帰還
登場人物
ライル:精霊使い。黒髪の華奢な男性。称号『暴発乱舞』
ユイナ:豹族の獣人。真紅の髪と瞳を持つ女性。称号『紅』
フラウ:アルマジロ系獣人。金髪に緑の瞳の女性。体の一部に鱗。称号『月ノ環』
以上3人のパーティ名:『紅月の舞』
ポルゴ:タヌキ獣人の男性。美味しい食材を求め同行する料理人
ヒルド:ユイナの同族の戦士長
ユイト:ユイナの兄。次期族長
ターミャ:虎族の獣人。イエラガ男爵の第3夫人の娘
精霊達
シズク:泉の妖精。分身なので力は0
プーカ:闇の精霊、黒山羊の可愛い姿
「止まれ!」
と言って槍を手にして取り囲んできたイタチ族に、ひとまずターミャに付いてきた騎士が
「我らはイエラガ男爵の視察団である!お前達、イタチ族と見受けるが、我らの行く手を阻み敵対するつもりか!」
と恫喝した。
すると、一際大きな槍を持ったイタチ族が
「騎士鎧を着ているからと言って、男爵家かどうか分からぬ。野盗が盗んだ鎧を着ているだけかもしれぬしな。我らはこの先にネズミが入らぬように張っているのだ。荷を検めさせて頂こう。」
と言ってズイッと一歩踏み出してきた。
一気に緊迫感が増し、一触即発な雰囲気となる中、
「何事ですか?」
と凜とした声が馬車の中から響き、場の空気を押し留め制圧したあと、ターミャが姿を現した。
部落へ続く道を閉鎖している一際大きな槍を持った者は、イタチ族の近衛隊長で、ターミャは前回のユイナの豹族の部落を訪問した際、ついでに寄ったイタチ族の部落でこの者を見かけたことがあった。
「私は、イエラガの娘のターミャである。お主はイタチ族の族長の側に付いておった者ではないか。此度は如何した?」
ターミャが堂々とした態度で問いかけると、イタチ族の近衛隊長はウッと唸ったあと、
「これは大変失礼致しました。しかしこの先は今、非常に危なくなっております。ターミャ様の身に何かあっては困りますので、ここで折り返して帰られた方が良いかと思います。どうぞ今来られた道をお戻りください。」
とターミャに目を合わせ、元来た道を指差して、念を込めるような口調で語ってきた。
しかしターミャは
「ふむ。しかし私はこの先の豹族の部落に用事があるのでな。通らして貰うぞ。」
と言って、馬車に合図を送り、前に進みだした。
これにイタチ族の近衛隊長とイタチ族は面食らったように固まり、進路にいた近衛隊長はハッとして慌てて脇に下がりながら
「お待ちください!」
と声をかけていた。
だがターミャやユイナ達の馬車は止まらず、
「私の安全を思っての言葉と思うが、騎士もいるのでお主らが気に病む必要はなく、問題ない。では忠告ご苦労であった。」
と言ってイタチ族の間を堂々と通り抜けていった。
イタチ族から十分に離れたあと、ターミャが
「ふわぁ~~!緊張した~~!!」
とへなへなと脱力した。
そんなターミャを
「ターミャ様凄かったにゃ!」
「さすがです!」
とユイナ達が褒め称え、それを聞いたターミャが
「うん、ありがとう。役に立てて良かった~。」
と安堵の微笑みを浮かべ、皆で妨害の突破を喜びながら部落へ向かった。
そんな中シズクが、
「プーカよ、あれは術をかけられていたのか?」
とプーカに確認すると
「うん。最初ターミャさんに向かって強めに、後で慌てて全体に暗示をかけてた。」
と闇の魔法が使われていたことを教えてくれた。
「やはりの。あいつらが固まっていたのはそれでか。プーカ、でかしたぞ!」
とシズクが褒め、それを聞いていた周りもプーカを褒めて、フラウ達がなでなですると
「えへへへ~♪」
とプーカが嬉しそうに目を細めていた。
一方イタチ族の近衛隊長はターミャ達を唖然として見送ったあと、(まさか術が効かないとは……貴族には何か抵抗手段が備わっているのか?とにかく不味いことになった。直ぐに族長に報告して判断を仰がねば。)と考え、
「直ぐに族長に報告に向かうぞ、二人俺に付いてこい。残りは引き続き、ここと豹族の部落の見張りを続けろ!」
と命令を下して、族長の元へ出発したのだった。
・・・
ユイナ達はその後ついに、ユイナの故郷である豹族の部落の門にたどり着いた。
門の見張りが久しぶりに来た馬車に驚き、警戒しながら注視すると、その馬車にはイエラガ男爵家の家紋が掲げられているのが見て取れ、中からターミャが現れた。ターミャの登場に見張りが驚いていると、さらに角度的に門からしか見えない馬車の奥にユイナと救援要請に向かった戦士長のヒルドが笑顔で姿を現したのだった。
これに見張りは驚きと喜びで「うぉえぇっ!」と若干変な声を上げながら大急ぎで門を開けて、馬車を迎え入れた。そして感極まって泣きそうな笑顔で歓迎すると、次期族長でユイナの兄であるユイトの元に知らせを走らせたのだった。
