102回目 女王アリの決断
アカメアリの巨大蟻塚から殺虫剤の煙が昇り始めると、その煙の量がどんどんと増えていく一方で、耳障りな音が辺りに大きく響き始めた。
『ギイィィィーーーーッ!?』
『ギチギチギチギチ!?』
『キィキィッ!?』
(ガリガリガリガリ!)
(ゴリゴリゴリゴリ!)
それは恐らく、毒の煙に巻かれたアカメアリの断末魔と、蟻塚に穴を開けて逃げ出そうとするアカメアリの悪あがきだろう。
それらの地獄のような音を聞きながら、俺達は揃って視線を上に向けた。ここまで酷い状況だと、あの毒煙の向かう先が気になったのだ。
『ご安心を。風はこちらが風上です。煙の性質的にも周囲に影響を及ぼす事は無いと推察されます。そもそも、説明書を見るに人体には影響しません』
「ホントかよ…………」
近くに浮かぶ偵察用ドローンからキャンパーの言葉が聞こえたが、それでも不安にはなる。
だが、これならアカメアリの討伐は何事もなく終りそうだ。そんな考えが俺の脳裏を掠めて、直後に俺は思った。
…………今の完全にフラグだな。…………と。
『────!? 蟻塚内部に高エネルギー反応!! マスター! 『◇キャンピングカー』への避難を推奨します!!』
キャンパーの声と共に地響きが始まり、蟻塚が大きく震え出した!
「なんだ!? みんな! 『◇キャンピングカー』に戻れ!!」
『防御結界を発動します!!』
俺達が『◇キャンピングカー』の中に駆け込むとキャンパーが『◇キャンピングカー』の周囲に青く透き通る結界を張り巡らせた。
その直後、遠く離れた蟻塚のある地面から赤い光が何本も突き出し、地面が大きく膨らんだかと思うと、巨大な火柱が城ほども大きな蟻塚を吹き飛ばした!!
「おいおいおいおいっ!? ヤバイぞこれ!?」
『ご安心をマスター! この程度ではビクともしません!』
巨大な火柱を中心に吹き荒れる風と、巻き上がる地面が衝撃波と共に迫って来る!
俺達が乗る『◇キャンピングカー』は、その熱風も土煙も衝撃波も結界が防いでビクともしなかったが、『◇キャンピングカー』の隣にあったアレス達の家は見事に跡形もなく吹き飛ばされた!
「ああっ!? 家が!?」
アレス達の家は村の南端にあり、蟻塚からはもっとも近かった。吹き飛んだ家の残骸が見える位置に落ちた事もあって他の村人の家は大丈夫だろうが、アレス達は地面がめくれた事もあって家も畑も失ってしまった。
「キャンパー!! いったい何が起きた!!」
『蟻塚の内部に残っていた『防衛用ドローン』の最後の映像によりますと、毒煙によって、このままでは全滅すると判断した女王が自爆を選択したようです。自らの腹の周囲だけを護り、無数の卵と精鋭蟻のみを残して全て吹き飛ばしました』
「思いきりが良すぎるだろ!? それであの爆発かよ!!」
『残された映像を解析。シエラの情報と照らし合わせ、精鋭蟻を『クリムゾン・アント』と認定します。このままでは戦力不足と判断。攻撃用ドローンを作成してください』
「クソッ! 結局使うハメになったか!!」
俺は『◇キャンピングカー』のパネルを素早く操作し、『攻撃用ドローン』を五台交換すると、キャンパーに攻撃用ドローンに装備させる弾丸を渡した。
弾丸は三種類、キャンパーの薦めに従って『氷属性の弾丸』と『衝撃の弾丸』、それに『貫通の弾丸』である。
そして土煙が治まったのを見て外に出ると、蟻塚が吹き飛んで窪地になった地面から、全身が真っ赤で毒々しい色合いの大きな蟻が、何匹も這い出て来た。
「あのゴツイのが『クリムゾン・アント』か。アカメアリも混じってるな」
「ガモン様! クリムゾン・アントはアカメアリとは比較にならない程に強いです! あの牙や吐き出す火球も危険ですが、お尻から毒針も飛ばしますので注意してください!」
「わかった!」
「それと、あの真っ赤な体にも素手では触れないようにしてください! クリムゾン・アントの甲殻は高熱になっている場合があります!」
「触れもしねぇのかよ! キャンパー! ドローンで攻撃と情報収集を頼む!」
『了解しました』
最初に撒いた『害虫忌避剤』が効いているのか、それとも俺達を完全に敵と捉えているのか、クリムゾン・アントとアカメアリは周囲に散る事なく俺達の方へと進軍している。
キャンパーは俺からの命令を受けて偵察用と戦闘用の二種類のドローンを飛ばし、戦闘用ドローンでの射撃を開始した。
生き残りのアカメアリが毒に侵された体を割り込ませてクリムゾン・アントの盾になろうとしているようだが、戦闘用ドローンはそれを無視してクリムゾン・アントにのみ攻撃を集中させている。アカメアリの方はほっといても毒で力尽きる、という判断のようだ。
「近づいて来たぞ! いいか! 一人で相手をするな! 二人以上で掛かるぞ!!」
「「「了解!!」」」
『防衛線が突破されました。第一陣は二体、防衛用ドローンで援護します!!』
とうとう俺達の前にクリムゾン・アントがたどり着く。その姿は真っ赤に輝いており、その周囲は熱のせいで景色が歪んで見えていた。
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