾン・アントの卵があるとしたら爆発した辺りだろ? あの辺更地になっているし、あの上から『探知』使えば見つけられるかも」


「おおっ! いいな! 作業が楽になるのは大歓迎だ。しっかり掘って、クリムゾン・アントのタマゴを回収しよう!!」


「「おおーーっ!!」」



 え? いま変な事を言ってたって? 言ってませんよ? クリムゾン・アントの卵は回収します。破壊なんて勿体無いことはしません。だってシエラが、ギルドに高く売れるって言うんだもの。


 本来なら、クリムゾン・アントってのは危険な火山の溶岩地帯に巣を作るモンスターらしい。だからクリムゾン・アントは素材自体が滅多に手に入らないらしく、その値段はメチャクチャ高い。


 さらにそのクリムゾン・アントの卵なんてのは、普通なら絶対に手に入らない物であり、ましてや女王蟻の物まで含まれるとなれば、モンスターの生態研究という意味でも是が非でも手に入れたい代物だろう。


 これは絶対に回収して売り払わねばなるまい。だって今回の依頼、大赤字なんだもの。


 俺達がタミナルの街の冒険者ギルドで受けた依頼は『アカメアリ』の討伐依頼だ。ギルドで余っていた依頼だけあって依頼料も格安。なんと金貨三枚である。


 車のない冒険者的には、ヘテナ村まで長々と移動してアカメアリを駆除し、蟻塚を破壊して金貨三枚。割に合わないと思われてもしょうがない内容だ。


 …………そう、割に合わない。その割に合わない今回の依頼で、俺がいったい幾ら散財したか。ざっと白金貨三枚である。しかも愛車にしようと思っていた『ランブルクルーザー』を始め、☆4のアイテムである車を全て失う始末。まさに『大赤字』だった。


 このままクリムゾン・アントの卵を破壊して帰ったとして、まぁ色々と考慮されるとは思うが、仮にこの依頼だけで貰える金額は金貨三枚。三人で分けて一人金貨一枚。…………俺、マイナス白金貨二枚と金貨九十九枚。シャレにならん。


 それは流石に許容出来ない。ただでさえ俺のスキル『ガチャ・マイスター』は金食い虫なのだ。依頼を受けた以上プラスにせねば! 黒字にしていかないと俺は経済的に詰むのである。



「よっしゃ! いくぞーーっ!!」



 俺は手にもったスコップを振り上げて、先陣を切って爆心地へと歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何でキャンパー(AI)にぶち切れ無いんだろう? 私だったら、「お前には二度と権限を与えん!逐一確認し余計な事をするな!(怒)」くらいは言っちゃうし、絶対途中で止めるww
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