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帰国

「あ〜異世界転生しちゃったらどうしよう!?」


今流行りのラノベを抱きしめて優恵ちゃんがうっとりとする。

そんな優恵ちゃんを尻目に、私は目の前に積み上げられたラノベを一巻から順番にパラパラ漫画の様に捲っていく。


「11歳で異世界転生しても大変なだけだと思うけどね?」

「夢がないこと言わないで!」

「まぁそこはチートスキルが付くのがお約束だから問題ないんじゃないかな」

「だよね〜どんなチートスキルがいいかなぁ」


・・・異世界転生ねぇ。

別にいいことなんて特にありませんけど?

なんなら私、月から転生してきた異世界転生者なんですけどね。

これと言って役に立つこと・・・ないと思うんだけどなぁ。

私は優恵ちゃんの話に適当に相槌を打ちながらこっそりとため息をついた。


某美少女戦士が結構いい線いってるね、というか、私と同じ転生者が描いてる?って思うくらいで、特に恩恵らしきものがない。

霊力が強いってのはあるけど、科学の発達した現代日本で特に使う必要もない。


ただ、チート能力は確かにある。

霊力が強いせいか、結構特殊なお家に生まれたせいか、月からの転生者の私には何故か神様?が憑いているのだ。

神様は1000年くらい前から日本に当番制で降臨しているらしくて、それ以前の記憶は分からないんだけど、降臨している間の記憶は全部、そりゃあもう読んだ本の一言一句レベルで全部覚えているので、精神年齢的にはこちとら400歳くらいな気がする。完全記憶HSAMってやつか?カメラアイ?

私にとっては外部記憶装置みたいなモンだけどその能力は引き継がれている。


おかげで学校の勉強なんて鼻くそ見たいなモンだよね。

歴史教科書の方が間違ってると、あぁ違うよ!これ違う人の写真だから!ってツッコみたくなるし、間違ってる教科書の方を覚えなおさないとテスト的には間違いなのでそこは面倒くさい。ただ、こうして教科書もペラペラ捲るだけで写真みたいに脳内に記憶されるのでテスト中は該当ページを思い出してズームアップをするだけでいいのでそこまで手間でもない。


果たしてこんだけ知識も能力もあるのに小学校から通う必要があるのか、と思うところもあってずっとアメリカの有名大学を何個かWスクールかつスキップしまくって医師免許までゲットして医師としてERで働いていたのだが、特殊な家庭環境のせいで日本に帰らざるをえず・・・泣く泣く帰国したばかりなのだ。


あぁもう少しアメリカで経験積んでいたかった!

アメリカの救急医、日本ではただの小学生、ですよ。そりゃあね。


中学入学までには日本に帰ってくる、というのが条件で留学させてもらっていたのもあって、日本の中学受験目前に帰国させられたわけだ。

受験は家から近い新御三家である私立の中高一貫校を1校だけ受けて見事合格したので、それ以外は受けていない。普通の中学受験ならば2日目校として最低でも2校受けるのが基本的だろうが、面倒くさいから1校で十分だと言った私に特に保護者も否は唱えなかった。まぁこちとらアメリカの大学をいくつも最優秀の成績で卒業しているのだから小学生の勉強で躓くとは思えないという考えの元なのか、最悪、特殊なお家事情というやつでどこかしらに潜り込ませるつもりだったのかは聞いてない。


ちなみに日本の医師国家試験も『特殊なお家』の力でこっそり受けさせて貰った。日本の医師法3条 絶対的欠格事由で未成年は医師になれないんだけどね。

ちなみに満点だったらしい。


とにかく、受験も終わって春までは暇な私はとりあえず小学生をしている。

ただし、微妙に学区外の遠い公立小学校に通っているのにはそれなりの理由があった。


「ねぇねぇ、知ってる?最近夜になると音楽室からピアノの音が聞こえてくるんだって」


沙織ちゃんが何人かの女の子を引き連れて今仕入れたばかりらしい噂話を広めにやってきた。


「先生が練習してるんじゃないの?」

「違う、先生もほとんど帰った夜に、くらぁーい音楽室から聞こえてくるらしいの」

「誰が聞いたの?」

「職員室に残ってた先生たち」

「用務員さんも聞いたっていってたよ」


こわーいってキャーキャー言い合っているけど、どこら辺が怖い話なのかがよく分からない。


「誰か確認に行ったの?」

「見回りの先生が行ったらしいけど、誰も居なかったって」

「鍵も職員室にあったし、見回りの先生が音聞いて確認行ったら鍵閉まってたらしいよ」

「密室殺人ってやつだ?!」

「死んでない」


頭良いことを言った風におバカな発言をした優恵ちゃんについ冷静にツッコミを入れてしまった。


うーん、失敗失敗。

その学校の七不思議的ピアノ幽霊の犯人は私だ。でも一回だけのはずなんだが?


