104回目 グロウダウン
クリムゾン・アントの残りが八匹となった所で、トルテとアレスが倒れた。二人とも気を失った訳ではないが、体が動かないらしい。
「な、何だ!? どうしたってんだ!?」
まさか毒か? 殺虫剤の毒がやっぱり人体にも効いたのか? とか、クリムゾン・アントの毒針にいつの間にかやられていたのか? などという考えが頭をよぎったが、どうやら事実は違った。それを二人の様子をみたシエラが教えてくれた。
「まさか!? これは『成長酔い』です! 急激にステータスが伸びた時になる事があるとは聞いていましたが、初めて目の当たりにしました!!」
「はあっ!? グロウダウン? 何だよグロウダウンって!? 大丈夫なのか!?」
『推察するに、二人とも生命活動に支障は無いようです。二人の現状をマスターに解りやすく説明するならば、『レベルアップ酔い』ですね。急激なレベルアップによってステータスや魔力値が急激に上昇したために、身体と精神がついていけなくなり、強制的な休養に入ったのです』
レベルアップ酔い!? そんなのあんのかよ!!
…………いやまぁ確かに、レベルアップ酔い自体はあり得るとは思う。急激にレベルが上がったと言うのなら、それもあるだろう。
そもそもトルテもアレスも、モンスターと戦った経験自体は何度もあるらしいが、それはGランク程度の、高くてもFランク程度のモンスターだったはずだ。つまりは経験値も低いから、レベルも低かったと推察できる。
それが格上のモンスターとの戦いで急激にレベルアップした訳だ。それも何レベルも。
なにせ今回の相手は、単体でEランクに届くクリムゾン・アントであり、俺達はそれを特別な装備に身を包み、スキルを複数個つけて、バフありありの状態で無理やり底上げをして戦っていた訳だ。
やっとオークを狩れる程度の駆け出しである俺達が、クリムゾン・アントなんて言う強いモンスターを何匹も狩っていれば、そりゃ心と体が追い付かないくらいにレベルアップする事もあるとは思う。でも今じゃないだろ!? どうすんだよ、この状況!?
『ギイィーーッ!!』
『ギチギチギチギチッ!!』
第七波として防衛線を越えて来たクリムゾン・アントが倒れている二人を見ている。ヤベェ!?
「キャンパー!! ドローンを全部呼び戻せ!!」
『ギチギチギチッ!!』
「やらせるかぁっ!!」
クリムゾン・アントと二人の間に立ち、俺は飛んで来た火球を弾き飛ばした。そして戻って来た攻撃用ドローンが、俺と向き合っている二匹のクリムゾン・アントに射撃を行うが、クリムゾン・アントは鬱陶しそうに身を捩るだけだった。
「あぁクソッ!! それで二人は!? 大丈夫なんだろうな!?」
『はい。ですがそこで倒れていては危険です、『◇キャンピングカー』に収容しましょう。アレマーに手伝いを頼みました』
「シエラ! アレマーさんと協力して二人を中に入れろ!!」
「は、はい!!」
その時、残るクリムゾン・アントの群れが俺達に向かって火球を飛ばした! 俺は自分に向けられた二つの火球を何とか『鉄の盾(+4)』で防いだが、他の六つの火球は俺を素通りしてしまった。
トルテとアレスを運ぶシエラとアレマーに迫る火球。その内の二つはシエラが魔法で相殺したが、残りの四つには何もできない。
トルテ達に迫る火球! だが防ぐすべが無いと思われた火球は、火球とトルテ達の間に割り込んだドローン達によって防がれた。
しかしそのおかげで、残っていた偵察用ドローンと攻撃用ドローンが全て無くなってしまった。俺の背中に、冷たい汗が流れる。
現状、俺一人対クリムゾン・アント八匹になってしまった。防衛用ドローンはまだ二台残っているが、メチャクチャやばい。シエラが戻って来ても二対八。囲まれる未来しか見えない。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!!!」
『マスター!! ワタクシも戦います! なので一時的に使用権限の許可を願います!!』
「何のだよ!?」
『求めるのは『ガチャ・マイスター』の倉庫の権限です! ワタクシが自由にアイテムを使用する許可を下さい! それがあればこの危機を乗り越えられます!!』
「何だか解らねぇけど『許可』する!! 好きにやれ!!」
『権限の使用許可を受諾しました! これよりアイテムを使用します!!』
キャンパーが中に入っている防衛用ドローンが、そう叫ぶと同時にクリムゾン・アントの上空に飛んだ。
いったい何をするつもりなのか、本当に現状を変えられるのか、と思って見上げると、キャンパーはクリムゾン・アントの真上に黒い空間を、『ガチャ・マイスター』の倉庫の入口を広げた。
あそこから武器でも落とすつもりなのか? でもあんな所から落としたところで、メチャクチャ硬いクリムゾン・アントに刺さるとは…………って!?
「ぎゃああぁぁーーーーっ!!??」
クリムゾン・アントの上空に開いた倉庫の入口から出て来て、自由落下で真下にいたクリムゾン・アントを圧し潰した大きなアイテムを見て、俺は心の底から悲鳴を上げた。
そのアイテム自体も、落下の衝撃とクリムゾン・アントの硬さに圧し潰されて、見るも無惨な姿に成り果てている。
「ああぁぁあっ!!?? 『ランブルクルーザー』ぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!??」
俺の愛車にしようと思っていたフルサイズSUV車、☆4『ランブルクルーザー』が、キャンパーの無慈悲な一撃でグシャグシャになっていた。
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