卒業式の練習
寒いというのに体育館にパイプ椅子を並べて卒業式の練習をさせられている。
卒業式の練習って必要なのだろうか?
そう思うけど、皆のバラバラな行動を見ているとまぁ、必要なのだろう。
「櫻ちゃんの行く学校の制服は可愛い?」
「結構古い学校だから世田谷の鳩って呼ばれてるらしいよ」
この学校では卒業式でこれから行く中学校の制服を着てくるのが恒例らしい。最近は袴とかオシャレをする学校もあるらしいので、お金が掛からなくて良いと思うのだが、優恵は不満らしい。
「卒業式くらい可愛い格好したかったよね!」
「制服じゃなかったら何が着たかった?」
「やっぱり袴かなぁ。可愛いスーツも捨てがたいけど!」
そもそも私は卒業式に出る必要があるのだろうか?東京大学と京都大学の方は3月末には卒業証書が自動的に送られてくるそうなのに。
正直、問題解決さえすれば義務教育なので出席日数を稼ぐ必要もない。
なんとなく日本を経験しておこうという思いと、周囲の意向が重なったので来れる日は出席しているが、仕事を優先して休んだり早退したり保健室で過ごしたりしている。
「でも別に中学校の制服って絶対じゃないよね?可愛い服着てくる子もいたりしないのかな?」
周囲に座っていた女子の何人かがぐわっとこちらを向く。恒例と言われればそれしか駄目だと思い込んでいたのだろう。
「その発想はなかった…」
「親が買ってくれるならだけどね。まぁ私は制服で良いかなって思ってるから制服で出るけど」
同調圧力にならない様に予防線を張っておく。
私が保護者に服を買って欲しいと言おうものなら、そりゃあもう張り切って買ってくれるだろう。そもそも稼ぎがあるので自分で買えてしまうし、年齢を擬態するのに適した服を買うからあまり年相応の私服は必要がない。それよりも日本に帰ってきた直後、あまり土地勘もないので服を買いに連れてって行って欲しいとお願いしたらデパート中の服を買ってくれる勢いだったのでもう二度と言いたくないのだ。
そういえば卒業式をすごーく楽しみにしている風だったんだよね。何度も日程聞かれたし。卒業式出ないなんて言ったら、きっと怒られるに違いない。秘書さんもその日は空けるように言われていると言っていたっけ…。
「あと半月かぁ…」
優恵は一人っ子でだいぶ甘やかされているから、きっと制服以外になるだろう。優恵が何人かの女子と何を着るかで盛り上がり始めた横で、カーディガンの袖を伸ばして冷たくなった手をそっと擦った。