やいのやいの言ってる間に先生が来てしまって話は途中で終わってしまった。

沙織ちゃんが他にも聞いた話があると言っていたので、どちらかというとそっちの方を聞きたかったんだが結局聞けず仕舞いだ。

今更な小学六年生の授業を上の空で聞きながらぼんやりと雲が流れていくのを眺めていた。そう言えば転生って一回死ななきゃ駄目なんだよ?ってツッコむべきだったかな?



「じゃあね、また明日〜」

「バイバイ」 


方向の違う生徒達に手を振って方向が同じ優恵と歩き出してすぐに私は足を止めた。


「櫻」


ガードレールに寄りかかっていた少年が私に気づいて手を軽く振りながら立ち上がる。


「忍」


つい足を止めた私に優恵も足を止めて声をかけた方に視線を向けて目を輝かせた。


「超イケメン!さくらちゃん、誰!?」

「えーと、お兄ちゃん?」


つい、眉間に皺が寄る。

そんな私にお構いなしににこりと笑って少年が近づいてきた。


「迎えにきた」

「なんで」

「迎えに来いって言ったの自分だろ?」

「忍には頼んでないってば」


小声でやりとりしていると隣からずいっと優恵が身を乗り出してくる。


「こんにちわっ!私、さくらちゃんの友達で、中島優恵って言います!!」

「こんにちわ、優恵ちゃん。櫻と仲良くしてくれてありがとう」

「はいっ!私、さくらちゃんが転校してきた時、1番に声かけたんですよ!」

「そうなんだ。これからも仲良くしてやってね」

「まかせてくださいっ!」


忍の爽やか笑顔にコロッと騙されて優恵が目をキラキラと輝かせている間に忍が私の腕を掴んで引き寄せる。あと数ヶ月なので買わなかったランドセルの代わりのザックをするりと下させて私の肩を抱く反対の腕にショルダーストラップを通すと優恵に向かって軽く手を振った。


「じゃあ、車待たせてるから、またね、優恵ちゃん」

「はいっ!またね、さくらちゃん!」

「ま、またね・・・」


背中を押されて少し先に止められていた車に押し込められると車はすぐに発進した。



「・・・なんで来た」

「酷い言い様だな。来られて困ることでも?」


じろりと睨んだ私に忍が苦笑しながら肩をすくめる。


「こっちの仕事には関わって欲しくない」

「迎えに来ただけだろ?」

「ターゲットに接触してる時点で少なからず関わってるじゃないか」


むぅと口を尖らせると少し気まずそうに私の頬に手を伸ばして触れた。


「ごめん。せっかく日本に帰ってきたのにほとんど家に居ないから心配だったんだよ」


親指を動かして頬を撫でる手を私はぐぃと押しのける。


「毎朝一緒にご飯食べてるでしょうが」

「普通は夕食も一緒に食べるもんだよ?」

「我が家は普通ではないので」

「我が家は、割と普通だとは思うんだけどね」


ふぅと小さく諦めたように息を吐いて、私がかけていたビン底みたいな眼鏡を取り上げる。

丁寧に折り畳むと、勝手にザックを漁ってメガネケースを探し当てるとそれにしまって再びザックの中に放り込んだ。


「こんなのしてて目が悪くなったらどうするんだ、まったく」


そう言って今度は私のおさげを一本掴むとするりとゴムを解いてしまう。

サラサラと三つ編みが一部解けていく。

掬う様にして根本から三つ編みを解くと反対側も同じようにした。

上から何度か撫で付けるように頭を撫でると満足したように笑う。


「おかえり、お姫様」

「むしろこれからが本番なんですけどね」

「今日は随分とご機嫌斜めだな」

「儘ならない現実を憂いているだけですぅ」


いつの間にか窓の外の景色は住宅街から高層ビルが立ち並ぶオフィス街へと移っていた。

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