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族長の回復と作戦会議

登場人物

ライル:精霊使い。黒髪の華奢な男性。称号『暴発乱舞ぼうはつらんぶ

ユイナ:豹族の獣人。真紅の髪と瞳を持つ女性。称号『くれない

フラウ:アルマジロ系獣人。金髪に緑の瞳の女性。体の一部に鱗。称号『月ノ環(つきのわ)

以上3人のパーティ名:『紅月こうげつまい

ポルゴ:タヌキ獣人の男性。美味しい食材を求め同行する料理人

ユイト:ユイナの兄。次期族長

ヒルド:ユイナの同族の戦士長

族長 :ユイナの里の族長。ユイト,ユイナの父

ターミャ:虎族の獣人。イエラガ男爵の第3夫人の娘

精霊達

シズク:泉の妖精。分身なので力は0

プーカ:闇の精霊、黒山羊の可愛い姿


 ユイナ達が急いで族長が伏せっている自宅に向かい、族長が横たえられている寝室に入ると、族長は手足の骨が砕け、脇腹には穴が開いているような状態であった。


 詰めていた司祭と母に症状を確認すると、意識はなく一進一退の状況が続いており予断を許さないとの事だったので、その場にいるメンバーで確認し、直ぐにエクスポーションを使ってみることにした。


 ユイナがエクスポーションを降りかけると、手足の骨や脇腹の穴を含めて外傷が見る見るうちに治っていき、土気色だった顔に赤みが戻っていった。



 しばらくすると、族長がうっすらと目を開け、手が動くことに驚き、

「これはどういうことだ?」

としわがれた声で尋ねた。


 ユイトが状況を説明し、ユイナが族長の視界の前に姿を現すと、ユイナを見た族長はしばし絶句した後、

「何帰って来ているんだお前は……それにこの薬はこれからお前達に必要なもののはずだろう。わしの様な老いぼれに貴重な薬を使って、この馬鹿者が……」

と言って族長はユイトとユイナを睨んだのだった。

「あなた、やってもらったのに…」

と母が口を挟もうとしたが、それをユイトが抑えて、

「親父、この状況を乗り越えるために僕では力不足だったから、ユイナを呼んだんだ。

 薬もユイナが持ってきてくれたもので、確かに先を考えて一人二人が生き延びるためには自分達のために薬を取っておいた方が良いのかもしれないけど、この状況を仲間をできるだけ守り抜いて乗り切るためには親父の力が必要なんだ。

 やっぱり部族の人達は親父の力を頼りにしているし、居ると士気も上がる。だから僕は親父を治すのが一番と思って選択した。

 この判断に親父を大事に思う気持ちは多少含まれているとは思うし、甘いかもしれないけど、判断は間違えてないと思うし、それに僕は、部族のみんなを第一に考えた族長になりたいんだ!」

と毅然とした口調で言い切った。そしてユイナは

「そういうことだにゃ、親父。老け込むにはまだ早いし、もう帰ってきたし使ってしまったんだから、早く体調整えて、戦線に復帰してくれにゃ。」

と言ってにゃははと笑ったのだった。



「…ちっ、言うじゃねえか。分かったよ。じゃあ今から作戦会議を始めるぞ。ぐっ…」

族長はそう言うといきなり起き上がろうとした。


「さすがにまだ無理だにゃ!」

 これには周りが抑えようとしたが、族長は

「うるせぇ。いつ攻めてくるか分からねぇんだから……、儂が何をやられたのか一刻も早く伝えねばならん。…儂を集会所に連れていけ!」

と息も絶え絶えの状態にもかかわらず、吠えていた。


「族長様、それでは私が肩を貸しましょう。」

そう言って族長の傍に膝をついたのは、何とターミャであった。

ターミャは流れるように族長の腕を肩に担ぐと、

「それでは行きますよ~。せーのっ!」

と言って、族長の体を引き上げた。


 周りがあまりの事に固まる中、族長は朦朧としながらも動き出さない周囲を訝しみ、肩を貸してくれた相手を見た。


(……えっ?)


