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「保健室におっさんは似合わない」第一話 ベッドで寝ると死んじゃう病気  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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幕間その1 ルサンチマンの逆流~篠宮亘の供述~

今回は、篠宮の一人語りです。

 警視庁公安部第五公安捜査第11係主任の調査メモより。


 あなたが公安の刑事さんですか。ああ、総務の主任さん。

 よろしくお願いします。

 はい。篠宮亘です。三十三歳。東京都出身です。

 仕事ですか? 一応医者です。


 勤務先は、特にないというか、フリーランスの内科医です。

 笑ってますね。まあ医者としては非正規のバイトですよ。

 それと、アドバイザーしてます。そっちが本職ですね。


 例の教団のことですよね。

 お話しますけど、その前に、司法取引したいんですよ。

 わたし、いくつか違法行為してます。それを見逃して欲しいので。


 出来ますか? ああ、違法の内容次第ね。

 ええと、霊感商法とでも言うのか、浄化した布団とか、ブレスレットとかを販売してました。

 効果は、あると言えばあるし、人によりけりです。

 でも結構高い値段付けていたので、クレームはたまにあります。


 そうですか。今回に限り、見逃してもらえるんですね。

 ありがとうございます。


 教団に関わったのは、直接は私の母です。

 はい。篠宮啓子。今年で、還暦かな。母の住所ですか? 都内かな。現住所は知らないんです。

 あ、今野さんという方に、お世話になっているみたいです。


 教団に入信するきっかけは、多分父と母の関係が、上手くいってなかったからです。

 わたしが小学生の頃は、もう父は家にいませんでした。

 父ですか? 篠宮徹。とおるは、徹底のていの字。

 さあ、生きているのかどうか……。


 今から二十年以上前の話です。

 父がいなくなって、母はパートを始めましたが、生活は苦しかったですね。

 わたしは学校の給食で、命を繋いでいましたから。いや、冗談抜きで。


 母はパート先で教団に誘われて、なんですかね、修行? みたいなものに、のめり込んでいきました。そうそう、火の神と一体化したら、人類は救われるとか言って。

 元々、母は勘が鋭いっていうのか、普通の人には見えないもの、聞こえないものを察知することが出来たようで、すぐに教団の幹部の人に認められたそうです。


 母が教団を離れたのは、教団の教祖に愛想が尽きたから、と聞きました。

 けど、多分、教祖の愛人が、母の他にもいたからではと、わたしは思っています。


 そうですね。母は母親であるより、女でありたい人でしょう。

 今なら、まあ、分からなくもないですが。


 教団を離れた母は、霊感占い師を生業としました。

 それなりの収入はありましたが、裕福になったわけではない。

 私も高校からは住み込みで新聞配達のバイトを続け、大学まで行きました。

 大学は寮に入り、母とは離れました。


 音竹とは、高校時代に知り合いました。

 彼が結婚したと聞き、ああ、大学時代の彼女かと思ったら、彼女の妹だったのには驚きました。

 そんなにいい加減な奴じゃ、なかったんですけどね。

 音竹の新居は、ホント偶然ですが、母の住まいと近かったのです。


 音竹の葬式で、樹梨、樹梨さんと知り合って、幼子を抱えた樹梨さんに同情しました。

 いつしか物質的にも精神的にも、彼女を支えるようになった。

 わたしも医者になって、いくらかは生活に余裕が出来ていましたし、シングルマザーの厳しさはよく分かっていたので。


 音竹の家に通うようになり、時々は母の顔を見に立ち寄りました。

 大きなロウソクを立て、相変わらず怪しげな占師稼業。

 樹梨さんが占いして欲しいと言ったので、母に会わせました。


 火事のアリバイ作りは元々、火災保険を取ろうと思って考えていました。

 樹梨さんから、死んだ音竹の保険金が、結構な額だったと聞いて思いついたのです。


 教団のロウソクなんて、一本五、六十時間燃えています。

 そして、複数本のロウソクの火が合わさると、業火のような炎になる。

 母がよく使っているロウソクも、二時間以上燃えている。

 バルーンを使って、何回か練習もしました。

 それで、誰かに協力してもらえれば、可能じゃないかと判断しました。


 


 母は週に一度、街角で占いをやっていました。

 あの日は、母が部屋にいない曜日だったんです。


 そう、合い鍵で入ったら、部屋に母がいました。

 世間話でお茶を濁して帰ろうとしたら、母が言ったのです。


『樹梨、って言ったっけ。あの娘は止めなさい』


 何でと訊くと、アレは愛人の人相であって、良妻になれる顔ではない、と。


 わたしはつい、カッとなって言い返しました。


『それじゃあ、あんたと一緒ってことか!』


 母は一瞬驚いた顔をして、目を伏せて言いました。


『そうだね。あんたなんか、産むんじゃなかったって、ずっと思っていたもの』


 私は母を殴りました。

 母は壁にぶつかって、動かなくなったのです。

 わたしは震えました。

 医者なのに、心肺蘇生や救急処置を考えることなく、その場から一旦逃げようとしました。


 逃げても、行く場所なんてないのに。


 わたしは、当初の計画を遂行しようと思いました。

 母の死体も、燃やしてしまえば良いと。


 ああ、自分語りが長くなりましたね。

 教団の情報ですが、わたしのセミナーに来ているメンバーの中で、教団の元幹部と一緒に生活している人がいます。


 教団のナンバーツーだった男が、改造銃だったか自作銃だったか、ともかく火薬とか鉄パイプを手に入れて、銃を作ろうとしていると、笑って話してくれました。

 この情報、ご存知だったでしょうか。

篠宮「母の言う通り、樹梨は妻向きの女じゃなかった。取柄は顔と体だけ、か」

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