一章1 『殴られるのは嫌だ』
俺は静かに過ごしてていた。少なくとも俺はそう思ってる。他のクラスの奴から何か言われても言い返さずに言う通りにした。全て、奴らが怖かったからだ。抵抗すれば痛めつけられる。もう、殴られるのは嫌だ。幸い、まだ俺に妖怪が取り憑いていないことを知っている人は少ない。できればこの事は知られたくない。当然クラスの友人にはバレるけれど、D組にそれを馬鹿にする奴は少なかった。
まぁそんなわけで、目立たず、静かに過ごしていたのだが俺は今、傷だらけで保健室で寝ている。
*
今日も俺は朝早く登校し、みんなが来る前に授業の準備をする。そして昨晩の勉強の続きを始める。入学して二ヶ月、この繰り返しだ。
「帆村くん!今日も早いね!」
「よっ!勉強だけは負けたくなくてさ」
「偉いなぁ!僕なんて高校入ってからまともに勉強した事ないよぉ〜」
彼は『東鼬』。小豆洗いに取り憑かれている。出席番号が近いのでいつのまにか仲良くなっていた。
「期末まで後一ヶ月だしなぁ」
「そうじゃん!やば!やだなぁ期末。数学とか何もわかんないや」
「じゃあ一緒に勉強する?教えたげよっか?」
「いいの!?でも帆村くんの邪魔になっちゃうし…」
「大丈夫。基礎の定着にもなるし。今日放課後開いてる?」
「うん!ありがとう!放課後よろしく!」
*
四限目が終わった。疲れた。
「帆村くん!食堂行こ!」
「そだな。早く行って端っこの席座ろうぜ」
鼬と俺はいつも食堂の角の席に座る。他のクラスのやつに絡まれるのは怠いからな。
「帆村くん!はやく!」
鼬は足を弾ませ先を行く。そして角を曲がりこちらからは見れなくなった。
俺も少し歩く速度を上げた。そして角を曲がった時だった。
鼬が尻餅をついて怯えている。その前には図体のでかい男が。男は鼬を睨みつけている。名札には『B』の文字。赤いネクタイ。同学年か。この高校では一年が赤、2年が青、3年は緑と、学年ごとにリボン、ネクタイの色が分かれている。
「いてぇな!テメェ」
男は指を鳴らす。
俺は瞬時に状況を理解した。
「すいません!急いでるんでごめんなさい!」
「おい!待てや!」
俺は鼬を抱えて走った。
*
「怖かったよぉ〜。」
鼬は天丼の海老を口に入れながら言う。細いくせによく食うなぁ〜。
「あれは前見てなかったお前が悪いんだぞ」
「気をつけるよ」
まぁ何もなくてよかった。
食堂にはいろんなメニューがある。イタリアン、中華、和食、ファストフード…。流石、名門校だ。しかし、鼬は毎日天丼を食べている。
「飽きないの?天丼」
「飽きるわけないじゃん!ていうか帆村くんだって毎日素麺じゃん」
「そういえばそうだな…」
「それに授業で死ぬほど疲れるからいっぱい食べないとね!」
「そうだな。あと、今度あの人にあったらちゃんと謝っとかないとな」
「うん。できれば会いたくないけど…」
俺たちは食堂を出て教室に向かう。今度は鼬もゆっくりと歩いていた。
教室に着いたら授業の復習をしよう。そう思っていたが、おそらくできないだろう。なぜならD組の前に待ち伏せしているさっきの男とB組の奴らと目があったからだ。
たまたま通りがかった、なんて事はないだろう。だってA組、B組、C組は本校舎、D組だけ旧校舎なのだから。渡り廊下で繋がっているが、奴らが通る用はない。
「テメェらこんどは逃さネェぞ。」
こっちに来た。今にも殴りかかってきそうだ。後ろも囲まれた。
「本当にすいません。今後は前向いて歩かせますんで許してやってくれませんか?」
「おいお前らコイツを抑えろ」
全く話を聞かない。なんて考えていると背後から回って取り押さえられる。最悪だぁ。クラスのみんなが周りで見てる。
ーー怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
男が手を振り翳す。
やめろ、と声に出そうとした瞬間、こぼれ出たのは赤い血液だった。
「ぐはっ!」
休む間もなく、もう片方の拳が俺の頬を突いた。
ーー痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
そのとき俺の体には得体の知れない謎の力が溢れ出ていることにも気づかずに俺は気を失った。
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