馬車が部落の中を進み、大広場まで入って来る頃には、かなりの数の豹族の人達が、騒ぎを聞きつけ集まってきていた。そして物資を乗せた馬車とターミャの姿を見て歓声を上げていた。更に馬車が広場に隣接した集会場の前に止まり、馬車の中からヒルドに続いてユイナが姿を現すと、割れんばかりの大歓声が巻き起こったのだった。
集会場の前にはユイトが既に立って待っていた。ユイナが久しぶりに見るユイトは、傷がついた鎧を身にまとっており少しやつれているように感じられた。
歓声が幾分収まったあと、ユイトが
「この苦しい状況によく来てくれた、かたじけない」
と駆け付けてくれたメンバーに対し頭を下げた。
そんなユイトにユイナが
「ヒルドから話を聞いてどうなっているかと…。無事な姿が見れて、間に合って良かったにゃ。」
と言って近づきハグを交わした。
「折角名を上げてこれからという時に呼び戻してすまない。私では力不足でどうにも打開できず、ユイナに頼るしかなかった……。来てくれて部落の中にも活気が戻った。さすがユイナだ。」
そう言うユイトに対しユイナは、
「水くさいにゃ、兄貴。兄貴に頼りにされるなんて、最高だにゃ。もし気を遣って黙っていたら逆に許さなかったにゃ!」
と言ってユイトの肩を小突くと、声のボリュームを上げて、
「それに親父が倒れるような状況でも耐えていれたのは、兄貴と部落の皆に力があったからにゃ。私も一人では大したことないけど、名を上げれたのも、ここに無事に辿り着けたのも一緒に来てくれた仲間のおかげだにゃ。最高の仲間を連れてきたにゃ。そこは期待してくれて良いにゃ!」
と言ってユイナが自分の後ろにいる仲間を腕を広げて示すと、周りで見ていた豹族の人達がまた大歓声を上げたのだった。
そうしてユイナが
「こちらが『紅月の舞』のメンバーで、『暴発乱舞』のライルと、『月ノ環』のフラウだにゃ。フラウは薬剤師としての知識もあるにゃ。こちらは料理人・御者・調合士として同行してくれているポルゴだにゃ。」
と紹介すると、ユイトがそれぞれと言葉を交わしお礼を言って握手していった。
「さらにイエラガ男爵の所から、みなさんご存知のターミャ様と騎士4名が来てくれたにゃ。」
とユイナが紹介すると、
ユイトはターミャの方に近づいてひざまずき、
「ターミャ様、外部と隔離されている中、物資を持って駆け付けて頂きありがとうございます。今回して頂いたこと、そしてその勇気と心意気を私たちは決して忘れず、今後何をおいてもターミャ様に報いたいと考えております。」
と頭を下げた。
そして、
「……ただお気づきだと思いますが、状況は非常に悪いです。今ならまだ戻……」
と危険が及ぶ前に脱出して頂こうと言いかけると、
「戻って逃げろなんて言ったらぶん殴るからね!」
と鼻息荒く胸を張ったターミャに遮られたのだった。
驚き目を見開いたユイトが
「しかし……」
となおも言いかけると
「兄貴、ターミャ様は命の危険も承知で、覚悟を決めて来られているにゃ。それ以上は失礼にゃ。」
と止められ、
「ふふふっ、ユイトさんと豹族の皆さんを助けるために私は来たんだから。任せなさい。ほら立って。」
とターミャに腕を引っ張られて立ち上がらされ、
「じゃあとりあえず集会場の方で宜しいでしょうか?」
とそのまま腕をぐいぐいと引っ張られて連れていかれ、目を白黒させていた。
それを見た周りは(これは尻に敷かれるな。敷かれるにゃ。)と生温い目で見守っていたが、
「あ、その前に親父の容態はどうにゃ?エクスポーションを持ってきたにゃ!」
とユイナが言って、族長の所へ急いで向かったのだった。
・・・
その頃イタチ族の近衛隊長は、イエラガ男爵の娘のターミャが闇魔法の暗示にかからずに豹族の部落へ向かったことを族長に報告し終えていた。
なお、報告途中に激怒した族長から蹴り飛ばされたため辺りに血が飛び散っていたが、近衛隊長は耐えてひざまずいたまま、指示を待っていた。
族長はしばし瞑目した後、暗血色に底光りする目を見開くと、
「今から攻め込み男爵の娘ごと殲滅するぞ!」
と聞く者の心胆を寒からしめる声で怒鳴った。
「それは……貴族を手にかけるのですか?」
近衛隊長が確認すると
「部落に行ったのなら現状が分かるだろう。外に漏れる前に豹族ごと完全に潰し、豹族のせいにするか、判別がつかないようにする。森に火をかけても構わぬ!即刻準備せよ!」
と怒鳴りつけた。
「っ!……ははっ!」
森に生きる者にとって、森に火をつけるのは最も重い禁忌であった。通常であればどんなに強権を持つ者の命令であっても、貴族に手をかけ火を放つという、部族間の紛争レベルをはるかに超え国中から追われるような指示を聞く者はいないはずであったが、近衛隊長をはじめとしたイタチ族はいつの間にか族長の命令を拒めないようになっていた。
ただこれから先は部族の存続をかけた戦いになるという凶器じみた覚悟が近衛隊長やイタチ族の戦士の胸のうちに生まれていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