一度目をつむり、もう一度見た。

「えぇ!?ターミャ様!?」

「はい、ターミャです。豹族の皆さんの危機をお聞きし、参上しました。共に頑張りましょう!では集会場まで行きますよ!」


「ええぇ!!ちょっと待っ!」

目を白黒させ慌てる族長に対し、

「確かに片側だけではバランスが悪く族長様の負担が大きいですね。誰か反対側に。」

とターミャが言うと

「では不肖ながら、私が。族長様、自分のことより情報伝達を優先されるお姿に感服しました。さすがユイナの御父上ですね。私はユイナのパーティーメンバーをさせて頂いているフラウという者です。宜しくお願いします。」

そう言ってスッと反対側から族長の肩を支えたのはフラウだった。


「だから何で女性なんだ!何よりユイト、なぜターミャ様がこちらに!?ターミャ様、貴族の女性がこのようなことなされては…!!」

そのまま家を出て部落の中を運ばれそうになった族長が更に慌てる中、

「本人も忘れてると思うけど、フラウも一応貴族だにゃ~」

とユイナが言うと、族長は白目をむいたのだった。



 ターミャを説得して、何とか運搬を男性に代わってもらった族長が集会場に着くと、見張りを残して戦える者達に集合をかけ、集まってもらった。

 続々と集会場に集まった者達は、族長が座っている姿を見ると驚き、その後嬉しそうに気合を入れ直し、士気を高めたのだった。


 戦士があらかた集まると族長が、イタチ族の族長と相対した時の様子を話し始めた。


「そうだな。まず最初は相談したいことがあるとイタチ族の者に言われ、警戒するような相手でもなかったし、いつものように伝令役のデンジを一人連れて馬に乗って二人で向かったのだが……不確かな記憶で申し訳ないが、族長と話している時に奴の目が赤黒く光ったような気がしたら、いつの間にか外に出て、どこかに連れて行かれようとしていたのだ。

 その時何か当たったような気がして我に返ると、伝令役のデンジが遠くで手をこちらに伸ばして倒れながら必死にこっちを見ていた。目が合うとデンジはニヤッと笑ったあと力尽きたように上げてた顔を下ろしたのだが、おそらくアイツが石でも当ててくれたのだろう……。

デンジのおかげで意識を取り戻したのだが、その後直ぐに何らかの術を受けたらしく、幻覚が見え、体が痺れたような状態になってしまった。

 それでも何とか周りのイタチ族を蹴散らしてデンジを抱き起し、馬に載せたのだが、そこでイタチ族の族長が出てきた。

 奴は禍々しい漆黒の捻じれた槍のような武器を持っていた。その姿に不穏な雰囲気を感じた儂は、脱出をするためにデンジを乗せた馬を走らせ、儂も馬に乗ろうとしたのだが、奴の槍が三つ又に分かれ刺し穿とうと伸びてきた。儂は生き物のように伸びるその槍を躱して馬に飛び乗ろうと、馬の方に向かって跳んだのだが、体の痺れで動きが遅れてしまい、槍が足をかすめて足を砕かれてしまったのだ。

 それでも何とか馬にしがみつき、そのまま馬を走らせたのだが、再度槍が頭と胸と腹を狙って伸びてきてな。頭と胸に来たのは腕を犠牲にして防げたのだが、腹は防げず貫かれてしまった。馬から落とされる前に腹に刺さっている槍を肘で叩き折ることはできたのだが、槍の穂先は幻のように消えちまいやがった。

 満身創痍になりながらどうにか逃げきろうとした儂が奴を見ると、奴は追いかけるそぶりも見せず笑っていた。逃げ延びたところで先はないと思っていたのかもしれんが、小心者でこちらの顔色ばかり窺っていたイタチ族の族長とはとても思えなかったな。

 あとは、馬が何とか部落まで辿り着いてくれたという訳だ。

 …そういえばデンジはどうなった?……そうか、一命は取り留めて療養中か、良かった。

 うむ、儂が伝えられるのはこれくらいだな。」


 デンジが助かったのを聞きホッとした表情を見せた族長が話終えると、今までイタチ族と戦った者たちも口々に、幻覚が見え体が痺れたような状況になったことや、イタチ族の族長が漆黒の変幻自在の武器を持っていたことを報告した。


