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1回目 ナウ異世界

新作投稿です。楽しんで貰えれば幸いです。

「よくぞ我が帝国へと参られた『勇者』殿! 国父『バウワウニー=ヌヌメルメ三世』陛下も、殊の外およろこびである。これよりは陛下の手足となり、存分に働ける事、光栄に思うがよい!!」


「…………いやぁーー、ない。…………ないわー、これはないわーー」



 俺の名は『千羽我聞せんば がもん』。漫画やアニメでよく見る、中世の王国にある謁見の間に『異世界転移』した男だ。


 俺の前方にある階段、その数段上では、玉座に座ったブルドック感のある王様と、その隣で声を張り上げるハゲたチョビ髭がおり、俺はそのハゲチョビに最初のセリフを言われた。


 俺の足元には、青い光の魔方陣らしき物が浮かんでおり、たった今、消えた。今のが転移の魔方陣だったのは、なんとなく解る。漫画の知識で申し訳ないが、たぶん間違ってない。


 そしてそんな俺の格好は、ワイシャツと弛めたネクタイにズボン姿である。スーツの上着はデスクの椅子にかけてしまっていたので着ていなかった。


 一番最悪なのは、突然の浮遊感に驚いてスマホを落とした事だろうか。足元に無い以上、向こうに置いてきたらしい。と言うか、それよりなにより、…………勘弁してくれよ。



「…………いやまあ、確かに俺は言ったよ? 言ったけどさぁ…………」



 仕事を抜け出して避難先とした屋上で、ソシャゲのガチャを回しながら「働きたくねーなぁーー!」と、「社会人めんどくせぇなぁーー!」と、「学生に戻りてぇなぁーー!」と、「いっそ異世界とか行けねぇかなぁーー!」と、確かに言った。


 立て込む仕事や、それを俺に押し付けて来たムカつく上司など、ちょっと仕事で色々あってイラついており、つい口から出てしまったのだ。


 …………でもだ。そんなのは実現しない冗談であり、口から出任せ以外の何者でもない訳だ。なのにそう叫んだ瞬間、俺の足元に魔方陣が浮かんで、一気に異世界転移だ。


 何で本当に異世界? しかも何の説明もなく唐突に異世界。ナウ異世界。


 いやいや、こういうのには順序ってもんが有る筈だろう。まずトラックか何かに轢かれて、神様の世界に行って、ひと悶着あってチートを貰って、それから異世界だろ。


 ご多忙にもれず世界観は中世なんだから、そう言うのは必要だろ。何だこれ。俺にどうしろって言うんだよ。


 …………しかも、異世界の王国に『勇者』として召喚される的なアレだとして、国ガチャにもハズレているっぽいぞ? 逆に至れり尽くせりか。



「…………どうやら勇者殿は今だ混乱の最中の様子。ここは一先ず、勇者殿の『スキル』だけ確認して、休んで貰っては如何ですかな?」



 何も喋らない俺に業を煮やしたのか、部屋の中に何人かいる、見るからに高そうな服を着たカイゼル髭の『貴族!』って感じの人が、そう発言をした。


 休ませて貰えるのは大賛成なのだが、もっと聞き捨てならない事を言ったな。『スキル』だと? …………ははぁん、もうチートを持ってるヤツだったのか。


 そんな事を考えていると、俺の目の前に如何にも神殿の偉い人です! といった感じの爺さんがやって来た。


 爺さんは大切そうに抱えた水晶玉を俺に近づけ、俺に触るようにと促してきた。



「さあ勇者殿。この水晶玉に触れてみて下さい」


「…………はい」



 俺は促されるままに水晶玉に手を置いてみた。すると爺さんが抱える水晶玉が一度光り、そこに何やら文字が浮かんだ。…………何語だコレ? …………いや、見た事もない文字なのに何故か読めるな。『ガチャ・マイスター』って書いてある。


 …………『ガチャ・マイスター』? ひとっつも意味が解らない。え? 『スキル』ってこう言うのだっけ? って言うか『ガチャ』って、あの『ガチャ』でいいのか?



「…………何でしょうな、コレは」



 案の定、水晶玉を抱えた爺さんも首を傾げている。そりゃソシャゲでもやってないと、『ガチャ』が何なのかは解らないよね。



「どうされたママンガ枢機卿。勇者殿の『スキル』は何だったのだ?」



 王様の隣に立つ偉そうなハゲチョビが声を上げた。


 この爺さんママンガ枢機卿って言うの? たしか王様がバウワウ=ヌメヌメだろ? どうなってんだ、この世界の人の名前は。



「ハッ、それが、…………見た事も聞いた事もない『スキル』でして…………」


「ならば使わせれば良いではないか。勇者殿、くれぐれも回りに被害を出さぬように、『スキル』を使ってみよ」



 本当に偉そうだな、あのハゲチョビは。『スキル』の使い方なんぞ知らねぇっての。こちとら日本人だぞ?


