10回目 初めてのモンスター退治
「おっと、スライムがいやしたぜ。馬車を止めまさぁ」
スライムを発見したバルタが馬車を止め、俺達は箱馬車の外に出た。ろくに整備もされていない道はだだっ広い草原の中にあり、道から少し離れた草むらに、やや緑がかったゼリー状の物体がプルプルと震えていた。
「あれがスライムか。なんて言うか、イメージ通りだな」
「そうなのか? ガモンの世界にはモンスターはいなかったんだろ? 何か、似たような生物でもいたのか?」
「え? …………うーん、似たような……だと、クラゲかなぁ」
「クラゲ? …………ああ、確か海の方にいるってやつか。確かにスライムによく似たモンスターだと聞いた事があるな」
「モンスター? クラゲもモンスター扱いだったのか。そうなると、俺が考えているクラゲと同じかは解らないな」
「旦那、若様。いくらスライム相手でも油断が見やすぜ。そういう世間話は、馬車の中でやってくだせぇ」
「確かにバルタの言う通りだね。じゃあさっそく、スライム退治と行こうか。と言っても、何も難しくは無いよ。ただ、叩けばいいだけだからね」
「そうなのか?」
「うん。スライムは自然の魔力溜まりから生まれる魔法生物だ。あのゼリー状の表皮の中は、極小の魔石と消化液だけで出来ている。叩いて表皮を傷つけると魔力を使って治すから、その修復が追い付かない程に叩けば、表皮を治す魔力が尽きて体を維持できなくなる。だから叩くだけで倒せるんだ」
「…………へぇ」
なるほど、流石は異世界。スライムの発生条件も、それがどういう生物なのかも、しっかり調べがついてる訳だ。
「ああ、ときどき体液を飛ばす攻撃をしてくるから気をつけて。体に掛かっても軽い火傷ですむし、服が溶けたりもしないけど、地味に痛いし服も傷むから、避けた方がいいよ?」
「了解!」
俺はティムに片手を上げながら応えると、強化したばかりの『ひのきの棒(+1)』を引き抜いてスライムへと向かった。
草むらでよく見えてなかったが、プルプルしているスライムは三体。初めてのモンスター狩りで三体かよ、と思ったが、バルタが大丈夫だと判断したのだろう。俺は構わずにスライムへと近づいていった。
スライム達は、どうやら草を食べている所らしく、体の中に草が取り込まれているのが見えた。今は草を食べているが、草食って訳では無いのだろう。なんでも食べるに違いない。
そして俺が近づいている事に気づくと、三匹の中で体内にある草がもっとも少ない個体がポヨンと跳ねて前に出た。
気づかれたからには、ゆっくり近づく意味もない。俺はスライムに走り寄ると、前に出てた個体を、下から掬い上げる様に、ひのきの棒で殴り飛ばした。
『ブシィッ!?』
「おわっ!? 危ねぇ!」
俺に体液をかけるつもりだったのか、体液を撒き散らしながら飛んでいくスライムを他所に、残る二匹のスライムをひのきの棒でめった打ちにする。
どうやらスライムは、体の修復を続け様には三回までしか行えないらしく、水風船から水が抜けるように萎んでいった。
そして、最初に殴り飛ばしたスライムが跳ねながら戻って来たのでそれも倒して、俺の初の戦闘は終わった。
「よし! やったぞ!!」
「旦那! 喜ぶのは周囲を確認してからでさぁ!」
ひのきの棒を振り上げながら振り返ったところでバルタのダメ出しをくらい、俺は慌てて周囲を見渡した。
そして何もいない事を確認して息を吐く俺の側に、馬車のアイテムボックスから出したのだろう俺の荷物を持ったティムが近づいて来た。
「ガモン。スライムは倒せたけど、まだ終わってないよ。モンスターを倒したら素材の回収までがセットだからね」
「素材? スライムのか?」
「うん。ほら、そこに残ってるよ」
ティムに言われてスライムがいた所に眼を向けると、そこには薄い緑色をしたゼリーが落ちていた。大きさはスライムの一割程度の物だ。
「なんだこれ。スライムの中にあったのか?」
「いや、スライムの表面を覆っていたヤツが縮んだ物さ。スライムゼリーって言って、けっこう有用な素材なんだよ」
なんでもこのスライムゼリー、加工がしやすく固めるとかなり頑丈な物質になると言う。その上、魔力を通さないので、ポーションなどの魔法薬をつめる瓶として大変重宝されているらしい。
しかも、側に魔力が無くなれば勝手に霧散して消える。その為、冒険者などは中身の無くなったポーションの瓶はその場に捨てるのが当たり前になっているらしい。
「そんな物質だからね、採取する時も魔力のある袋を使わないといけない。この中には、それ用の袋も入っている筈だ」
「ああ、そう言えば。確かオークの革袋ってのがあったな」
俺はティムから受け取った荷物から、大きめの革袋を取り出すと、一緒に入っていた革手袋を使ってスライムゼリーを三つ放り込んだ。
「あ、魔石も必要か?」
「いや、スライムの魔石は小さ過ぎて使い道が無いから。モンスターによって取れる素材は色々あるけど、そこは勉強だね。冒険者ギルドに登録してお金を払えば、近辺のモンスターの素材の一覧と回収方法を教えて貰えるから、冒険者になるなら利用するといいよ」
「冒険者かぁ。冒険者ギルドってのには憧れはあるなぁ」
「なら登録だけでもしておけば良いよ。身分証としても便利だし、登録しておけば早朝と夕方だけは街の出入りにお金も掛からないから」
「いや若様。そりゃEランク以上の冒険者か、ギルドのクエストを受けている者に限りますぜ。若様は貴族特権でEランクスタートだから知らないだけでさぁ」
「…………あぁ、そうなんだ」
なんかティムが少しへこんだが、取り敢えず目的の街に着いたら冒険者ギルドに行ってみよう。
ふふっ、冒険者か。男の夢ではあるよな。クエスト受けて、クリアして、酒場で冒険者仲間の荒くれどもとエールを飲むのだ。おおっ、これは楽しみだ。
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