106回目 異世界の村は世知辛い
風呂に入って汗を流し、軽く食事をして仮眠をとる。仮眠は二時間ほどだったが、ずいぶんと楽になった。
そして起きてリビングに行ってみると、そこには既に解体されて山積みになったアカメアリとクリムゾン・アントの素材が積まれていた。
どうも俺が寝ている間に、トルテとアレスが頑張ったらしい。アリアとアラムも手伝ったようで、その顔はひと仕事終えた後の充足感に満ちていた。
「おいおい、解体作業するなら俺も起こしてくれて良かったんだぞ? 大変だっただろ、これ」
トルテとアレスは戦いの終盤に倒れたのを気にしているのかも知れないが、あれは起こるべくして起きた避けようのない事態だった。だから気にしなくていいと、寝る前にも伝えたんだけどな。
「まあ確かに大変だったけど、仕事としてやったんだからいいんだよ」
「仕事?」
「冒険者にもあるんだよ、こういう仕事が。高ランクの冒険者について行って、荷物持ちと解体だけやって金を貰うんだ。それを兄ちゃん達がやった事あるって聞いた事があったから、アレス達にも勧めたんだ。俺も手伝ったけどな。…………だからさ、仕事をしたって事で、アレス達に金を払ってやってくれよ」
「…………それはいいけど。なんだってそんな事を勧めたんだ?」
「いやだってアレス達の家、無くなっちゃっただろ? だからアレス達の親父さんの所に行く金が必要なんだよ。畑もなくなっちゃったから、もう村に居られないし」
…………そうだった。アレス達は家もそうだが、何もかも吹っ飛んだんだったな。でも、村に居られないってのはどういう意味だ?
その辺の事をトルテやアレスに聞いてみると、トルテの村もそうなんだが、畑は村が出来る時に開墾したのを分配したものであり、それは村全体の財産だ。村人はそれを村から借り受けているのであり、その賃貸料として納められた作物から得た金を、領主に税金として納めている。
その畑を失う事はいかなる理由があっても許されない事であり、村の掟として畑を失った家は、失った畑分の賠償金を村に払う義務がある。それが払えないのであれば村から出て行く事になるらしい。
「いやいやいやいや、それは無いだろ。今回のはもう自然災害みたいなもんだろ。こういうのは特例って事で許されるんじゃないのか?」
「甘いなガモン。畑がひと家族ぶん無くなるって事は、その無くなった分を他の村人が肩代わりする事になるんだ。ここみたいな小さな村でそれは死活問題になるんだよ。村から出ていけってのはまだ恩情なんだぞ? もっと切羽つまると、畑を失った家族を、全員『借金奴隷』として売り払う場合だってあるんだ」
「マジで? …………あーー、じゃあアレだ。今回無くなった畑の金は俺が出せば、アレス達は村に居られるだろ?」
「無理だな。アレス達は畑だけじゃなくて家も失ったんだ。畑の分の金をガモンが負担したとして、無くなった畑の分とアレス達の家やら生活の面倒は確実に村の負担になる。絶対にハブられるから。村ってそういう所は本当にシビアなんだよ」
マジかよキツイ。異世界の村社会、日本で俺がいた会社より、よっぽどブラックじゃん。
今の話を踏まえた上でアレス達がどうしたいのか聞いてみたが、やはりアレス達も村から出て行くつもりだと言う。
俺はトルテに再び促されて、アレス達に解体作業をやって貰った分の金を払った。もう白金貨渡してやろうかとも思ったが、それはシエラに止められた。気持ちは分かるが、相場より少し高い程度にしておけと、過剰な施しってのは毒になると諭された。
なので支払ったのは相場よりも少し高めって事で大銀貨一枚だ。ガチャ一回も引けないだろ、とか思ったけど大銀貨って日本円だと五万円だからね。金銭感覚がガチャにかなり毒されてるてるよな、俺。
「ちなみに、アレスの親父さんって何処に出稼ぎに行ってるんだ?」
「タミナルという街です。そこの領主館で、剣術の指南役をやっています」
ズッコケそうになったよね。だって俺達と一緒に帰ればいいんだから。
それを伝えるとアレス達は喜び、一緒に連れてってくれと頭を下げてきた。もちろん、俺達はそれを了承し、アレス一家は壊れた家から使える物を探しに出掛けて行った。
アレス達の事はこれで大丈夫だろう。俺はそれを確認するためにも、『ストーリー・サブクエスト』を確認してみた。
するとアレス兄弟を救うというクエストはクリアした事になっており、俺は安堵の息をついた。クエストクリアの欄にあった文言には、例の『運命の天使・アクアラリア』からの言伝もあった。
いわく、『これからもアレス・アリア・アラムの三人をよろしくお願いします。きっとあなたの助けになってくれるでしょう』との事だ。
そして、報酬となっていた『導きの龍水晶』も受け取った。
この『導きの龍水晶』は、ガチャから出た訳でもないのに☆4のアイテムとして手に入った。
《☆4『導きの龍水晶』》
・運命の天使が天界にて制作した特殊アイテム。その存在意義は『千羽我聞』のためにあり、『千羽我聞』の運命に大きく関わる者達との縁を視覚化する。
・ただし、運命に関わる縁が良縁とは限らない。『導きの龍水晶』が導くのは縁がある者達がいる場所のみであり、その他の一切の情報には関与しない。
「……………………なにコレ?」
黄金の龍がとぐろを巻くように鎮座し、上に伸ばした首と両腕で水晶玉を抱く様に抱えているその置物は、見た感じ凄く良い物に見えるのだが、その能力は微妙だった。
俺に縁のある者達の場所を俺に教えるだけ。しかもそれが良縁とは限らないって、面倒事が増えるだけじゃないの? むしろそれを避ける為のアイテムだと認識していいのだろうか?
俺が両手で抱え上げると、『導きの龍水晶』は、早速その水晶玉の中に矢印のような四角錐を浮かべた。もう仕事をしているらしい。
……………………これが指している方向って、タミナルの街がある方向じゃね?
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