 しかしまぁ、『スキル』と言うものに興味が無いと言えば嘘になる。…………取り敢えず、口に出してみればいいのか?



「…………えっと、出でよガチ…………」



 手を前に出して『出でよガチャ』と口に出している途中で、俺の目の前に透明感のあるウインドウが出て来た。口に出さなくても良かったのかよ。恥ずっ!!


 まあそれはともかくとして、今は『ガチャ』だ。


 取り敢えず画面に目を通してみると、何だかソシャゲ感が満載の画面だった。それに、色がついてなくて暗くなってる項目も多い。


 これはあれだ。始めたばかりのソシャゲで、まだチュートリアル前、もしくはイベント前で選べない項目のヤツだ。


 えーっと。…………しかし『ガチャ・マイスター』と言うスキルだった筈だが、ガチャ以外の項目が多いな。でもまあ、今は『ガチャ』を回す時間だ。検証は後回しにしておこう。


 どうもこの国はダメっぽいし、できる事を全部教える必要もないだろう。



「どうした勇者殿! 早くするのだ!」


「…………うーい」



 こうも知らないオッサンに上から言われると、なんか腹が立ってくるな。言われなくてもやりますよ。しかし、周囲の様子を見る限りでは、俺以外にこの画面は見えていないらしいな。まあ、チートスキルあるあるだ。


 さてと、じゃあこの『初回無料!! ☆4以上確定! チュートリアル10連ガチャ!』で行ってみよう!!


 俺はガチャメニューの中で、一番輝いているガチャメニューをタップする。すると、画面いっぱいに倉庫のような部屋が広がり、その奥にカプセルトイの出てくるガチャマシーンが幾つか並んでいた。


 ガチャマシーンは虹色・金色・銀色と三種類あり、画面の手前には、金色のコインが浮かんでいて、その上に『弾け!』と書いてあった。


 弾けって何だ? と思いながらコインをタップすると、キーン! という高い音とキラキラしたエフェクトと共にコインが舞って、奥にあった金色のガチャマシーンのコイン投入口に入って、ガチャが回った。


 そしてガチャマシーンからはカプセルトイが10個飛び出し、画面がカプセルトイが並ぶリザルト画面に切り替わった。


 カプセルは5個ずつ二段になっており、上段の左から白・白・白・青・白という色のカプセルで、下段は左から青・赤・白・白・金という色の並びだった。


 …………ソシャゲのガチャをやって来た俺の勘が囁いている。これは、爆死していると。


 これは確か『☆4以上確定』のガチャだった筈だ。そしてガチャマシーンに『虹』があった以上、☆5は虹色の筈だ。


 つまり、今出たヤツの最高は金色で、あれが☆4。ならおそらく赤色が☆3で、青が☆2。…………白は間違いなく☆1だろう。半分以上が☆1……だと!?


 俺はショックを受けつつも、何が出てくるのかと、画面に触れた。その結果が、コレです。


 ☆1 うめえ棒サラミ味

 ☆1 うめえ棒めんたい味

 ☆1 うめえ棒チーズ味

 ☆2 ピスコ

 ☆1 うめえ棒サラミ味

 ☆2 ピスコカフェオレ味

 ☆3 ひのきの棒

 ☆1 うめえ棒サラダ味

 ☆1 うめえ棒チーズ味

 ☆4 ランニングシューズ



「……………………どういう事やねん」



 えっ? 待って。うめえ棒? ピスコ? …………画面に出てるパッケージに見覚えがありまくるんだけど。


 画面に出ているパッケージは、とても良く知っているあの駄菓子だ。一個ポチッと触ってみると、うめえ棒サラミ味が画面いっぱいに表れ、説明が表示された。



『みんな大好き駄菓子の王様! 1本10円の子供の味方! サラミ味! おいしいよ!』


「マジに『うめえ棒』なの!? 回復アイテムとかでもなくて!?」


「な!? ど、どうしたのだ、急に叫んで!?」



 あまりの事に大声でツッコミを入れてしまった俺に、ハゲチョビが狼狽えた。いやでも、これは俺悪くないよ? だって叫ぶよコレは。


 そして画面に出てくるのは、『収納しますか?』の文字と、その下にある『はい』『いいえ』の選択肢。


 収納と出ている以上、『いいえ』を選ぶと外に出てくるのかも知れない。俺は取り敢えず現物を確認するために『いいえ』をポチり、それによって俺の目の前にガチャで出てきたアイテムが現れて床に落ちた。


 …………ああ、本当に『うめえ棒』だ。しかもガチャひとつにつき一本。そして、小さいパッケージのピスコと、ゲームなんかでお馴染みの『ひのきの棒』に、何故かよくある『ランニングシューズ』。…………これが俺の最初のアイテムと初期装備なの? 酷い。

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