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論文

その後、真っ直ぐ家に帰って、家で仕事して、珍しく24時には寝た。

朝はいつも通り起きて、学校には行かずに病院に直行。

いつも通りに仕事をしていたら…怒られた。


「おーまーえーはぁっ!」

「なになに?!」

「なんで働いてんだよ!?」

「え、昨日学校行かないで来るって言ったじゃん!」

「それはっ!点滴の為だろっ!」

「認識の相違デスネ。」


空いてる診療室に引きずられて行って、また熱を計らされる。

今日はまだ39.1℃。

でも体感的にはだいぶゆっくり寝たせいもあってそんなに悪くない。アメリカだったら黙って働いてたけどね、これくらいなら。


昨日と同じ点滴入れられて、自分より死にそうな顔した研修医を見張りにつけられた。


「先生、戻っていいよ?仕事あるでしょ?」

「いやもう、勉強する時間出来て有難いデス。」

「何勉強してるの?」


今受け持ってる患者に関する指導とか、覚えておいた方が良い症例と対処法とか、研修医の家庭教師を暇潰しにしたら研修医には最高に感謝された。

ただ、その後2人で海崎先生にしこたま怒られた。解せぬ…。


夕方には帰るからどうしても働きたいとゴネた結果、帰る前にもう一回点滴を受けることを条件に目の届かないところはダメだと判断されたのか、たまたま海崎と席がお隣なのもあって医局で書類仕事だけは許される事となった。


昨日入れそびれたカルテの情報と、今朝海崎に見つかるまでやった分のカルテも入れて、周りの皆が溜め込んでいた事務仕事…紹介状書いたり、画像診断したり、検査伝票とか処置以外は片っ端から全部出来ることは片付けてしまう。