 俺も俺もと騒ぎが大きくなってくると、族長が

「そこまで!!」

と騒ぎを収め、

「痛てて…、大声出すと腹が痛てぇわ。こちら側の戦闘でも同様の症状で苦しめられているのは良く分かった。ここから先はユイトに任せる。」

とユイトを見た。

ユイトは、

「相手の手の内は分かってきたので、ここからは対抗策となる。意見がある者はいないか?」

と周りを見渡した。


 するとユイナが「良いかにゃ?」と手を挙げて注目を集め、ユイトが頷くのを確認したあと、

「幻覚や体の痺れについては、おそらくドリアードの術ということは分かっているにゃ。」

と言った。

 それを聞いた戦士たちは「本当か!?」「なぜあの温厚な種族が!」「関係が悪くなるようなことは何もないぞ!」「でも確かにあの術は…」とがやがやと騒ぎ出したが、

ユイトが

「静かに!!……ユイナ、確証はあるのか?」

と言うと、場が静まり再度ユイナに注目が集まった。

そこでユイナが、

「実はここに戻ってくる森の途中で、他のドリアードから、この近辺にいたドリアードが無理矢理操られているみたいで救出を頼まれたにゃ。だからかなり確率は高いと思うにゃ。

 あとその依頼を受けた時にドリアードから樹液を貰ったから、それを使ってフラウとポルゴが術への対抗薬を作ったにゃ。これを使えばドリアードや植物系の魔物の術は防げるし、操られているドリアードを正気に戻し救出するのは私達が受け持つにゃ。」

と言うと、戦士たちも納得するような表情を浮かべ、「あの幻覚や痺れがなくなるなら助かる!」「これで戦える!」と意気が上がっていった。


 この間にライルが闇の精霊のプーカに族長の話の内容を確認すると、いつの間にか外に連れ出されていたのは闇の魔法の可能性が高いと思うけど、戦闘中だと余程油断していない限りかかりにくいとの事だった。

 あと、念のためここにいる人達に闇魔法の干渉を遮る魔法を使えるか聞くと、軽めのものならライルの影で5,6人まとめてかけることができるとの事だったので、それをユイナに伝えた。


伝え聞いたユイナはもう一度手を挙げると、

「今ライルに聞いたら、族長が外に連れ出されそうになったのは、闇の魔法の可能性が高いらしいにゃ。戦闘中で気が張っていればかかりにくいみたいだけど、ライルが軽めのもので良ければ闇の魔法にかかりにくくする魔法を使えるので(姿を消しているプーカだけど)、希望者はかけてもらうと良いにゃ。ちなみに5,6人まとめてかけることができるのと、私達は既にかけてもらっているにゃ。」

と言った。


 戦士たちは防げるのはありがたいと思いながらも、初めて会ったライルにかけてもらうのを躊躇していた。すると族長が

「ならまず儂にかけてくれ。二度と操られるのはごめんだしな。

 それにこの危機的状態を分かっていながら来てくれたユイナのパーティーメンバーが良かれと思うことを拒否するつもりはない。だからといって皆に強制するつもりもないし、判断は個人に任せる。まぁ儂は元々ユイナ達が帰って来なければ動くこともできなかっただろうからな。儂の体で試してもらって、皆はその様子を見てから判断すれば良い。」

と言ってニヤリと笑った。

 その言葉を受けて、ユイトが

「それならば族長に問題がなければ私も受けよう。」

と言った。


 そうして皆が注目する中、族長の元にライルが近づき、手をかざして闇魔法の干渉を遮る魔法をかける真似をした。するとプーカがタイミング良く魔法を発動し、ライルの手の先に黒く光る球形のものが現れ、族長に吸い込まれると、族長を闇のベールが覆ったあと透明になっていった。体の状態を確認した族長が、

「うむ。効果の程は分からぬが、問題はなさそうだな。ちなみにこれはどれくらいもつのだ?」

と問題なさそうなことを示して、効果時間をライルに尋ねていた。

「だいたい一日くらいですね。」

とライルが答えていると、ターミャが

「効果の参考になるかわからないけど、私は念入りにかけてもらってて、来る途中にイタチ族の近衛隊長に“来た道戻れ”って暗示かけられたっぽいんだけど、大丈夫だったよ。自覚はないけど、近衛隊長は驚いていたよー。」

と補足していた。


 その様子を見ていた戦士たちは納得したのか、続々とかけてもらいにライルの方へ近づいてきた。指揮官のユイトにかけるのは、個人差や時間差の不具合も考慮して念のため最後にすることにして希望者を募ると、結局全員が受けることにしたのだった。


 そうしてライル(プーカ)が、魔法を順番にかけていっている間に、ユイナ達が

「イタチ族の族長の変化とやばそうな武器への対策は難しそうだな……そのまま当たるしかないかな~」

と話していると、集会場の入り口の方から騒がしい音が聞こえてきた。

 皆が何事かと注目すると、

「イタチ族が攻めてきた!!」

と言って門の見張りが駆けつけてきたのだった!



お読み頂きありがとうございます。

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