101回目 始まりの毒煙
作戦の決行は早朝である。なぜ早朝か。その理由は三つある。
一つ目は蟻が夜には巣の中で休んでいるからだ。眠る訳ではないが、活動を停止して休んでいる。それはきっと、体のデカさから考えても地球の蟻よりも遥かに長いはずだ。そこを攻める。要は寝込みを襲う訳だ。
二つ目はガチャ食材のバフの関係。早朝ならば、俺達に付いているバフは昨夜の夕食と今日の朝食とで重複している。これを逃す手はない。故に早朝だ。
三つ目は空気の流れだ。蟻塚と同時に周囲の偵察も行っていたキャンパーから、早朝ならば蟻塚に対して村が風上になるとの予想を貰った。なにせ使うのは昆虫用とは言え毒だからな。ガチャアイテムなので大丈夫とは思うが、万が一にも村に被害が出ないように考慮した結果だ。
そういう訳で決行は早朝となり、俺達は昨夜は早めに休んで、今は日も昇らぬ時間帯に朝食の具沢山サンドイッチとポテトを添えたベーコンエッグを食べている。これらの食材を用意したのは俺だが、調理してくれたのはアレマーさんだ。
「朝食の用意をしてもらって、ありがとうございますアレマーさん。美味しいです」
「よろこんで貰えたなら良かったです。私もこんなに食材を使えるのは久し振りだから張り切っちゃったわ。張り切り過ぎてスープが間に合わなくて、ごめんなさいね」
「いえいえ。それはお昼に頂きます。楽しみにしておきますよ」
スープはなくてもコーヒーとかもあるからな。インスタントだけど。俺とアレスはコーヒーだが、他の皆は牛乳やらジュースやらを飲んでいた。
戦いに行く俺達は戦いの前の興奮もあってちゃんと目覚めているが、アリアとアラムは眠そうだ。アラムなど目を閉じたままサンドイッチを齧り、租借する口が時々止まっている。まだ半分は夢の中なのだろう。俺的には、別に寝かしておいて良かったんだけどな。
食事を終えて俺達は『◇キャンピングカー』の外に出た。俺達の周囲には何台かの偵察用ドローンが浮かんでいる。
防衛用ドローンは、アカメアリの逃走を防ぐ為に蟻塚の周囲に『害虫忌避剤』と言う薬剤を蟻塚の周囲に撒きに行っている。それが終われば作戦開始だ。
「いいか、アカメアリが出て来ても突っ込むなよ? アカメアリは殺虫剤でかなり弱っている筈だから、出て来たとしてもすぐに死ぬ可能性が高い。無駄な体力は使わず、防衛線を乗り越えて来たヤツを倒すんだ」
「わかってるよ。ついでに言えば、基本的にはシエラの魔法とアレスの剣の『雷撃』スキルに任せるんだろ。ちゃんと覚えてるよ」
「任せてください! しっかりと俺が殲滅して見せます!!」
俺の言葉にトルテが解ってると答え、アレスは意気込んだ。二人ともモンスターと戦った経験はあっても、大群と戦うのは初めてらしいので少し顔が強張っている。
まぁ、緊張しているのは俺も一緒なんだけど。ちなみにシエラだけは、治癒師としてスタンピードの現場に教会から派遣された事もあるらしいので、落ち着いていた。
「…………まあ、お互い落ち着いて頑張ろうぜ。でも、防衛線越えるまでは手出しするなよ?」
アカメアリの蟻塚から防衛線となる畑の境目までは結構な距離がある。出来ればそこに到達する前に終わって欲しいのだが、念のため俺達の正面には『害虫忌避剤』を撒かずに逃げ道を作ってある。
もちろんこれは、逃げて来たアカメアリをここで仕留める為だ。
「でも、もしアカメアリが大量に防衛線を越えたなら、乱戦になる事も考えなくてはいけませんね。そうなると相手の数にもよりますが、戦力が足りないかも知れませんね」
シエラの心配はもっともだが、俺だってそれを考えなかった訳ではない。一応、戦力を増やす準備はしてあるのだ。
「あまり使いたくないが、念のためガチャ・ポイントを五千ポイント用意してある。いざとなればこれで『戦闘用ドローン』を五台増やせる」
「ドローンってあの飛んでるヤツか? あれも戦えるのかよ」
「いや、今飛んでるのは『偵察用』と『防衛用』だ。戦闘用のは銃火器が付いていて、装備ガチャの『〇〇の弾丸』シリーズをセット出来るとか…………いやまぁ、見れば解るだろ。取り敢えずは奥の手だな」
マジでガチャ・ポイントは使いたくない。何せ今回の事で五千ポイントくらいは使っているからな。残してある五千と合わせたら一万ポイントだ。これは☆3のガチャアイテム百個分である。金額になおすと白金貨一枚分、日本円で一千万円である。
生活ガチャの☆3アイテムは、ほとんどゲンゴウに売ってしまったし、残っているのはそう多くない。
だからトルテとアレスの装備を整えながら、余った装備を売ってガチャ・ポイントを稼いだのだ。これが本当に辛かった。
だって売るにしても、弾丸系とかはドローンにも使えるから使い勝手が良くて売れないし、ハズレ枠の装備を売ろうかと思ったら、合成してあるヤツの販売価格が据え置きだったりしたのだ。
つまり、合成していない☆3のアイテムは100ポイントで、MAXまで合成してある☆3のアイテムも100ポイントだったのだ。迂闊に合成していたのは俺だが、これが地味にキツかった。
…………まぁそれでも、使うべき時は使うけどね。ガチャ・ポイントをケチって死んだら本末転倒だからな。ちょっとでもヤバイと思ったら即・召喚である。
『マスター、準備が完了しました。いつでもいけます』
偵察用ドローンが一つ近づいて来たと思えば、そこからキャンパーの声が聞こえた。キャンパーとドローン達の同期は完璧のようだな。
「よし! じゃあ始めるか!! やれ! キャンパー!!」
『了解しました。これより作戦を開始します!』
キャンパーの宣言と同時に、一台の防衛用ドローンが真っ赤な缶を持って蟻塚の尖塔の一つから内部に侵入した。
そして僅か数分後には、蟻塚の全ての尖塔や空気孔から、煙が立ち上ぼり始めた。それはまるで、戦いの開始を伝える狼煙のようだった。
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