しかし昼前にはやる事が無くなった。

仕方ないのでタイムカードは退勤にして、病院以外の仕事に取り掛かる。


「あぁっ右京先生がいたっ!」


飛び込んできた看護師が出払った医局で右京が残っているのを見つけて安堵の息を吐いた。


「どうしたの?」

「ICUの患者さんが急変して!」

「あー…行きます。」


仕方ないよね、と自分に言い訳をして右京は立ちあがる。急いでっという看護師の後についてICUに向かう。

処置をして落ち着いたので継続点滴のオーダー、栄養関係の変更などの指示をして戻ろうとしたら次々に違う看護師達に仕事を頼まれて席に戻れたのは二時間後だ。


「お前…帰ったんじゃなかったのか。」

「あーいや、ご飯?」

「ほぉ、何を食べたんだ?」

「いや、買いに行こうとしたんだけどサイフ忘れてて…。」

「売店ならその首から下げてるIDカードで買い物出来るだろ?」

「あーそうなんだ?知らなかった。じゃあもう一回行ってきます。」

「俺も行く。」


いつから居ない事に気付いていたのか完全に疑われている。背中を押されて連れ立って部屋を出た。


「忙しかったんです?」

「昼間はなぁ…こんなもんだろ。」

「私の事見張ってなくて良いんですよ?」

「だったら無茶するの止めてくれ。」

「無茶してないってば。」


売店で豆乳を手に取る。

飲み物とおにぎり、お菓子を大量に入れたカゴを持った海崎がアイスケースの前で悩んでいる右京に追いついた。


「お前、やっぱり食欲ないんだな?」

「朝点滴入れられたからね。」

「あれは朝飯だろ。アイスは食えよ。」


圧をかけられて手に取った抹茶アイスと豆乳を取り上げられてカゴに放り込む。


「先生、別にしないと払えないよ。」

「これくらい奢ってやるわい。」

「奢ってもらう理由ないってば。むしろ私が払いますよ?」

「ちびっ子に?冗談止めてくれ。」


さっさと会計を済ませて店を出て行く海崎を追いかける。


「俺の分の事務処理までしてくれたのか?」

「先生だけのって訳じゃないですよ。」

「席に戻ったらする事なくなっててビックリしたわ。」

「それはないでしょ、流石に。」

「いや、医者って何気に事務仕事が半分だよなぁ。」


ナースステーションの前を通りかかると、さっき手伝った看護師に呼び止められる。


「先生、さっき処置してもらったやつのお願いします。」

「あーはいはい。」


保険関係の書類を渡されたので受け取ったが、隣で海崎の鋭く光った。

素知らぬ顔で行きましょう、と海崎を促すが次から次へとすれ違う看護師に声を掛けられてもはや誤魔化しようがない。


「タイムカード押してなかったか、お前。」

「タイムカード押して本当に私的な他の事してたんですよ。」

「それなのに手伝ってたら駄目だろ。」

「ほんのちょっとですよ。それに昨日とかタイムカード押さないで寝ちゃってたし。」

「損な性格だなぁ。」


席に戻ってアイスを食べていたら、隣でホットドッグを頬張りながらパソコンで何かを読んでいた海崎が手招きをする。

身を寄せると自分が昔アメリカで書いた論文記事を読んでいた。


「これ、お前の…?」

「また懐かしいの読んでますね。それ一年以上前に出たやつでしょ。」

「忙しくて読めてなかったんだよ…。」


事務仕事が無くなったお陰で読む暇が出来たらしい。

しかし一年以上前のって…どうなんだ?

 

「そんなことより、ここ…誤植?」


覗き込むとプロフィール欄に生年月日が書いてある。陰陽師のくせに本当の生年月日載せてしまったのは、弱点を晒すようなものだと一族には怒られたところだ。


「合ってますよ。」

「だって…そうしたらお前…。」


まぁ11歳ということになりますよね。

右京は口の前に人差し指を立ててみせた。

しかしその後ろを黒木先生が通りかかってチラリとこちらを見る。


「それやっぱりお嬢だったのか。」

「あれ、黒木先生も見ちゃいました?」

「俺は一年前に読んだのを覚えてただけだけどな。」


つまりは若いのを知っていて触れないでいてくれたらしい事が分かる。この記事を読めば経歴にも触れているので生年月日を見なくても馬鹿みたいに若いのは分かっていたハズだからだ。


「俺は海と違ってその前後のお嬢の論文は全部読んでるぞ。」

「はにゃーありがとうございます。光栄です。」

「なんだってんでこんな所にいるんだ?宝の持ち腐れもいいところだろ。」

「家の都合ですね。」

「あっけらかんと話すんだな。触れちゃいけないのかと思って今まで黙ってたんだが。」

「国の許可は取ってますけど、一応面倒事なんで黙っておいて頂けると有難いです。」

「大っぴらに出来る事じゃないしな。」

「黒木先生、それで納得しちゃうんですか!?」


黒木と私のやり取りに海崎は目を見張る。

黒木は肩をすくめて海崎と反対隣の自分の席にドサリと座った。


「お前だってそのつもりで今までお嬢かまってたんじゃないのか?」

「いや考えてたのとレベルが違いすぎて。」

「違い過ぎるからこそ考えたら負けだと思うがな。海はもう少し他の論文も読んだ方がいいぞ?」


ログインして事務仕事をやろうとした黒木が、仕事が片付いている事に気づいて首を傾げる。


「おい、お嬢。俺の事務仕事やったのか?最終更新者がお嬢になってるんだが。」

「あーはい。暇だったのでやっちゃいました。確認はお願いします。」

「それで海は論文を読む暇が出来た訳だな…。」

「そういう訳なんです。」

「お嬢、新しい論文ないのか?」

「ありますけど、何系です?」

「何系って、海と違ってメディカルオンラインに載ってるお嬢の名前のは全部読んでるぞ?」

「それだと結構漏れてると思いますよ。研究室の名前とか、恩師の名前とかで出してるのが結構あるんですよ。載ってないのもあるし。じゃあフォルダ作ってそこに全部入れておきますね。メールします。」


なんか秘密が1つ無くなって気楽になった。

嬉しくなってるんるんと作業している両隣で溜め息が聞こえたけど、気にしたら負けだ。


「なぁ、お前、資格取る為の学校ってどこ行ってるんだ?」

「聞いちゃいます?」

「それは俺も気になってはいたな。日本で取らなきゃいけない資格ってなんだ?」

「小学校の卒業資格ですよ…。」


嘘だろ、と黒木と海崎の声が揃った。

嘘だと思いたいのは私も一緒なんだけどな。

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